「百万円と苦虫女」(2008年)などのタナダユキ監督がオリジナル脚本で挑む映画「浜の朝日の噓つきどもと」が9月10日より全国公開された。本作は、福島県・南相馬に実在する映画館“朝日座”を舞台に、東京の映画配給会社に勤めていた福島県出身の茂木莉子(本名:浜野あさひ)が、恩師・田中茉莉子との約束「“朝日座”再建」のため、映画館を守ろうと小さな“嘘”をつきながら奮闘する模様を描く。

莉子(あさひ)役の高畑充希と、あさひの恩師である茉莉子先生役の大久保佳代子に、撮影秘話から自身の大切な人の話までたっぷりと語り合ってもらった。

■「二人で『抱いてやれよ』と言うシーンがすごく楽しかった!」
――高畑さんが演じたあさひと大久保さんが演じた茉莉子先生のやり取りが、すごく自然でテンポが良かったですが、お二人が演じていて最も楽しかったシーンは?

高畑:私は病室で茉莉子先生と二人で喋るシーンが楽しかったです。もう、撮影も後半でしたよね?

大久保:そうそう、楽しかったね!

高畑:後半の二人で「抱いてやれよ」って言うシーン(笑)。あそこ台本もすごく面白かったし、二人の会話だけで結構長かったので。あのシーンの撮影が、普通に喋っていて、すごく楽しかった記憶があります。

大久保:佐野(弘樹)くん演じる(チャン・グオック・)バオくんが、愛嬌とちょっとダメさ加減が、いい感じに滲み出ていて。あさひと茉莉子先生の間に入ってくれると、柔らかくしてくれるので、またちょうどいい感じになるんですよね。

■「タナダさん感がたっぷりなシーンとセリフ」
――泣きながら笑うシーンではみなさんのお芝居が、絶妙でしたよね。

高畑:あれは監督が「悲しいシーンにしたくない。笑えるシーンにしたいんです」っておっしゃっていて。何ともいえないシュールな空気感だったので、タナダさん感がたっぷりなシーンだなと思いました。

――では、印象に残っているセリフは?

大久保:私は取調室で、「友達のことは裏切れませんから」って言ったときに、「あ、そっか。先生と生徒の関係じゃなくて、茉莉子先生はあさひちゃんをもう友達だと思っていたんだ」っていうのに気付いて、しっくりきたというか。自分にとってもやっぱりあさひちゃんは特別で、ただ生徒が家を飛び出してきたから面倒を見続けているわけじゃなくて、いつの間にか一緒にいて楽しいし、自分の人生の中にも生活の中にも入っていた子なんだなっていうのを実感しました。あれを言いながら、わかったこともあるし、「おぉー! そっかそっか」と妙に納得しましたね。

高畑:私はなんだろう…めちゃくちゃ喋ってるからな…。「一番大切なのは、今日食べる米」という言葉は、印象には残っていますね。来月のお仕事がちゃんと進むかもわからなくて、自分がちょうどそういうことを考えている時期だったので。この映画も撮れるかわからないなと思っていたんですけど、無事撮影できて。当時、東京がすごくピリピリしていたんですよ。まだコロナがどういうものかもよくわかっていなくて、何も信じられないみたいな空気が漂っていて、みんながものすごく不安定な感じでした。

そんなときにこの撮影で一カ月間くらい福島に行っていたんですけど、現地はとても穏やかな時間が流れていて、自分自身にだけフォーカスを当てて過ごせる毎日でした。「本当にやりたいことって何だろう?」「本当に大切なものって何なのかな?」と撮影しながらぼんやり考えていたので、「一番大切なのは、今日食べる米」もそうですが、これはタナダさんが言いたいんだろうなっていう長ゼリフとかはどれもすごく印象的でしたね。

■「一線でずっと活躍されている方は“人間力”がすごい」
――本作での高畑さんと大久保さんの役柄は生徒と恩師という関係性ですが、お二人が仕事上で影響を受けた人は?

高畑:毎現場ぐらい、都度都度いますね。毎回いろんな方から影響を受けて、自分の価値観やモチベーションの持ち方、突き進み方、アンテナの張り方…など、いろいろなことがどんどん変わっていく感じがします。どの世界でもそうかもしれないんですけど、一線でずっと活躍されている方って、“人間力”がすごいんですよ。こんな考え方もあれば、こういう考え方もあるんだなとか、勉強になるし、すごい人ってたくさんいるなと毎回驚きます。

私は、監督のタナダ(ユキ)さんとずっと一緒にお仕事をさせていただきたくて、それがこの作品で実現したのですが、タナダさんは現場ですごく男前でカッコイイんですよ。決断がとにかく早いので、私たち演者やスタッフさんが不安にならない。現場で私はタナダさんとそんなに喋ってはないんですけど、撮影中ずっと安心して集中することができました。信頼できる方です。

大久保:私はそういう方があんまりいないんですけど、今、高畑さんのお話を聞いていて、私も同じような仕事をしている「女性芸人」と呼ばれる人たちは良い意味でも悪い意味でも意識しているなと。近場でいうと仲良しのいとうあさこさんとかを見て「毎回この人、気力だけでこんな全力でやっているんだな」と思って、「今日はちょっと怠け気味だから頑張ろう」ってなるので、そういう意味では刺激を受けていますね。だから、結果それが教えてもらっている、影響を受けているということに繋がってはいるのかなと。

――大久保さんはいとうあさこさんと仲が良いということは世間的に知られていますが…

大久保:そうですね〜イヤですね〜。

■「(いとう)あさこさんはすぐわかるんですよ(笑)」
――(笑)。どういうところが馬が合うのですか?

