ベストアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU 2』以来1 年5カ月ぶり、メジャー通算6枚目のアルバム『Momi』はとてもシンプルで、コロナ禍におけるNakamuraEmiの日常が透けて見えるような作品になっている。


「デビューして5年間、何かに追いかけられていたようながむしゃら感があったんですけど、去年ベストアルバムをリリースして一旦休ませてもらったことですごくほっとしたんです。コロナ禍で家にいる時間もすごく増えて、向き合うことがどんどん増えていったこともあって。

その出来事がアルバムに自然に反映された感じがします。今までも音数は割と少なかったんですけど、なおさらシンプルになりました。プロデューサーのカワムラ(ヒロシ)さん的にもすごく自然体に作って行ったアルバムで。生ドラムを入れなかったのも初めてですね。ゆっくり聴けるものっていうのが自分たちの心に合ってたんだなって思いました。

こういう音楽は今まで作れなかったんですけど、休んだことで肩の力が抜けて自然と作れるようになったんだと思います」

プロデューサー・カワムラヒロシのアレンジの手腕によって、これまで以上に楽曲が広がったという。中でも「投げキッス」は民族音楽調のコーラスやハードなギターソロが入ったフリーキーなトラックで、コロナ収束への願いが歌われている。

「今年初めて作った曲ですね。9年間の活動の枠から外れた新しいものを作りたくてこれまでと違う方向性の曲ができていて。

スタッフと何度も歌詞を組み合わせたりしながら作っていたので、完成した曲があまりなくて不安も募ってたんです。そういう中で年が明けてもコロナが終わらなくて。そういうどうなるか分からない状態でできた曲で、最初は賛美歌のようなイメージで作ったんです。

今まで日本にこだわっていたんですけど、世界中のことを歌ったのは初めてでしたね。みんなが辛いときなのに、SNSでのバッシングがまだ続いていて。こういうときだからこそみんなで支え合わなきゃいけないはずなのに、何でこんな悲しいことが起こってるんだろうって。

病気の友達がいてその病気が治るか治らないか分からなかったから、千羽鶴を折ろうという気持ちになったりする。そういう尊い気持ちしかもう救いはないのかなと思ってできた曲です。あと、配信ライブを何回かやったんのですが、MCで『医療従事者の方に感謝をこめて』とか言ってたんですけど、『でもそういう方はライブ見てられないよな…』って矛盾を感じていたんです。その気持ちも入っています」
「投げキッス」のエンジニアを手掛けたのは、東京事変の楽曲等で知られる井上うにだ。

「エンジニアも新しい方にお願いしたくて、井上うにさんに初めてお願いしました。最初の声が機械やウイルスっぽい感触なのはうにさんからの提示で。庭を見ながらミックスを聴いたんですけど、ウイルスから始まってどんどん世界が開けていって、不思議と庭の花がぶわっと咲いていくように見えて『うわっ』てなったんです(笑)。私から、カワムラさん、うにさんってどんどん生まれ変わっていった曲だと思います」

「私の仕事」は改めて自身の音楽活動と向き合っている楽曲だ。

「去年セッションした千葉くんという素晴らしいピアニストに弾いてもらいました。私はデビューするまでもずっと普通に仕事をしてきたので、仕事としては今後どうなるか分からないけど、おばあちゃんになるまでずっと歌うんだっていうことははっきりと分かったんです。

だから、コロナ禍でもそこに関しては焦ったりはしなかったんです。だけど、周りの仲間たちが自分のお店や会社を閉めなきゃいけないのを見て、『みんな自分の仕事に向き合ってる時だよな』と思って。それぞれが自分の仕事に置き換えて聴いてもらえたらないいなって思う曲になりました」

小気味よいギターのカッティングとピアノがフィーチャーされた「1の次は」では多様性が歌われている。

「去年悲しいニュースが増えている時期にカワムラさんと打ち合わせをしていて、『実はEmiちゃんもすごくいろんなこと考えてたりするから、こういう本読んだほうがいいよ』っていろんな本を教えてくれたんです。

それでHSPに関する本を読んで。確かに私は、1から2、2から3っていう風に考えればいいのに、1から2に行く間に、1.1、1.2、1.3ってすごく細かく考えちゃう。それが面倒臭いし、人とぶつかることもたくさんあるんです。でもそれはそれでいろんなタイプがいるんだから、自分がそう思ったなら1.1も大事にすればいいじゃんって思って書いた曲です」

今作を作ったことで見えてきたことについて、こう話す。

「毎年1枚アルバムを出してきてて、時間が結構ぎゅっとされてたけど、今回は時間があったので、みんなでセッションして何度も曲を書き直せたんです。今まではメロディーが入ってなくても歌詞がとにかく優先だったんですけど、今回はそれぞれが辛い状況で頑張ってる中で気持ちよく言葉が入ってくるために、メロディーにちゃんと乗る言葉を探して。

濃度を弱めずに強いままで当てはまる言葉を探すのが大変でしたけど、すごく勉強になりました。でもすごく楽になったというか。これまで、いろんなアーティストがいる中で自分らしさを見失わないためにはどうしたらいいんだろうって考えて、ぶれないように形を作ってきました。『この言葉とこの言葉だとしたら、今の私は絶対こっち!』って感じで選んできたり。あと、いつか素敵な女性になりたいっていう意味で、“日本の女”を掲げてきたんです。でも今は良い変化が起きているから時代だからこそ、私の意図とは別の意味で捉われてしまうこともある。だから、音楽がぶれないために”日本の女”を掲げるのもまた違うのかなって思ったんです。

みんな自分のことで必死だった時期があって、私が何をどう変えようとそれぞれの自由だなって思ったので、一旦いろんなものをベッてなくしてこのアルバムができた感じがします」

取材・文=小松香里