2020年3月に62歳で急逝した佐々部清監督が最後にメガホンを取った映画「大綱引の恋」が、5月7日(金)から全国で公開される。

鹿児島・薩摩川内で400年以上にわたって続く一大行事「川内大綱引」を題材とした今作。「川内大綱引」に青春をかけるとび職の青年・有馬武志(三浦貴大)と、韓国出身の研修医ヨ・ジヒョン(知英)との恋愛や、それを取り巻く家族模様を描く。

「佐々部監督の作品にずっと出演したかった」と話す比嘉愛未は、武志の妹・敦子を好演。佐々部監督との撮影の思い出や、役を通して感じたことなどを語ってもらった。

■佐々部監督は「人間愛がすごい方でした」

――出演のオファーを聞いたときの心境を教えてください。

この作品の前に「本日は、お日柄もよく」(2017年、WOWOWプライム※全4話)の連続ドラマの主演を務めたことがあり、その時が佐々部監督との初めての出会いでした。でも、佐々部監督は映画監督なので、映画の方にもいつか呼んでいただけたらなと思っていたら、すぐに直接声を掛けていただけたんです。私は二つ返事で「お願いします」と喜んでお受けしました。

――佐々部監督はどんな方でしたか?

とにかく映画に懸ける愛情が深いのと、人間愛がすごい方でした。現場での立ち振る舞いだったり、一人一人に対しての向き合い方も全部ぶれないんですよ。「大綱引の恋」がまさにそうですけど、監督の「こういうのを撮りたいんだ!」って情熱が強いから、私たちも迷わないんです。役者さんだけではなくて、スタッフさんたちにも同じなので、その場で役として存在するだけでもう作品が出来上がっちゃうぐらいの引力。この人がいるから絶対大丈夫と思わせるぐらい、まさに愛に溢れている方でした。

――誰にでも真摯に向き合ってくれる方なんですね。

思ったことははっきりと伝えてくれる方です。例えば良かれと思って演じたことも、佐々部監督は「愛未、それ今演じ過ぎているぞ」って教えてくれるんです。しっかりとダメ出しもくださるし、良かったら良かったと仰ってくださるので、本当にうそがない方です。

――「佐々部組の一員だな」と声を掛けられたそうですね。

「大綱引の恋」は未知なる作品だったので、撮影中はまだまだ未熟だなと思うことがいっぱいありました。でも、こんな私に監督は「佐々部組の一員だな」と声を掛けてくださったんです。尊敬する方から「仲間だよ」「お前よく頑張ったな」と言っていただけたような気がしました。

まだまだだなと思っている中で、やっと一員だなと言ってもらえたような気がしたんです。月並みだけど、この先に希望が見えました。

――比嘉さんでも、先行きが不安だなと思うことが?

ありますよ! 日々、反省の連続で「向いてないな〜」と心底思ったりします(笑)。だけど、見てくれる人は見てくれているし、これはご縁だなと思いましたね。

残念ながら今は監督とお別れしてしまって、現実に受け止められないところがありつつも、今も見守っていただいている感覚があります。あの言葉がきっかけで、私自身もこれから一つ一つ真摯に向き合って、恥じないような作品作りをしていかないといけないなと身が引き締まる思いです。

――佐々部監督から学んだことは何ですか?

自分の心の中の情熱に真っすぐに生きる姿勢です。佐々部監督は、現場やプライベートの時間でも飲みながらたくさんいろんな話を語ってくださるんです。昔担当した映画の話とか、高倉健さんがこうだったとか。私たちが全然知らない日本映画の素晴らしい時代の話をしていただいて、聞けば聞くほどワクワクしてくるんです。

そういうのをずっと忘れずに、イキイキワクワクしながら私たちに伝えてくださるので、「あ、こうやって生きていきたいな」と思いました。歳を重ねてたくさんの経験を経ても童心を忘れないというのは、学ぶところがありました。だから佐々部監督ってファンが多くて、一度仕事したらみんなが好きになってしまう方で、人間力がある方です。

■大事なコミュニケーション

――「川内大綱引」という一大行事を中心に、さまざまな愛が描かれています。大綱引きのシーンはどんな撮影でしたか?

