吉沢亮が、“近代日本資本主義の父”と呼ばれる渋沢栄一を演じる大河ドラマ「青天を衝け」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)もいよいよ終盤。クランクインしてから、1年以上の時が過ぎた。

「僕の中に栄一という役が染み付いているのを感じます。ここまで栄一と一緒にやってきたので、意識せずともただそこにいるだけで栄一になれる感覚があります。演じる瞬間とそうでない瞬間のオンオフを割ときっちり作れるタイプだと思っていたのですが、ここまでやってくると自然と栄一の話し方になる。もちろん日常生活では違いますが(笑)、セットに入った瞬間に自然とそうなる。面白い経験だなと思います」

■自分がやることに対して、余裕がなくなってきていたように感じます

農家の長男として生まれた栄一は、商人、尊王攘夷の志士から幕臣へと波瀾(はらん)万丈の人生を歩んできた。中でも幕臣時代には徳川慶喜(草なぎ剛)の弟のお供として渡仏まで経験。

そこで株式会社とバンクの仕組みを学び、慶喜が隠居していた静岡の駿府で手腕を発揮。そのことが評価され、明治新政府から声が掛かり、元幕臣にもかかわらず、新政府へ出仕。大隈重信(大倉孝二)や伊藤博文(山崎育三郎)らと新たな日本の形を作るために尽力してきた。

「新政府に入ってからも能力を発揮してきましたが、駿府で合本の会社(私益でなく、公益を追求する会社)を作ったときのような商いの世界で生きていたときの、栄一風に言うと胸の“グルグル”があまり感じられず、正しいことをしているはずなのに面白くないとずっと感じてきました。

その中で栄一自身も気付かないうちに“官の人間”になっていた。そんなつもりはなかったのに商人は役人の言うことを聞くものだという姿勢になってしまっていたんです」

元々、官尊民卑の世の中に納得できず、皆が幸せになる社会を目指している栄一は、このことに大きな葛藤を抱く。

「これまでは自分で正しいと感じることを全力でやってきたので、相手が目上の人であろうと年上の人であろうと、正しいと思った道を突き進んできました。

しかし、大人になり、それこそ新政府で働いてからは、自分が正しいと思う道に進むための手段として、自分の道理から外れたこともせざるを得なかった。何かを切り捨てることを致し方なくやる。葛藤も抱えていますし、間違っていることも自分を俯瞰で見たら気付いている。でも、やめられない。自分がやることに対して、余裕がなくなってきていたように感じます」

そんな栄一に声を掛ける人物が現れる。ディーン・フジオカ演じる関西の実業家・五代友厚だ。

「ディーンさんは同じ大森美香さんの脚本の『あさが来た』(2015〜2016年、NHK総合ほか)で、五代さんを演じられているので、体に役が染み付いている感があります。ディーンさんであり、五代さんでもある。ディーンさんと五代さんの人柄が共存しているように感じられるので、一緒にお芝居をしていて気持ちがいいなと感じますし、魅力も感じます」

五代の言葉を受けた栄一は政府を退職。10月24日(日)放送の第32回で日本初の銀行の総監役となり、33歳でいよいよ栄一が目指す民間改革に着手することになる。

■生き延びた者の哀愁があると思いますので、そういったことも伝わればいいなと

栄一の心の中には、これまで出会った人々の“志”が刻まれている。中でも慶喜の存在は大きいと語る。

「作品全体を通して、栄一と慶喜の関係性はとても大きなテーマになっていると思います。本作は栄一と喜作(高良健吾)、慶喜と(栄一を幕臣に誘った)円四郎(堤真一)、円四郎と栄一など、2人の関係性を色濃く描いていますが、中でも栄一と慶喜の関係性は一番色濃いものではないかと思います。

慶喜は将軍になる前からずっと尊敬している人で、明治の世になってからもそれは変わりないですし、栄一が偉くなってからも何度も(慶喜の暮らす)静岡に行きますから。

そして、慶喜を演じる草なぎさんは僕にとって昔からのスターなので、少し形は違うかもしれませんが、栄一が抱く慶喜への尊敬と、自分が草なぎさんに感じている尊敬には、リンクしている部分があるかもしれないなと感じます」

栄一は今後も慶喜らの志を胸に民も幸せになる社会を望んでいくが、海運業を独占しようとする三菱の岩崎弥太郎(中村芝翫)が立ちはだかるなど、苦難の道を進むことになる。

「今までは問題提起を1人の人にぶつけて進んできましたが、今後は栄一が有名になることで該当人物だけでなく、“栄一vs大衆”という構図も生まれてくるように感じます。

栄一を見る第3の視点が出てきて、栄一をヒーローだと思う人もいれば、ただの理想を語っている人物だと思う人も出てくる。実際にやっていることと、周囲の認識の違いが生じてくるので、栄一の人物像がより生々しくなっていく気がします」

つまり栄一が粉骨砕身する姿だけでなく、影の部分も見えてくるのだ。

「夢に向かってギラギラしているのは生涯続きますが、進む道がいろんな方向に折れたり、人を切り捨てるなど、ダークな面も出てきます。ご覧になる方には、あんなに無邪気だった少年がこんな大人になってしまったかという寂しさも感じてもらえるのではないかと思います。

今作での栄一は最後まで生き延びた人というのが一番大きなポイント。その根底には生き延びた者の哀愁があると思いますので、そういったことも伝わればいいなと思います」

◆取材・文=及川静

※「草なぎ剛」のなぎは、弓へんに前の旧字体その下に刀が正式表記