大久保:話が早くてわかってくれるんですよね。同じような仕事をして、同じような年代で、同じような感じで世に出たので。「前さ、ここの現場に行ったらこのスタッフがさ〜」みたいな話をすると、「わかります!」ってあさこさんはすぐわかるんですよ(笑)。だから、一番欠かせない人だなと。

たとえば、ちょっとスタッフの言い方がきつかったりして、あさこさんがイライラしていたら、そのスタッフに言ってあげるし、その逆で言ってもらうこともあるし、ああいう言い方にならないようにしようとも思うので…その辺が仲良い理由なのかなと。まあ、あんまり一緒にいすぎてだんだん飽きてはきましたけど(笑)。

――本作では、映画によって救われる人々がたくさん出てきますが、お二人が“救われる”ものは?

高畑:私は両親ですかね。いい話とかではなくて、やっぱりこの年になっても両親の存在は大きいなと。私の両親は「何とかなるでしょ」という感じでとにかく明るいのですが、前に実家に帰ったときに、父にも母にも「充希はホンマに面白そうな人生でええよな」と羨ましがられて。自分でも波乱万丈な人生だなと思うので、その言葉を聞いて私も「いい人生だな」と改めて感じました。

大久保:私は、今だとやっぱり愛犬のパコ美ちゃんですね。もう本当に救われる。「ああ、この仕事はちょっとしんどいな」と思っても、パコ美ちゃんがいるからまだもうちょっと働いて、余裕を持てるくらいの生活費を稼ごうと思えます。まぁ、だいぶもう貯まりましたけど(笑)。

朝もちゃんと起きて、トイレシートを変えて、ご飯あげてとかをすることで、ちゃんとした生活を送っている気がするし、家に帰って「いやだな〜疲れたな…」と思っても、パコ美ちゃんが何十年ぶりに会ったんじゃないかってくらい喜んで出迎えてくれる姿を見ていると、もうなんか「ママ帰ってきたよ〜♡」って穏やかな気持ちになれるんですよね。それで一緒に晩酌して、一日が終わっていくという日々です。

■「高校生の頃は誰も信じられず、一人の世界で完結していた」
――本作で共感したところはありましたか?

大久保:共感…あんなに親身な先生いなかったしなぁ…。

高畑:共感…難しいですね。私の役は、アンバランスな家族という環境で育って、それが根幹になっている女の子だったのですが、うちは家庭環境が良かった方だと思うので、そこの感じはどうしてもわからない部分でした。

ただ、私も高校に入るときに地元を離れて一人で生活をしていて、人付き合いが上手いタイプでもなかったので、ずっと一人の世界で全て完結していたんですよ。大人をはじめ誰も信じていなかったので、学生時代のあさひのあの感じは、すごくわかります。

かつ、大人になっていろんな人たちに出会って、周りを信じられるようになった上で、自分の信じたいモノを助けたいみたいなその人間的な変化。人って変わるよねっていうのは、身をもって感じているので、彼女のそういう部分は共感できたかもしれないですね。

大久保:私は共感ではないんですが、いいなと思ったのは、信頼できるパートナーと呼べるバオくんと友達のあさひちゃんがいること。家族じゃなくても、血がつながっていなくても、信用できる人たちに囲まれていたら、「こうなるのもいいな」って感じましたね。

――血がつながっていなくても信用できる方はいますか?

大久保:それこそ本当に周りの女性芸人のお友達とかは信用していますね。助けてもらっているし、何かあったときには助けてあげたいなって純粋に思います。

高畑:私もいますね。もちろん家族のことも信用していますけど、世代問わずいろんな年齢や性別の信頼できる友達がいます。

■「失恋をしてあさこさんに救ってもらったけど…」
――あさひにとっての茉莉子先生のように、お二人はつらい時に支えてもらった方やあの人がいたから今の私があると思う方はいますか?

