天海祐希主演の映画「老後の資金がありません!」が10月30日より公開中。同作は、作家・垣谷美雨の40万部超の大ヒット小説「老後の資金がありません」を映画化したもの。老後の資金は“2000万円必要”と言われている現代の日本を舞台に、普通の主婦がお金を巡る災難に振り回されながらも奮闘する姿を描いたコメディー作品だ。

天海が演じるのは普通の主婦・後藤篤子。そして、お金の使い方は妻の篤子に任せてしまっている夫・章を松重豊が演じている。公開直前、夫婦役を務めた2人に撮影でのエピソードや、“理想の老後”について、最近あったハッピーな出来事などを聞いた。

――今回、夫婦役ということですが。

天海:はい。以前、ドラマ(「離婚弁護士II〜ハンサムウーマン〜」[2004年、フジテレビ系])で共演させていただいた時、松重さんは居酒屋の大将を演じられていたんですが、私に恋焦がれるという役で(笑)。

松重:そうなんです。ひたすら偏愛している板前をやらせていただきました。

天海:今回、やっと夫婦になれましたね(笑)。

松重:はい。それと、舞台でいうと「パンドラの鐘」(1999年上演)という作品がありまして。

天海:同じ脚本を野田秀樹さんと蜷川幸雄さんのお二人が違うキャストで演出するという作品でした。

松重:僕は蜷川版の“ハンニバル”という武将役で、天海さんは野田版の“ヒメ女”という役だったんです。だから、姫に恋焦がれ、屈折した偏愛がついに成就したのが「老後の資金がありません!」なんです(笑)。

天海:はい、ついに! 

――久しぶりに共演されていかがでしたか?

天海:現場に松重さんがいてくださるだけで、どんなに心強かったか。私がどんどん突っ込んでいっちゃう性格なので、松重さんが現場のことを冷静に見てくださって助かりました。撮影現場では日照関係の問題とかがありますし、みんなで話し合っていてもなかなか結論が出ないことも多いのですが、「松重さん、これはどう思いますか?」と聞くと冷静に答えてくださって。

松重:僕にとって天海さんは戦国時代の三大武将のようなものなんですよ。この役は織田信長かもしれないし、豊臣秀吉かもしれない。あるいは徳川家康かも。天海さんは座長以上の存在感がありますから、現場のスタッフ、キャスト含めて、みんな「天海さんに付いていこう」っていう頼れる武将に仕える家臣になれるんです(笑)。天海さんのすてきなところは、全部自分でジャッジするんじゃなくて、「松重、ここはどうなんだ?」という感じで委ねてくれるんです。「殿、ここは日照の問題がございますので、今は上手(かみて)に動いた方がよろしいかと!」と答えると、「分かった! そのようにいたそう」と言われるので気持ちいいんです(笑)。

天海:いえいえ(笑)。

松重:映画は強いリーダーシップを執る人がいて、「こういう映画にするんだ」という旗印の下に集結していくことが僕ら俳優にとってよりどころになりますし、楽しいし、それで作品が面白くなっていくという確信があります。そんな戦国武将に従う一の家来というポジションが僕は非常に心地よく感じました。

天海:私はワチャワチャしていて。松重さんを筆頭に、皆さんにすごく助けていただきました(笑)。

――親の葬儀代、子どもの結婚費用、自分たちの老後の資金など、現代日本が抱える“お金”の問題を取り上げた作品となっていますが、台本を読んだ時の感想を聞かせてください。

松重:お金のことって、僕らの世界では口にすること自体タブーだったり、はばかられる話題だったりするんですが、ちゃんと考えていかないといけない問題でもあると思うんです。老後のことだけでなく、今の日本の経済自体にも不安がありますし、すでに現実問題なんですよね。

コロナ禍で家計も含めて、いろんなところで相当ダメージを受けてきて、少しコロナが落ち着き始めている中、あらためて“老後の資金ってどうなの?”というのが自分たちの現実問題として突きつけられている状態だなって。これはエンターテインメントですから面白おかしく描かれていますが、現実の荒波の中で家族が翻弄(ほんろう)されながらもお母さんの愛情に包まれていて、その愛情の物語でもあると思うんです。

天海:私も最初に台本を読ませていただいた時、ゲラゲラ笑ってしまったところがたくさんありました(笑)。画の構成とかは監督さんが作ってくださいますけど、最初に作品に触れる時の印象は、初めて作品を見る時のお客さんと同じじゃないですか。「ここで笑った」とか「こういう表現が面白かった」とか、最初に読んだ時の印象や感覚を大事にして演じようと思いましたし、同じように見てくださった時にゲラゲラ笑ってもらえたらいいなって。

篤子さんと章さんの関係性もすてきだと思いました。結構言い合う場面があるんですけど、その根底にはちゃんと信頼関係と愛情があるのを感じます。表面上はピリピリしていても、水面下ではとてもつながりが深い家庭だと思いましたので、それもちゃんと伝わると良いなって思いましたね。

――印象的なシーンやセリフも多いですが、特に印象に残っている場面は?

