9月26日、日本テレビ系のトーク番組「おしゃれイズム」(日本テレビ系)が最終回を迎えた。16年半にわたる放送を締めくくる最後の1時間スペシャルには、MCの上田晋也(くりぃむしちゅー)、藤木直人、森泉の3人に深い関わりのあるゲストがそれぞれ出演。上田パートでは、相方の有田哲平が出演した。コンビ芸人の一方がMCを務める番組に、もう一方が出演するのは珍しいこと。それだけ特別な最終回だった。

最初で最後の「おしゃれイズム」出演となった有田は、ここぞとばかりに上田の裏側を暴露。普段から服装に無頓着な上田を「おしゃれのイズムがない」と斬り捨てると、「出てくるゲストのことは何にも知らない」「知ったかぶりが多い」などと言いたい放題で、最後の放送を盛り上げた。

そんな有田がことさら強調し、番組でもフィーチャーされたのが、上田による「イズム」発言と「『ロッキー』の撮影じゃないのよ」発言である。長年この番組を見てきた視聴者でも、なぜそんな話に時間を割いたのか理解できない人が多いかもしれない。

起点は13年前に終了したラジオ番組「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)にある。2005年から2008年に放送され、現在も単発ながら定期的に復活し、今年になって番組本まで発売になるほど根強い人気を持つこのラジオ番組にとって、2つの発言にどんな意味があったのか。改めて掘り下げてみよう。

■「おしゃれイズム」を「イズム」と略した上田晋也

上田が「イズム」発言をしたのは2006年3月7日放送回のことである。前週のスケジュールを有田と一緒に振り返った際、「俺、イズムだもん、金曜日」と発言したのだ。上田曰くマネージャー陣が「おしゃれイズム」を「イズム」と略して呼んでおり、ついついそれが口に出たらしい。

その妙に自慢げな言い回しに有田が過剰に反応。リスナーもそれに乗っかった。「俺も上田のイズム発言にはマジ引きした。藤木直人が言うならまだしも上田が言うと腹が立つ。謝罪させてくれ」「上田のイズム発言はマジでムカつく。上田謝れ」といったメールが紹介され、「イズム」内での上田の言動も密告された。

その後、面白がったリスナーから批判のメールが殺到する。上田は当時放送していた「銭形金太郎」を「銭金」、「笑いの金メダル」を「笑金」と略しているのと同じだと釈明したが、そこにあった“ドヤ顔感”は拭いようはなかった。リスナーの中でも「イズム」の略称が定着し、ネタコーナーでも定期的にこの発言がいじられるようになった。そのイジリは15年経った今もなお続き、「おしゃれイズム」終了発表時にもSNSを賑わせた。

■共演者もスルー…まったくウケなかった「ロッキー」発言

 もう一方の「『ロッキー』の撮影じゃないのよ」発言は、「おしゃれイズム」内で発せられた。蛯原友里がゲスト出演した2008年1月6日放送回。MCの3人と蛯原がロケで田舎道を歩いていると、地元の子供たちが後ろからついてきた。その際に、上田が「これ、映画『ロッキー』の撮影じゃないんで、そんなにワーッとついて来られても困るのよ」とたとえツッコミとして発言したのだ。

なぜこの発言が注目されたかというと、まったくウケなかったから。他の出演者たちも特に反応せずにスルーしている。「おしゃれイズム」最終回では改めてこの時の映像が検証され、予想よりも子供たちが反応していたという結論に至ったが、当時の論調はとにかく大スベリして、周りを困惑にさせたというものだった。

■映画「ロッキー」シリーズで印象的なランニングシーン

この言葉の由来は解説が必要だろう。出典は上田が好きなボクシングを題材とする映画「ロッキー」シリーズにある。全6作ある「ロッキー」シリーズは、序盤に大きな挫折や敗北、悲しみを味わって失意にくれたシルベスタ・スタローン演じるロッキー・バルボアが、中盤に奮起し、厳しいトレーニングを経て、最終的に宿敵とリング上で激闘を繰り広げる、というのが定番の流れ。クライマックスに向けて盛り上がるのがトレーニングを積む場面なのだが、そこで印象的に描かれているのがランニングシーンだ。

1作目においてロッキーはまだ無名の存在。朝焼けに染まるフィラデルフィアの街を走り抜け、フィラデルフィア美術館前の階段を駆け上がるロッキーに目を向ける人はほとんどいない。それでもロッキーはそこで拳を突き上げ、自分が勝利した瞬間をイメージする。

