上白石萌音、憧れの“朝ドラ”ヒロインに喜びと責任感 『カムカムエヴリバディ』は「温かくて素晴らしい作品」<インタビュー>
同ドラマは、昭和・平成・令和の時代を、ラジオ英語講座と共に歩んだ安子、安子の娘・るい(深津)、るいの娘・ひなた(川栄)、3世代の女性たちの物語。脚本は藤本有紀が担当する。
1925年3月22日、日本でラジオ放送が始まった日、岡山市内の商店街にある和菓子屋「たちばな」で生まれた安子。あんこの甘い香りに包まれて14歳に成長した安子は、繊維会社の跡取り息子で、商科大学に通う青年・稔(松村北斗)と出会う。偶然、稔が英語を話せることを知った安子は、教えてもらったラジオ英語講座で英語を勉強し始める。
■上白石萌音インタビュー
――これまで“朝ドラ”に対してどのような印象をお持ちでしたか?
私が中学1年生でデビューした時に放送されていた、井上真央さん主演の「おひさま」(2011年前期)を見てから、“朝ドラ”への憧れはずっとありました。「おひさま」は毎日録画をし、学校から帰ってきたら正座をして見ていて、真央さん演じる陽子先生に強く憧れました。恐縮ながら、この時から“朝ドラ”というものへの憧れが芽生えていきました。
毎日15分という短い時間ながらも、見てくださる皆さんに元気や勇気を与えることができるというのは、なんて素敵なことなんだろうと。いつか私もこういうことできる女優さんになりたいなと思いました。
――「カムカムエヴリバディ」ではいよいよ毎朝元気を与える側になりますね。
元気になっていただけたらうれしいですね。12歳の頃から持っていた夢が叶ったという喜びもありますし、同時に不安や責任も感じています。でも、完成したものを見たら温かくて素晴らしい作品だったので、この温かさが皆さんにも届くよう祈っています。
――昭和を生きる女性を演じるにあたり、撮影前に準備されたことはありますか?
個人的には現代劇よりも昭和以前の役の方がしっくりくるんです。「昭和の女性っぽい」と周りから言われることもあって、一生懸命この時代に馴染まなければ、という意識はあまりなかったです。
でもやはり戦前と現在とでは、人の雰囲気とか年齢の捉え方が全く異なっていて、安子は16歳でお見合いをするのにちょうどいい頃合いだと言われたりして。そういうギャップもあるので、そこは時代背景などをしっかり汲み取りながら演じたいなと思いました。
物語では戦争もはさむので、その頃のこともしっかり勉強したくて、事前に岡山に行って博物館で資料を見たり、私の祖父母に戦争体験を聞いたりしました。歴史上、物語上のお話で終えるのではなく、本当に起きた出来事として身近に感じるために、色々と勉強をして情報を蓄えました。
■上白石萌音「本当に幸せな撮影現場でした」
――14歳の女性を演じられて、どのようなところが難しかったですか?
14歳という年齢をつかむのが大変でした。安子はピュアで幼くて、でも大人びているところもあって不思議な子だなと。声の出し方とか表情の作り方などを監督と相談しながら演じました。それでもやはり難しくて、カットがかかった後「安子ちゃん、14歳です!」と監督が走って来てくださって(笑)。そこで改めて私は14歳を演じているんだ、と再確認するということもありましたね。
14歳の安子はまだ無垢な部分があって、人の目をあまり気にしていないのかなと思いました。子供ってあまり人にどう思われているのか考えずに動くのかなと。幸せな時は本当に幸せだし、怖い時は怖い、安子が感じる素直な感情に寄り添って演じることを意識しました。
――安子は14歳でラジオ英語講座と出合いますが、上白石さんが同じ年代の時に熱中していたことを教えてください。
私もその頃は英語の勉強を頑張っていました。小学3〜5年生のときにメキシコに住んでいて、帰国してから英語に目覚めました。塾に通って毎日大好きな英語を頑張って、中学校でも英語の授業が始まって、クラスメイトと競ったりしていましたね。今でも英語は本当に大好きです。
――橘家はとても明るくて温かい印象ですが、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
「嫁に出たくない!、ずっとここで暮らしたい!」と思えるほど大好きな家族でした。みんなで食卓を囲むのが幸せでしたし、ああいう人たちに育てられたからこそ安子はこんなに素直でいい子に育ったんだなと感じました。
撮影中は、カメラが回っていようがいまいが関係なく、常ににぎやかでした。食卓のシーンは、カットがかかってもみんなゲラゲラ笑っていましたし、ご飯を食べていたし、本当に幸せな撮影現場でした。
――撮影のセットもとても細かく作られていて素敵ですね。
本当に大好きな空気感で、セットに入ると一瞬で落ち着きました。あの商店街が大好きでしたし、本当に細かいところまで丁寧に作り込まれたセットで、どこを見ても楽しかったし、どこでお芝居しても「カムカムエヴリバディ」の世界観に入り込める感覚がありました。
――松村さん演じられる稔とのシーンが初々しくてとても素敵です。どういったことを意識しながら演じられたのですか?