松重:嫁(天海)、姑(草笛光子)、小姑(若村麻由美)、向こうの旦那(石井正則)が集まって丁々発止で家族のことについての本音とかがどんどんあからさまになって、殻がはがれていくシーンがありまして。

天海:私もそのシーン、演じていて楽しかったです。

松重:そこは長回しで撮っていたんですが、「こういうふうになるだろう」みたいに動きや感情が予測できるものばかりだと見ていても面白くないと思うんです。予想外の感情の流れが出てきて、変な動きをしちゃったりするのをドキュメンタリー的に押さえることで、“ここが人間のバカバカしさだよな”って思えたりしますし、コメディーとしても面白くなります。このシーンにそれが色濃く出ていた気がしますね。

天海:例えば、そのシーンの中で篤子さんが泣けてきて、章さんに「ティッシュを取って」って頼むんですけど、章さんは妹(若村)に渡そうとするから、「こっちに渡せ!」っていうところとか(笑)。

松重:ものすごい修羅場なんですけど、やってることはバカバカしかったり。これが人生なんだなって気がするんです。ものすごい悲劇も深刻な局面も、裏から見ればバカバカしい喜劇にしか見えない。その落差みたいなものがコメディーに仕上げてくれます。

■この仕事に“老後”は「ない」

――理想の“老後”についてはどう思われていますか?

天海:草笛さんといろいろお話をしている時に「いつから老後なの?」って聞かれて、「いや!分からないです!」って(笑)。自分が老後だと思ったら老後なのかな?とか考えたんですけど、草笛さんに“老後”はないでしょう?

松重:ないない! サラリーマンの方は定年とか区切りがありますけど、僕らの場合はそういう区切りがないので、「やりたければいくつまででもやってください」という感じで、88歳になられても草笛さんのように最前線で素晴らしい演技をされていると、僕らは“老後”なんて口が裂けても言えないです(笑)。

天海:言えない、言えない(笑)。ありがたい反面、怖いなって思ったりします。

松重:無理矢理リタイアするしかないんです。でも、そうするとあらぬ詮索をされるんですよね。

天海:「何があった?」ってね。

松重:「病気になった? それとも宝くじでも当てたか?」とか。

天海:それこそ、今回の作品には草笛さんの他にも篤子さんの両親役で竜雷太さんと藤田弓子さんとか、たくさんの先輩が出てくださっていて、いつまでもいろんなことに興味を持たれていて、人間としてかわいいなって思いました。それに私たちよりもパワフルなんです。竜さんなんてウエットスーツを着てるシーンがあるんですけど、上半身を見せていて。

松重:腹立つくらいいい体してるんです。

天海:そういう先輩方の姿を見てしまうと、「疲れた」って言えないです。楽しみながら熱心にお仕事されている姿を拝見していると「自分はまだまだだな。もっと頑張んなきゃ!」って。「負けてられないな」っていう感じで元気ももらえた気がしましたし、「どう老後を過ごしたいか」よりも、「あの人たちの域に行けるように頑張りたい!」って思うようになりました。

松重:草笛さんや竜さんのようになるには、今から準備と努力をしないといけないと思いますし、いろんな積み重ねによって、老“後”にならない、その前で終わっている人生が作り上げられるんじゃないかなと思いますね。

天海:その域に行くのは難しいことだということも分かっています。でも、私が思わせていただいたように、もう少し年齢を重ねていった時に、いつか私もその先輩のようになれたらいいなと思います。

――氷川きよしさんが歌う主題歌のタイトルが「Happy!」ということで、最近あったハッピーな出来事を教えてください。

天海:コロナの影響で公開が1年延期になりましたが、この映画が無事に公開される。それが最近の一番のハッピーです!

松重:本当、それだよね。

天海:公開日が近づくにつれて陽性者数がどんどん減ってきています。まだまだ気を付けないといけませんが、1年前よりはちょっと安心して劇場に来ていただけるんじゃないかと思います。

松重:いろんなことが動き始めた時期、公開のタイミングとしては良かったのかもしれません。

天海:皆さん、大変な時期だと思いますが、ひととき、ちょっと笑って、泣いて、怒って、そして映画館を出る時にはハッピーな気持ちになっていただいて。“今後、こんなこともありますよ”ということを知ってもらえる作品ですので、ぜひ劇場で見ていただきたいと思います。


◆取材・文=田中隆信