これが「2」になると、状況が一変。ロッキーが走り出すと、子供たちが後ろから追いかけてきて、その数も徐々に増え、美術館前に到着する時には数百人に膨れあがる。バックには有名な「ロッキーのテーマ」が流れ、クライマックスへと進んでいく。上田はこのシーンを元にたとえツッコミをした。厳密に言えば、「『ロッキー2』のフィラデルフィアを走るシーンじゃないんだから」というのが正しいだろう。

ちなみに「3」では海岸を、「4」では雪山を、「5」では息子や弟子と、「ロッキー・ザ・ファイナル」で愛犬を連れてロッキーは走っている。どれも、その作品を象徴するようなシーンだ。続編的映画「クリード チャンプを継ぐ男」では、ロッキーの愛弟子アドニス・グリードが無数のバイクを引き連れてフィラデルフィアの街をランニングしている。今後、もし上田がロケでそんな場面に遭遇したら「『グリード』の撮影じゃないんだから」とたとえツッコミをするかもしれない。

■水谷豊もメッセージ「ロッキー事件の真実は…」

もちろんこんな知識を持っている人間は「おしゃれイズム」のロケ現場で皆無に等しく、反応もほとんどなかった。「イズム」発言を受けて、常に上田の名言・失言を探していた「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」リスナーがめざとく発見。2008年1月15日放送回に報告が入った。偶然、有田も放送を見ており、さらに古坂大魔王からも上田に「あの発言、スベりすぎてない?」と指摘するメールが届いたという。

上田は「カット前提だった」「放送で使ってもらおうなんて気はさらさらなかった」とラジオで釈明したが、有田は「置きにいっていた」「視聴者にわかりやすく説明していた」と指摘。上田が「大好きなウケをいただきにいっていた」と結論付けた。この結果、これまで以上に激しく、上田が“ウケをいただきにいった”、“ブッコミにいった”場面をリスナーが探し回る展開になる。

翌週、「おしゃれイズム」を筆頭に様々なテレビ番組での上田の言動を報告するメールがまたも殺到。即座にコーナー化され、「ガゼッタ・デロ・カリカリーノ」(のちに「ガゼッタ・デロ・ブッコミーノ」に改名)が立ち上がる。上田はあくまで「一度もウケを取りにいったことはない」というスタンスを取り続け、自分のたとえツッコミは状況をわかりやすく説明しているだけであって、「間違っていることを訂正する“世直し”」であり、「夢を諦めずに頑張りましょうよという“エール”」だと主張した。

そんな苦しい上田の弁明とは裏腹に、Yahoo!で「ロッキーの撮影」と検索すると関連ワードとして「上田」と表示されるようになり、2008年2月14日にはYahoo!急上昇検索ワードランキングで3位(週間でも8位)にランクイン。リスナーからの報告によると、レンタル店での「ロッキー」シリーズの回転率も上がり、社会現象……と言うには無理があるが、ちょっとした話題になった。

この年の5月、俳優の水谷豊が「相棒-劇場版-」の宣伝でコメント出演した際にも「おかげさまで『相棒-劇場版-』を見るためにたくさんの方が行列を作ってくれているようですが、あれはロッキーの撮影じゃないんですよ。そして、ロッキー事件の真実はあなたがブッコんだ。そして、スベったということです」と上田にメッセージを残している。

■深夜ラジオリスナーの共通言語となった「イズム」&「ロッキー」発言

その後、「イズム」と同様に、この「ロッキーの撮影じゃないのよ」は「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」で現在に至るまでいじられ続け、深夜ラジオリスナーの共通言語となった。SNSで検索してみると、リスナーへの浸透ぶりがよくわかる。テレビ番組で、上田の背後に数人のアイドルがいるだけで、「ロッキーの撮影じゃないのよ」とリスナーはツッコんでいて、最終的にはニュースやアニメ、ドラマなどで誰かを複数の人間が追いかける場面があるたびに、どこかでリスナーが「ロッキーの撮影じゃないのよ」とたとえツッコミを入れているような状況になった。ちなみに、2010年10月には「おしゃれイズム」にシルベスタ・スタローン本人が出演しているが、上田はさすがにブッコミをしなかった。

驚くべきは、「イズム」も「ロッキーの撮影じゃないのよ」も10年以上前の発言にもかかわらず、いまだにリスナーに愛され、使用されていること。「おしゃれイズム」という番組は幕を下ろしたが、この番組から生まれた名言は、今後も「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」でいじられ続けるだろう。

純粋に毎週トーク番組として見てきた視聴者とは違うから、本質的にはだいぶズレているかもしれない。番組制作陣やMCたちの意図とはきっと違うだろう。それでも、ラジオリスナーたちはこの2つの発言を思い出すたびにニヤニヤし続け、今後何十年も「おしゃれイズム」の存在を忘れないことだろう。

文=村上謙三久