9月13日朝8:35。Eテレに突如登場した“慎吾ママ”にネットは騒然となった。「いないいないばぁっ!」が終わったあと、往年の「おっはー!」と共に始まったのは、「慎吾ママの部屋」というコーナー。ピンクを基調とした部屋に座るのは、香取慎吾が扮する慎吾ママと、草なぎ剛が扮する徳川慶喜で…….。その番組は「ワルイコあつまれ」。香取慎吾、草なぎ剛、稲垣吾郎の3人による教育バラエティーだ。

3人の登場について事前の宣伝や予告は一切無く、番組表の記載も「子どもも大人も楽しめる新しい教育バラエティー」という簡単な説明だけ。同じ日の19:25には再放送が予定されており、「朝にサプライズを届け、SNSを中心に話題を作り、夜も見てもらう」という斬新な試みだった。

3人が地上波で揃い、往年のキャラクターも演じる。そんな嬉しいサプライズで話題になった「ワルイコあつまれ」だが、その中身もしっかりした教育バラエティーだったことをお伝えしておきたい。いわゆる「お仕事インタビュー」の企画として、どれも秀逸だったのだ。


■香取慎吾&草なぎ剛、演技力をフルに使った“偉人&学者インタビュー”

「ワルイコあつまれ」は9月13日に#1が、20日#2が放送されている(その後の継続は未定)。先ほどの「慎吾ママの部屋」は、慎吾ママMCのトーク番組に、徳川慶喜をゲストに迎えたという設定。2000年に「サタスマ」(フジテレビ系)で誕生したキャラクターと、今年の大河ドラマ「青天を衝け」で草なぎ本人が演じる偉人という組み合わせ、時空が歪みすぎている。

最初こそ、慎吾ママが慶喜にニックネームをつけようとするユルい始まり方だったが、話は次第に歴史上の出来事に移り、大政奉還後のプライベート(写真を撮ったり絵を描いたり!)にまで話が弾む。そのあいだ、2人は「慎吾ママ」「徳川慶喜」のキャラクターから一切ブレない。慎吾ママは明るいキャラクターのまま、カタカナ語を連発して慶喜を戸惑わせ、慶喜は慶喜で時折鋭い眼光を挟みながら、たっぷり間を取って質問に答える。

草なぎの演技力は、#2の「好きの取調室」でも発揮されていた。舞台は取調室。黒スーツ&サングラスの草なぎ(ドラマ「TEAM」を思い出す)と対峙するのは、京都大学霊長類研究所に西村剛准教授。ワニとヘリウムガスという証拠品から、何らかの悪事を暴こうと草なぎだが、西村さんは淡々と自身の研究について説明する。

動物にヘリウムガスを吸わせて、声を出す仕組みを探っていること。ワニの声を調べることで、恐竜の声の出し方がわかること。ずっとサルの研究をしていて、鳴き声を真似できること。特にテナガザルの鳴き真似が子どものころから得意なこと――。

「嘘つけ!」と声を荒げ、険しい顔で取り調べていた草なぎは、段々と研究に興味を持っていく。この「相手を取り調べる」と「相手に興味を持つ」の心のバランスが絶妙で、徐々に気持ちを寄せていく表現力は「この企画で何もここまで」と思うほど。ラスト、「サルが好きなんだろ!」と詰め寄っても、西村さんに安易に「好き」と言わせない脚本もいい。

「慎吾ママの部屋」も「好きの取調室」も、どんなに設定だろうと彼らは与えられたキャラクターから外れない。むしろ最後まで全力で演じきる。だからこそ、偉人や研究者の生き様も「本物」として浮かび上がるのだろう。


■人間国宝に「ショートケーキの食べ方」を聞く、それにしっかり答えてくれる人間国宝

演技力に支えられた2本に対し、「子ども」というフィルターを通して職業人に迫ったのが、#1の「国宝だって人間だ!」と、#2の「子ども記者会見」だった。

「国宝だって人間だ!」は、引率の先生(香取慎吾)が子どもたちを美術館に連れてくるところから始まる。キュレーター(稲垣吾郎)が「奥に国宝がありますよ」と誘導すると、そこに座っていたのは人形浄瑠璃文楽座の人形遣い・桐竹勘十郎だった。

ことし人間国宝に認定される予定の桐竹さんに、実際に人形の動きを見せてもらったあと、子どもたちは素朴な質問をぶつける。「ガラケーですか?」「目玉焼きにはなにをかけますか?」「ショートケーキのイチゴは最初に食べますか?最後に食べますか?」など、大人ならちょっとためらう質問ばかり。

でも、桐竹さんはしっかり答えてくれるのだ。「子どものころの夢は漫画家」とか「朝はパン派」とか「ショートケーキのイチゴは最初に半分食べて、最後に半分食べる楽しみを取っておく」とか話してくれるたびに、聞いてるこちらも「人間……!」という思いが強くなる。まさにタイトル通り、国宝だって人間なのだ……!

■週刊文春の元編集長も登場、抜群の対応力でフォローする稲垣&香取

一方、「子ども記者会見」に登場したのは、「週刊文春」元編集長の新谷学。子ども記者たち(香取慎吾含む)が会見場に揃うなか、進行役の稲垣吾郎は新谷さんに「お会いできて光栄です」とあいさつし、慌てて椅子から立ち上がり「こちらこそ」と返す新谷さん。

その後、子ども記者からは「社長と編集長はどっちがエラい?」「スクープ取材中にバレたらどうする?」「政治家や芸能人に怒られたことは?」と、生々しい質問が続いた。途中、香取慎吾が「好きな食べものは?」を食い気味に放り込んだのは、場を一旦和ませるためだったのかもしれない。

人間国宝には素朴な疑問を、週刊誌の元編集長には生々しい話を。どちらも言わば「ストレート」な質問を、子どもが真っ直ぐな目で聞く。そこに稲垣&香取が、抜群の対応力でフォローする。たっぷり時間を使った構成も相まって、見ている側は安心して知的好奇心を満たすことができる。

「子ども記者会見」の最後は、「紙媒体はこのまま続きますか?」という香取慎吾の質問で締めくくられた。ネットの速報性は確かに便利だが、新谷さんの答えは「紙の雑誌がなくなるかというと、そうは思わない」。雑誌にはさまざまな情報が「雑」に詰まっており、新たな興味が広がるからだという。

「ワルイコあつまれ」も、ある意味「雑」が詰まった番組だ。インタビュー企画以外に、勝新太郎のエピソードを絵本にしたり、変な歌詞のダンスコーナーがあったりもする。その「雑」を、稲垣・草なぎ・香取の3人がそれぞれのパフォーマンスを発揮して、最高の形にパッケージする。2回で終わるなんてもったいない。もっと彼らをテレビで見たいと改めて思わせてくれた番組だった。

文=井上マサキ