安子にとって稔さんは憧れのお兄さんで、安子にはそれが恋愛感情なのか憧れなのかあまり分かっていないんだということを第1週の台本を読んだ時に感じました。初めてそういうほんのりした夢みたいなものを持った時の初々しさを出していきたいと監督と相談しながら演じました。
二人は本当に純粋で、「英語」というものを通して互いに興味があるものについての話ができるというとてもアカデミックな人たちで。品の良さとか、賢さみたいなところも雰囲気からにじみ出ていたらいいなと思います。そういう雰囲気はすべて稔さん演じる松村さんからあふれていたので、私はその雰囲気についていきました。
――松村さんが、安子と稔のシーンは「岡山弁でのやりとりが難しかった」おっしゃっていましたが、いかがでしたか?
最初は結構苦戦しました。リハーサルをした後、先生が飛んできて長めにご指導いただくこともありました。そこで一緒に苦労したことが、松村さんと絆を深めるきっかけになりましたね。端正で人柄をそのまま表しているような稔さんが話す岡山弁が大好きでした。
■上白石萌音「人の温かさとユーモアさがあふれている」
――安子の兄・算太役の濱田岳さんとのエピソードを教えてください。
岳さんは、初めて主演した映画「舞妓はレディ」でご一緒していて共演はそれ以来でした。岳さんのことが大好きなので、今回兄妹役で共演させていただけてうれしかったです。
岳さん演じる算太は風来坊的なところがあって、なかなか家にいなくて安子もあまり会えなかったんです。でもお兄ちゃんに会うと安子もすごく元気をもらっていて、同じように私も岳さんにお会いした時はパワーをいただいていました。
撮影中に食事に行きたいと岳さんとも話していたのですが、こういうご時世なので叶わなくて。でも岳さんが「いつか行けたらこういう店に行きたい」と言ってくださってとてもうれしかったです。何年かかってもいいのでそれは実現させたいなと思います。
撮影がひと区切りついた際に、出演者の方とスタッフさんからのメッセージカードが入った温かいアルバムをいただいたのですが、岳さんからいただいたメッセージは「いつ飲みに行く?」でした(笑)。
――今回共演された方の中で、特に刺激を受けた方はいらっしゃいましたか?
常に学ばせていただいていた現場でしたが、私は(親友・きぬ役の)小野花梨ちゃんと共演できたのがとてもうれしくて。花梨ちゃんのお芝居が大好きでこれまでもいろいろな作品で見させていただいていました。今回親友役として深いシーンを一緒に演じるにあたって、たくさん引っ張ってもらいました。私はなかなか人に連絡先を聞けないんですけど、花梨ちゃんには勇気を出して聞くことができました。
――毎日の撮影を乗り切るために気を付けていたことはありますか?
ちょっとでも自炊をすることでした。野菜を切って、電子レンジで温めるだけとかでもいいので、何か自分で作って食べるというところは疲労困憊でない限りやっていました。
――最後に、視聴者にメッセージをお願いします。
「カムカムエヴリバディ」は、激動の時代を描いていますが、その中でも人の温かさとユーモアさがあふれています。親子でバトンをつなぎながら描かれる、壮大でありながらも温かい素朴な物語を楽しんでいただきたいです。
●撮り下ろし写真:ヘアメイク=山田佳苗、スタイリスト=嶋岡隆・北村梓