“ラブストーリーの名手”と呼ばれる大石静が脚本を手掛ける金曜ナイトドラマ「あのときキスしておけば」(テレビ朝日系)で主演の松坂桃李演じるスーパーの店員・桃地のぞむが憧れる漫画家・唯月巴を演じる麻生久美子と、巴の突然の死をきっかけに、彼女と魂が入れ替わってしまった清掃員のおじさん“オジ巴”こと田中マサオを演じる井浦新。見た目は冴えないおじさん、でも中身はセレブな女性漫画家という“ふたり一役”を演じている。何度も共演経験がある2人は自分たちを“同士のような関係性”だというが、一風変わったラブコメディーでの一風変わった共演について、話を訊いた。

――ドラマ『あのときキスしておけば』のオファーを受けたときの感想を教えてください。 

井浦新「ひとり二役の経験はこれまでなかったのですが、この仕事をやってる以上はいつかトライしてみたいという思いがすごくあったんです。でも今回『ふたり一役だ』と言われて、最初はっきりとは意味が分からなかったんです(笑)。ただ、どんな内容だったとしても、やったことのないことに挑戦できる作品になると感じたので、まずそこに対しての喜びが大きくありました。あと、共演者として松坂桃李さんと麻生久美子さんのお名前を聞いて、松坂さんとは初めての共演になりますし、麻生さんとは様々な現場で乗り越えてきた同志のような気持ちがあるので、久々にまた共演できることに対しても嬉しさを感じました」

麻生久美子「脚本を読んですごく面白いなって思いました。でも私の役が1話で亡くなると聞いて、レギュラー出演させていただくのに1話で死ぬって、私はどうやって最後まで出ていくんだろう?って(笑)。しかも私の役が死んだ後、新さんに乗り移るということは私の体はいらないじゃんって。だからもうハテナがいっぱいだったんですけど、だんだんどういうふうに出ていくのかが分かって──」

井浦「分かってきましたね(笑)」

麻生「ね(笑)。それで今は二人でひとりの役を作るって面白さに目覚め、充実してやらせていただいています」

――お互いそれぞれの演技を見てどう思いましたか?

麻生「巴を演じる新さんはすごくかわいいです!(笑)。中身が自分の役のことをそう言うのもあれなんですけど。私のことをよく研究してくださっていて、すごく似ています。口角のあげ方とか表情の作り方、顔の角度、すごく真似されてるなぁと感じて、まるで自分を見ているかのようで少し恥ずかしいんですけど(笑)、すごくかわいいんですよ。ああいう仕草は男性がやる方がかわいく見えると思うんです」

井浦「そうなのかもしれない(笑)。そういうこともやってみないと分からなかったんです。オジ巴として走り始めて、改めて目の前で麻生さんが演じる巴の芝居を見ると、『うわ、全然違う!』って思ったりして、『もうちょっと頑張らなきゃ』って宿題が増えていくんです。麻生さんが例えば3、4日現場に来ない時期があって、自分と桃季くんだけで作ってたりすると、自分が暴走し始めることがあって。キャラクターが柔らかくなり過ぎて甘くなっちゃうというか。カラッとした明るさみたいなものがちょっと足りてなかったなあって、後で麻生さんの演技を見るとすごく気付かされるんです」

麻生「男性なのに甘くなっていくんだ? 不思議」

井浦「そう。きっと男性から見る女性の柔らかさや優しさを極端に表現しようとするとそうなっちゃうみたいで。だから、もっと引いた方が巴に近付けるんだなって思った」

麻生「さすが研究してる! でもその甘い感じもかわいいんですけどね(笑)」
■「久美子週間が一時期ありましたね」(井浦)

――実際、麻生さんの映像を見て研究したんですか?

井浦「もう全部観ました(笑)」

麻生「全部観なくていいから(笑)」

井浦「久美子週間が一時期ありましたね」

麻生「ほんと恥ずかしいからやめてくださ〜い」

――具体的にはどういうところを重点的に意識したんですか?

井浦「それは絶対言いたくないです(笑)。全部自分のネタですから」

麻生「あははは」

井浦「実際ドラマを観て、『あ、ここは麻生久美子なんじゃないか?』って発見していってほしいですね(笑)」

麻生「私は自分なので気付くんですよね。『あ、こういうところも真似してるんだ』って」

井浦「仕草よりしゃべり方が難しいんです。声帯も違うし。でも関節の動かし方とかは結構できるようになってきた。指先までサンプリングしてますから」

麻生「(笑)すごいなあ。私だったらそこまで新さんの真似できませんよ」

――ちなみにこれまでの撮影で印象深かったことはありますか?

麻生「全部が印象的ですね。このふたりが突然入れ替わるというのが毎回面白くて」

井浦「面白いよね。序盤は、僕が麻生さんを見てオジ巴になってたんですけど、だんだんオジ巴がやったことを麻生さんにパス(麻生演じる巴に戻る)していくようになっていくんです。オジ巴の感情がマックス状態のところで巴にパスみたいな」

麻生「そう。マックスからのスタートなので『困る〜』みたいな(笑)」

井浦「自分だったら絶対できない表現を求めるタイミングで麻生さんに投げたり(笑)」

麻生「通常のお芝居だと、自分のお芝居をする前の状況から受け取る感情がいろいろあって。例えば今回だったら新さんと桃季くんのお芝居を見て、『この顔で私にセリフが言われるのね』って思って気持ちを作るんですけど、実際お芝居をするとまた違ったりして。新さんからキラーパスがたくさん来たりするので、初めてのことも多くて難しいです(笑)」

井浦「(笑)巴がだいぶ難しくなってきてるよね」
■「とにかく笑顔で別れるということは意識しています」(麻生)

――ラブコメディーですが、先に旅立ってしまった人と残された人の気持ちが両方伝わる、死を身近に感じる物語でもあります。それについて何か考えたことはありますか?

麻生「本来自分が死んだ後の世界は見られないですけど、今回、役として自分が死んだ後の世界を生きていて、いろいろ思うところはありました。自分が亡くなったことで周りの人たちがどういう気持ちでいるのかが伝わって、普段からもうちょっと周りの人に感謝しようと思ったり。子供に『いってらしゃい』を言うときとか、すべての場面において、とにかく笑顔で別れるということは意識しています。もしものことがないとは限らないので、後悔しないように、毎日を大切に生きようってさらに思うようになりましたね」

井浦「ラブコメという看板を外すと、とても深いテーマを持ってる作品ですね。死ということだけではなく、人を見た目で判断する、しないとか。そこを真面目に掘り下げることも好きなんですが、笑いながら表現していくことはすごく難しいことだと思うんです。その難しさというのは、演じる側からするとやりがいに全部変換されるんですね。
死や人との別れ、性別の問題も全部ひっくるめて楽しく笑って観られる物語ってなかなかない。そういうシリアスなテーマがあるということに気付けないほど楽しく見せられたらいいなと思うし、そのテーマをキャッチしてくださった方には、今麻生さんが言ったように、日々の暮らしの中で感謝を忘れないってことや、1秒1秒を大切に生きるということが最終回を迎えたときに、心の奥の方にスッと入っていけばいいなって思うんです。
決して押しつけがましい感じではなく。今撮影をしている手応えとしては、きっとそういう作品になるだろうなと感じています」

取材・文=小松香里