テレビ番組に精通するライターの前川ヤスタカが、地方番組に注目し、レビューしていく。今回は大阪で放送されている海原やすよともこの冠番組を取り上げる。

「その人って日本の芸能人で言うと誰?」「そこ東京でいうと池袋みたいなイメージ?」

我々は、素性がよくわからない人やモノに出会ったとき、つい自分の身近なものに喩えてしまう。そして喩えることで、ついわかったような気になってしまう。

しかし「九州のメッシ」がメッシではないように、「台湾のガッキー」がガッキーではないように、それは似て非なるものだ。2017年のキングオブコントの煽りVTRで、かまいたちが「浪速(なにわ)のバナナマン」と紹介されたが、今我々はかまいたちがバナナマンではないことをよく知っている。

そこで「やすとも」である。


やすともの愛称で関西では圧倒的な知名度を誇る姉妹漫才師、海原やすよ・ともこ。現在「やすとものどこいこ!?」(テレビ大阪)、「やすとも・友近のキメツケ!※あくまで個人の感想です」(関西テレビ)、「やすとものいたって真剣です」(朝日放送)の3本の冠番組をもっている。

関西の民放テレビ局は準キー局と呼ばれ、制作した番組が全国的にネットされることも多いが、やすともの3番組はいずれも基本的には西日本ローカルで、関東以北ではほとんどネットされていない。

TVerではこの3番組をすべて見られるが、元来、西と東で彼女たちの知名度に大きく差があることから、東の人間からすれば「やたら目にするけど、やすともって誰?」と思う向きも多かろうと思う。

もちろん、やすともの二人が東京の番組に出ることもある。特にフジテレビが年1回放送している特番「THE MANZAIマスターズ」には毎回呼ばれ、定番の「大阪と東京の違い」ネタを披露し、ビートたけしにその実力を激賞されているのを覚えている人もいるだろう。しかし、そこで見せる数分間の漫才だけでは、関西においてやすともがどんな位置づけのタレントなのかという答えにはならない。

私は東の人間として「やすともは東京の芸人で言うと誰だろう」と考えていた。過去に彼女たちが喩えられていたことはあるが、それは「吉本のパフィー」「吉本興業の若貴コンビ(デビュー時のキャッチフレーズ)」であって、そもそも芸人で喩えられていない。

東京において、散歩ロケ番組、情報バラエティ、トーク番組をすべて自身の冠でやっている芸能人は極めて限られる。定義にもよるので正確ではないが、有吉弘行、マツコ・デラックス、コンビで言えばさまぁ〜ず、サンドウィッチマン、バナナマン、かまいたちといったところだろうか。女性芸人ではここに位置する人はいない。

しかも、彼女たちは今関西において「全芸人の姉」のようなイメージである。関西の芸人の世界では伝統的に先輩を「兄さん」「姉さん」と呼ぶ風潮があるが、そういったことを超えて絶大な信頼を受けている。

「新幹線乗ってて色々考えてたんですけど、今日全て吐き出そうかなと。やすともさんやったら何でも受け止めてくれるから」「来週も来ていいですか?」「何でそんなに的確に僕らのこと言い当てるんですか?」
「やすとものいたって真剣です」では、多くの芸人が自身の芸の裏側を吐露し、やすともはそれを時には優しく包みこみ、時には厳しく指摘する。

「なんか今日ね、家にいる姉ちゃんに友達紹介してるみたいですわ」
「やすとものどこいこ!?」では、若手芸人が年の離れた姉二人とトークするように買い物を楽しむ。

関西では、ハイヒールやなるみなど伝統的に姉ポジションに位置する芸人がいるが、今最も旬のその位置の芸人がやすともと言うことになる。


そんな多くの芸人が姉のように慕うやすとも。姉のともこが71年生まれの49歳、妹のやすよが75年生まれの45歳だがその芸歴は長い。そもそも二人は、女流漫才師海原お浜・小浜の小浜を祖母に、海原かける・めぐるのかけるを父に持つ漫才一家のサラブレッドであり、92年に中田ボタンに弟子入りしている。そこから数えると芸歴は29年だが、祖母の事務所社長から「姉妹でやらせたら面白いんちゃうか」と稽古をつけられ始めたのはともこ8歳、やすよ4歳の頃なので、コンビ結成からはすでに40年を数える。

92年当時、すでに吉本の養成所NSCはあり、芸人になる王道はそちらに移りつつあったが、二人はあえて弟子入りの道を選んだ。当時の若手の登竜門・心斎橋2丁目劇場は、ショートコントを行うようなコンビが多く、弟子入りしている女性漫才師の正統派しゃべくり漫才は浮いたと言うが、すぐに頭角を現し漫才の新人賞を総なめ。以来、しゃべくり漫才一筋で今も舞台に立っている。

やすともの強みは女性票で、デビュー6年目にあたる「週刊朝日」98年4月3日号ではすでに「若い女性のお笑いコンビのファンは男性が多いようだが、この二人は圧倒的に女性に人気がある」と評されている。2003年には「”おんな”と言う職業」と題して女性ゲストを招くイベントを開いたりと常に女性の視点をネタに取り入れている。

加えて、二人とも結婚・出産・闘病などのライフイベントやファッションなどについてもよく雑誌等で語っており、その辺りも多くの女性の共感を得ている由縁である。ちなみにともこの夫は元男闘呼組の前田耕陽であり、やすよの夫は元オリックスの投手宮本大輔だ。

女性の共感が得られる二人の特性は現在の冠番組でも生かされている。「やすとものどこいこ!?」では二人がゲストとともに買い物をするのだが、商品紹介の依頼は受け付けておらず二人が視聴者目線、主婦目線で商品を選んでおり、放送後に紹介された商品が売り切れとなることも多いと言う。

子役が成長を見守られるように、芸能一家に育ったやすともも常に成長を見守られてきた。その一方、芸人として養成所の道を選ばず、かつ女性の少ない漫才師の世界で、彼女たちは酸いも甘いも経験してきた。だからこそ、芸人は絶大なる信頼感を持ってやすともの番組に出演し、本音を語り、関西の女性たちはやすともの意見に共感する。

そして、二人は女性漫才師であることを誇りに思い、そうであるがゆえにあえて関西にとどまり、東京に進出しない。

東京の芸人に喩えようとしていた私が間違いだった。
やすともはやすとも、他の何者でもない。