“朝ドラ”こと連続テレビ小説「おかえりモネ」(毎週月〜土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月〜金曜の振り返り)の第12週「あなたのおかげで」(8月2日〜6日)は車椅子マラソンの選手・鮫島祐希(菅原小春)が登場。主人公・モネこと百音(清原果耶)は鮫島が次の東京オリンピックに参加できるように、気象の面からサポートすることになった。パワフルな鮫島を演じる菅原小春の魅力について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)

■車いすマラソンで漕ぐ姿が迫真

なんていいタイミングだろうか。現実でオリンピック開催中にドラマでもパラリンピック出場を目指す登場人物が現れた。鮫島祐希はリオデジャネイロ・オリンピックの選考会で天気を読み間違えたことが原因で熱中症になり存分に力を発揮することができなかった。

あらかじめ天候を把握して、選手の体調をそれに合わせ整えたり悪天候の対処法を準備したりすることができれば、選手のパフォーマンスは保てる。そのための“スポーツ気象”というジャンルを開拓しようとしている朝岡(西島秀俊)に鮫島は己の命運を託す。

鮫島に協力するプロジェクトになりゆきで参加することになった百音は、鮫島が「負けん」とがむしゃらに車いすマラソン用のマシーンを両腕で回すその気迫と身体能力に魅入られる。百音のみならず、視聴者も鮫島の僧帽筋の引き締まり具合に注目したに違いない。少なくとも筆者は、鮫島の僧帽筋や上腕二頭筋が美しいなあと思って見た。

■「いだてん」でもアスリート役を演じていた菅原小春

車いすマラソン選手・鮫島を演じているのは菅原小春。この人しかいないだろうと思えるみごとなキャスティングである。

現在、ウィルキンソンのCMでも躍動する肉体を披露している菅原の本業はダンサー。その道では一目置かれる存在で、「第69回NHK紅白歌合戦」(2018年)で米津玄師の歌唱のときのダンスも注目された。

日頃から身体が鍛えられている。どんなに俳優が演技巧者でも、長年、全身を駆使するダンスのために鍛錬した肉体を持つこと、及び、それを駆使して目を見張るような動きをすることは難しい。

スポーツとダンスはまた違うが、ジャンルは違うとはいえ、鍛えた筋肉をもっていて、それを使って熱がほとばしるような動きを表現することがダンサー菅原なら可能であろう。実際、みごとに車いすマラソンの激しく駆る動きをしていた。

菅原小春がアスリートを演じたのはこれで2度目。大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年)で日本人女性初のオリンピックメダリストで陸上競技選手の人見絹枝役で出演。四肢を大きく振って走る豪快な姿には説得力があった。彼女にとって「いだてん」がはじめての演技。期待されたアスリートの凄みに迫る動きのみならず、デリケートな心の動きも体現してみせた。

■魂を燃やす役を演じる人

“私は人見絹枝さんと同じく身長が170cmと高いので、バックダンサーとして踊っているときに目立ってしまうんですよね。(中略)体型に関してコンプレックスを持っていた時期もあったのですが、海外に飛び出して行った時に「なんだ、全然普通じゃないか」と気づけたんです。そして「コンプレックスを自分の強みに変えていかなくちゃいけない」、「努力して磨いていかなければいけない」と思いました。人見さんもそのように感じていたのではと思います。”(WEBザテレビジョン:<いだてん>世界的ダンサー菅原小春“大河”出演の決め手は「魂を燃やしたい」2019/07/06配信 より)

人見絹枝は、まだ女性が目立った活躍をすることが一般的でなかった時代に、高身長と抜きん出た身体能力をもったことで、ひと目を気にしながら生きていた。だがその身体能力を堂々と発揮する機会を得る。

しかし「いだてん」第26回で絹枝はアムステルダム・オリンピックに出場するも期待の競技で残念ながら負けてしまう。「(日本の女子選手の夢が絶たれてしまうから)このままじゃ(日本に)帰れません」と別の競技で挽回させてほしいと必死で懇願する場面と、そのあと全身全霊、泣きそうな顔で力走し世界新記録でメダルを獲得した場面は胸を打った。

前述のインタビューのなかで、今後も演技をやるかという問いに、“私は私で人見さんのように共鳴できる人に出会ったり、「私が魂を燃やす意味があるな、私の体と心を通して伝えられるものがあるな」と感じた時にまたやってみたいですね。”と語っていた菅原。

だとすれば、「おかえりモネ」の鮫島もきっと魂を燃やす役であるにちがいない。

第59回で「負けん」と叫んで車いすを漕ぐ姿、足を動かすことができなくても決して弱音をはかず前向きな姿――でもその裏に強烈な敗北経験があって、それを生きる活力に転じていく。そんな人見絹枝の姿とも重なる部分があるように感じる。

鮫島が百音たちの協力を得て今後、オリンピックの選考会に出場した時、最高の心燃やすパフォーマンスを期待したい。