■髙嶋にとっての“食べること”の本質とは――

世界の名匠・黒澤明監督の不朽の名作を、三池崇史監督演出により舞台化した「醉いどれ天使」に挑戦する髙嶋政宏。芸能界屈指の‟グルマン“としても知られる髙嶋に、今日に至るまでの‟食”の原点やこだわりを伺いながら、自身の俳優哲学や今回の舞台に懸ける思いなど、さまざまな話を3週にわたってお届けするインタビューの第2回。

第1回に引き続き、訪れているのは唯一無二のジビエ料理を提供するビストロ「ELEZO GATE(エレゾゲート)」。2週目の料理のテーマは「肉の本質を伝える」。肉そのものを味わうために至極シンプルな調理法で提供される料理を通して、髙嶋にとって“食べること”の本質に迫る。

■蝦夷鹿の肉そのものの旨味を存分に味わう

■3皿目:蝦夷鹿のハンバーグ
見た目にも楽しい、蝦夷鹿肉100%の骨付きハンバーグ。2本のうち、1本はシンプルにそのまま焼いたもの、もう1本には鹿のデミグラスソースが流しかけられている。骨を持ち、かぶりついた髙嶋は「間違いないですよね」と満足そうに頬張る。

「いや、間違いないとか、そんな陳腐な言葉を使っちゃダメですね(笑)。すべての味わいが詰まってます。“鹿肉100%なのに全然さっぱりしてる!”じゃないんです。味わいが広がる。深いんですよ。ソースもさらっとしてますね」

「『ELEZO』の肉は噛めば噛むほどおいしい肉ばかり。よく噛んでいただきたいお肉です」と高橋和寛シェフ。すると髙嶋も「咀嚼して、自らが出す消化酵素と合わさったときに初めて、料理が完結するわけです!」と興奮気味。

■4皿目:蝦夷鹿のミート&チップス
フィッシュ&チップスならぬ、ミート&チップス。蝦夷鹿のモモ肉をビールで溶いた衣をつけて揚げている。

ジュワジュワ、パチパチと鹿肉やポテトを揚げる音を聴きながら、「これとビールとか、最高ですね! ここはポテトもめちゃくちゃおいしいんですよ」と目が輝く髙嶋。料理がサーブされるや否や、「これはもう、出た瞬間に食べたい」と鹿肉を手づかみ! サクサクといい音が聞こえてくる。

「皆さん普通に見てますけど、これ相当熱いです(笑)。でも指の熱さより、早く食べたいんですっ。もう揚げたての、この瞬間しか味わえないですから。この(肉の断面に)ちょっと血がにじんでて、中のジュースが出てる状態ってすぐ火が入っちゃうんです。これは食べに来られた皆さんにもぜひ“手で”食べてほしい!」

■髙嶋にとって“食べること”は生きがいのひとつ

髙嶋にとって“食べること”とは、どんなことなのだろう。シンプルにして本質にも迫るストレートな問いだが、髙嶋らしい、なんともユニークな若き日のエピソードが飛び出した。

「デビューしたての頃なんて、20代だし、遊びたい盛りで。(仕事で忙しいことは)嬉しい悲鳴ではあったんですけど、何でこんなにセリフいっぱい覚えなきゃいけないんだ、とかね。とにかく遊びたくてしょうがない時代があったんです。でも、だんだんと、それよりも『この台本、どうやったら面白くなるのかな」っていうほうが楽しくなってきて。だから、ちょうどよかったんです。20代の頃はバブルで、ディスコやクラブに行きまくったし、キャバクラにも行きまくったというか、もう“行き上げた”んで。ホントにもう、毎週行ってましたから、その後そっちの方には全然興味がなくなって(笑)」

その後、30代になると「死ぬほど舞台に出ていた」という。

「ただ、松竹は休演日がないですし、当時の東宝は休演日が1カ月に1日しかないので、やっぱりストレスが溜まるんですよ。それで、そのときの僕、人間の三大欲は、“性欲、食欲、買い物欲”だと勘違いしていて。この前、ニッポン放送のラジオに出たとき『いや、睡眠欲ですよ』って言われて、初めて『あ、睡眠は人間の三大欲の一つなんだ』って知ったんです(笑)。結局、性欲は度が過ぎると写真を撮られたり、トラブルになったりするし、勘違いしていた買い物欲も、ちょっとならストレス発散でいいけど、買い漁ったら飽きるし、そうなると、もうあと“食”しかない、と」

消去法ならぬ、いろいろなものがそぎ落とされていって、残ったのが“食欲”。「トレーニングをするなどして、太ってしまわないようにだけを気を付ければ、これに勝るストレス発散はない」と気づいたのだとか。

「そこから食べることは生きがいの一つです。僕にとって、食は生きがい、と言っていいですね。料理と出会ったときの感動は、すべてを忘れさせてくれるんですよ。しゃべって食べたくないんです、ホントは。ただただ料理だけ見て、食べて、天井とか壁を見ながら、『うんうん』って一人で(笑)。それが基本的です。放送作家の塩沢航さんとの出会いで会食みたいなものにも行きますが、そこにいる方々はみんな料理と真剣に向き合ってるんです。そこで“一食入魂”を学びました」

高級店や有名店だけではない。コンビニエンスストアやレトルト食品もまめにチェックしている。

「カップ麺も新発売の商品は一応試しますし、レトルトも気になったものは試します。セブン-イレブンの総菜とかもむちゃくちゃ買いますよ。いろいろ食べたけど、セブンが一番うまいんですよね。小さいサラダとかつまみのシリーズが種類豊富にあって、「さばのおろしぽん酢」とか、えだまめとたこの入ったサラダ(※たことブロッコリーバジルサラダ)、あとごろっとカニカマ(サラダ)とか、味玉が入ったポテサラとかね。よだれ鶏もあるし…」