大久保:結局、東京に出てきてここ2〜30年だと、あさこいとうが出てくるんですけど。10年くらい前になるのかな、私が40歳前くらいにすっごい失恋をして、もう寝られないし食べられないしってなったときに…

高畑:つらい…。

大久保:そう、つらかった。あさこさんが、「じゃあ、うちに泊まればいいじゃないですか!」って言って、キレイなタオルとかパジャマとかを段ボールに入れたお泊まりセットをいつも用意してくれて、私が翌日仕事に行くと「今日、いとう、ホテル。泊まりに来ますか?」って連絡をくれるんですよ。あの人、すごく優しいの。でも、「流石に毎日は…」と思って、週3回くらいのペースで通っていた時期があったんですけど、本当にもうありがたいというか、あさこさんはそういう、人のために何かをするのが、本当に好きなタイプで。

そのおかげもあって時間の経過とともに立ち直っていったんですけど、その数カ月後に今度はあさこさんの方が失恋をして、ボロボロになってしまったんですね。最初のうちは話を聞いてあげたんだけど、「今日、家に行っていい?」とかなったときに、だんだん本当にうざったく思ってきて…。

高畑:極悪ですね(笑)。

大久保:そう、自分でもビックリした。だって、毎回辛気臭い同じ話をするし。「ごめんね! 今日ちょっと仕事で遅い。泊まりなんだわ」みたいな感じで噓を吐いたりしたときに、自分でも極悪だなと思った(笑)。でもね、それがいい関係性なのよ。同じ重さだとね、ちょっとあれだから、一方がドライくらいの方がちょうどいいんですよ。

高畑:(笑)。あさこさんは気にされてないんですか?

大久保:わかんない(笑)。言わないだけで、根にはもってるかも。失恋はしんどいですよね。…しんどかったな〜あれは。

■「失恋で傷付いたとき親友がそばにいてくれた」
高畑:失恋は本当にしんどいですよね…。私も社会人の親友がいて、彼女が失恋したときにそれこそ寝られないみたいなことになって、うちに来ていて。

大久保:あぁ〜優しい。

高畑:それで「ポトフ作るよ」って料理したのに、彼女は食欲なくて食べられなかったから、私が全部食べました(笑)。

大久保:食えよって腹立った(笑)?

高畑:いや、思ったよりも美味しくできたので、「え? 食べないの? じゃあ、私が食べちゃうね」って言っているうちに、食べ終わっちゃって(笑)。でも、自分が失恋で傷付いたときは彼女がずっと話を聞いてくれたので、私たちは同じ重さですね(笑)。

大久保:そうか…ちょっとね、あさこさんは1カ月以上立ち直れなかったから長かったんだよな。

高畑:あぁ〜、長いとちょっとしんどいですよね。

大久保:もう「ああしてればよかった」とか、同じ話を毎日するのよ。しんどくなっちゃって。

高畑:どうしてもタラればになっちゃいますよね〜。

■「『私ってエンタメを渡せる側にいるんだ』と気付いた」
――本作では、好きなことに邁進する人々の姿も描かれていましたが、好きなことを仕事にしているお二人は、何をモチベーションにしていますか?

高畑:モチベーション問題、難しいですよね。

大久保:ここ最近、モチベーションは考えますね。もう長くやっていますし、私はそもそも目標があまりないので。ただやっぱりこういうお芝居の仕事でもバラエティの仕事でも現場に行ったら、面白い人たちやカッコイイ人たちがいっぱいいるので、そういう人たちといい仕事ができたらいいなと思っていて。そのためには怠けちゃいけないなと、自分の尻を叩いています。特殊な仕事なので、たくさんの人と会えるし、意外とみんな優しかったり人間ができてたりするので、そういう環境に一日でも長くいたいなとは思っていますね。

高畑:この1年間くらい、「みんなモチベーションはどうしているんだろう?」と思っていたんですよ。私は今年、芸歴15年になるんですけど、長くやっていると目指していたものが叶ってその喜びがあると同時に、「次、何を目指そう?」となるんですよね。日本でやり切ったから世界に出ていくみたいな方も多いのですが、私は海外に住みたいという願望はないので、一時、どこが私にとっての目指したい天井だろうっていうのがわからなくなっていて…。

今年の3月に「ウェイトレス」という舞台をやっていたんですけど、このご時世なので当然、舞台に行くのはどうなんだろうという風潮があって。でもふたを開けてみたら、連日満席に近い状態でした。客席では声を出せないんですけど、みなさん舞台が見たくてこの日を楽しみにしていた感が全身からすごく溢れ出ていたんです。コロナ以前に舞台をやっていたときは、気軽に観に来て楽しむという感じで、もう少し舞台を求める熱量が少なかった気がしたんですが、今回はお客さんの空気感が明らかに違っていて。だから、エンタメってすごいなと改めて感じました。

自分もステイホーム中に映画やドラマを見て、エンタメにすごく元気をもらったり助けられたりしていて、ふと「私ってエンタメを渡せる側にいるんだ」と思ったんですよね。今までの15年間を振り返ってみると、「見てくれる人のためにやる」という意識がちょっと抜け落ちていたなと。でも、今回その舞台での数カ月間で、私が携わった何かでみんながちょっと元気になるみたいなことを肌で感じたので、今はそれが私のモチベーションかもって思いました。

大久保:…私もそれです。言い忘れていました(笑)。

取材・文=戸塚安友奈