エキストラの方を1000人ぐらいお呼びして再現したんですけど、私は観客が見守る沿道側に一人でいたんです。なので、普通だったら泣けないんですけど、監督が「ここにいるよ! ここにいるからね!」って、体を張って大声で呼んでくれたんです。なので、クライマックスのシーンでは涙を流すことができました。

――佐々部監督の人柄が分かるエピソードですね。他にも撮影現場でのエピソードはありますか?

川内市のホテルの近くに「綱ごころ」っていう居酒屋があって、そこに行けばほぼほぼ誰かと会うっていうぐらい、毎日みんなが集まっているんです。私含めてみんなのんべえなので、撮影が終わった後はそこがコミュニケーションの場になるんです。そういうことができたからこそ、家族感だったり人間味が作品にも出たんじゃないかなと思います。

――コミュニケーションも大切にされていたと。

佐々部監督がすごく大事にされているんです。部屋に引きこもって台本を読み込むだけがいいわけじゃないってことも、学んだことの一つです。その場の空気を感じ取るには、大事なコミュニケーションだったんだなって。2週間のロケだったので、みんなで歌ったり踊ったり飲んだりしました。

――比嘉さんが演じる有馬敦子は、どんな人物ですか?

裏表がなくて、すごく気持ちがいい女性です。有馬家の妹として大切にされてきて、わがままな部分もあるんですけど、福元弦太郎役の中村優一さんと出会うことで、敦子も成長していくんですよね。恋愛って、相手にもよりますけど、良くも悪くもすごく成長できる大きなきっかけになると思っていて、そういった意味で敦子は、いい出会いを経て母になって、短い1時間50分の中で人間としても女性としても成長していくので、演じていて楽しかったです。

――役を通じて、恋愛や結婚観に変化はありましたか?

結婚はまだしてないので難しいですね。でも、人ってどこで転機があるのか分からないなと思いました。敦子もひょんなことから弦太郎と出会いましたし、どこで人が出会って、どこに引かれ合うかって予測不能だけど、突然そういうことが起こるから楽しいなと。

なので、ちゃんとそのアンテナを張ることが大事だなと思います。そうしていれば良きパートナーと言いますか、ソウルメイトに出会えるんじゃないかなと思います。

――恋人だけではなく、ソウルメイトにも出会える可能性があると。

佐々部さんと出会えたのは、そういうご縁があったからだなと思います。75億人いる中で誰かと出会うってすごいじゃないですか。「世間的にいい年齢なんで」って周りに言われるので焦る気持ちもあるけれど、世間じゃなくて自分軸で「この人!」って思える人に出会えたら、その出会いを大事にしたいなと思います。

――最後に読者へメッセージをお願いします。

「大綱引の恋」は佐々部監督の遺作となってしまったんですけど、全編通して佐々部清という監督を改めて感じさせてくれる作品になっています。

「大綱引の恋」なので恋愛もしているんですけど、それだけじゃなく家族愛とか兄弟愛とかの人間模様も素晴らしいです。それこそ「大綱引」の「綱」って漢字は、ひもとけば一本の「糸」になりますよね。その糸が出会って絡み合って強くなっていくから、繊細な人間の絆が描けたのだと思います。

今はディスタンスが大事にされている時代ですけど、直接会うだけじゃなくて、人に対して目に見えない部分の心でちゃんとつながれるんだってことを伝えてくれる映画になっていて、佐々部監督はそういう思いもあったのかなって考えてしまいますね。

ぜひ、「大綱引の恋」をご覧になっていただいて、そんな思いも感じていただけたらなって思います。

◆取材・文=鳥羽竜世