次から次へと出てくる、さまざまな商品名。あふれる探求心と好奇心は、まさに食のオールラウンダーだ。

「大阪に『カドヤ食堂』っていう『チーム佐野JAPAN』のラーメンの名店があるんですけど、そこの人とも『やっぱりカップ麺を笑うやつにいいラーメンは作れない』ってよく話すんですよ。カップ麺を食べ極めてこそうまいラーメンができる。馬鹿にしちゃいけない。よくね、『赤いきつね』を和え麺にしたりするんですよ。ちなみに、『赤いきつね』の粉末の出汁ってちょっと塩分が入ってるんですけど、付属の粉を半量にして出汁で割ると、すごく出汁が効く。これ、ほかのインスタントラーメンでやっても、むちゃくちゃうまい!」

思わず、「1日3食じゃ足りないのでは?」と聞いてみたら、ちょっぴり苦笑い。

「それはもう職業柄、風呂上がりに自分の体を鏡で見たときに、『これじゃまずい』の繰り返しですよね(笑)。極力食べに行くとき以外は節制しよう、と。もし俳優じゃなかったら、大変なことになって、数値が上がりまくって命が危なかったと思います(笑)」

■コロナ禍で改めて感じたシェフの凄さ

昨年からはコロナ禍となり、飲食業界をはじめ、食を取り巻く環境、食に対する意識も大きく変化した。髙嶋のグルメライフにはどんな影響があったのだろうか。

「飲食業界の知り合いに連絡を取ると、みんな『暇なんです』って言うから、『今、食材これとこれとこれがあるんですけど、どうやったらおいしく食べられますかね?』って聞くと、いろいろ教えてくれるんですよ。イタリアンのシェフにすごく細かく、『前に食べたドレッシング、すごい甘いんだけど甘すぎず、ビネガーなんだけど酢がそこまで効いてない。あれの作り方教えてくださいよ』って伝えて、イタリアンの3倍酢の作り方を教えてもらったり、『ニンニクとアンチョビが余っちゃって』とか言うと、『黒パン買ってきて、みじん切りして乗せて、オーブントースターでいいから焼いて作ってみてください』ってアイデアをくれたり。昨年の最初の緊急事態宣言中は、そういうことをよくやっていましたね」

もともと普段から料理をしていたものの、自粛期間中、毎日のように料理をするようになって、「料理好きとはいえ、何せ疲れる」と髙嶋。

「これまた塩沢さんから紹介していただいたシェフのお店の通販を利用してみたんですけど、『コンヴィヴィオ』っていうイタリアンのコースが家にいながらにして食べられる素晴らしいオンラインで。二人分送られてくるんです。それを湯煎したり、火を入れたりする、たったそれだけでも首が凝るのに、これをシェフは毎日、何人分も…って考えたら、シェフってすごいな、って。しかも火を入れるタイミングとか、お客さんを見ながらやってるわけじゃないですか。さらに、あそこはお酒飲まない人なんだとか、あの人たちはしゃべってるから冷めていくのも計算に入れなきゃダメだとか、あそこは量を食べない人だとか、常連のあの人が来ただとか…そういうことを全部瞬時にやっているんだなって」

段取りや、食器や調味料の配置など、すべてスムーズにできるよう、計算されていることにも気づき、感心した。

「僕、いつもできたてを食べたいし、台所をそのままにして、食べ終わってから戻ったときに、流しがぐちゃ〜っとなってるのが何か嫌なんですよね。だから作りながら片付けもするんですけど、これって大変で。火にかけながら、流しにジャーッて水を入れて。両手でやってましたもん。あと、手順は考えておくんですけど、たとえばフライパン振ってて、塩が離れたところにあるとちょっとパニくるし、菜箸がどこに行ったか分からないだけでもやっぱりパニくる(笑)。『お皿出しておくの忘れた! あー、でも出してる間に火が入っちゃう…』みたいな。全部ちゃんと用意してやらないとダメなんだな、って」

とはいえ、「シェフの役、やってみたいですね」と笑顔の髙嶋。そもそも、食べることだけではなく、料理をすることに興味を持ち始めたのは「オムレツがきっかけだった」と振り返る。

「15年位前からですかね、料理にハマりまくったの。芸人の三瓶さんがバラエティー番組でオムレツを作ってたんですけど、異常に上手くて。彼、服部(幸應)先生のところ(服部栄養専門学校)の卒業生で、聞くところによると卒業試験がオムレツだったそうなんです。そこから毎日ずっとオムレツを作りました。当然できないんですけど、『何であんなにうまくできるのかなぁ』ってやっているうちにだんだんできるようになって。毎日オムレツを作ることで、その日の自分の運勢を占うみたいな感じでしたね(笑)。『今日は落ち着いてるな』とか『あ〜今日はちょっと焦ってるから気を付けた方がいい』って。やっていくうちに、そんなに焦らなくても焦げないことがわかったり、習っていないのにフライパンを返せるようになったり。オムレツができるようになったら、ほかの料理もできるようになるんですね、なぜか。僕、好きなことはすごく集中するんです。興味のないことは付き合いでもしないし、見ないし、行かないんですけどね(笑)」

第3回の料理のテーマは「野生を内包する食材作り」。配信は9月3日(金)を予定しております。

取材・文=四戸咲子