コミックスの累計発行部数580万部(2021年11月時点)を超える人気マンガ、『古見さんは、コミュ症です。』(オダトモヒト)。『週刊少年サンデー』(小学館)にて連載中で、この秋より、アニメ化、および、NHK総合テレビ「よるドラ」枠でのドラマ化が同時展開され、幅広い世代から高い支持を集めている作品だ(ドラマは11月1日に放送終了)。コミュ障、あがり症、潔癖症、汗っかき、中二病…。さまざまな個性、見方によってはコンプレックスを持つキャラクターたちの人間模様を描いた学園コメディが、なぜ今、支持されているのだろうか。この記事では、その人気の理由を考察する。

■「友達を100人作りたい」“コミュ症”のヒロインが友達作りに奮闘
「コミュ障」とは、「コミュニケーション障害」の略。本来は、視覚や聴覚、発声の障害などにより他者と意思疎通を取ることが難しい状態を指すが、一般的には、「緊張からうまく話せない人」や、その逆で「空気を読めずに話し過ぎてしまう人」など、“コミュニケーションが苦手な人”全般を指して「コミュ障」と表されることが多くなっている。

一方本作では、「コミュニケーションを苦手とする症状」の略として、「コミュ症」という言葉を使用。そして、架空の高校生活を舞台に、人付き合いが極度に苦手な“コミュ症キャラ”として作中に登場するのが、本作のヒロイン・古見硝子(こみしょうこ)である。才色兼備なクラスのマドンナとして、同級生から憧れを集めている古見さんだが、実際には、家族以外とは日常的な会話もままならないほどの重度の「コミュ症」。ひょんなことから、彼女が「友達を100人作りたい」と夢を抱いていると知った主人公の只野仁人(ただのひとひと)が、彼女の友達作りに協力するというストーリーだ。ドラマ版では、古見を池田エライザ、只野をNEWSの増田貴久が演じたほか、溝端淳平、吉川愛、ゆうたろうら豪華俳優陣が好演した。

■コミュニケーションの難しさをコミカルに描き、生きづらさに寄り添う

ドラマは人気俳優のキャスティング、アニメは作画・演出のクオリティの高さが高い評価を得ているが、本作が支持を集める理由はそれだけではない。本作では、古見さんを中心とする登場人物たちが他者とのコミュニケ―ションに悩み、自身のコンプレックスと向き合い、友達作りに奮闘する。その姿を見て、自分の学生時代を思い起こした視聴者・読者もきっと多いはずだ。コミュニケーションの難しさや大切さに共感し、“自分ごと化”できる点こそが、本作の大きな魅力になっているのではないだろうか。

「人付き合い」「友達作り」とは、正解やマニュアルのないものだからこそ、誰もが苦悩した経験があるに違いない。特に、アイデンティティが確立されていない、“自分探し”の途中にあるとも言える青年期は、「人からどう思われているのか」「自分が周りから浮いていないか」といった“集団からの視線”が気になり、ありのままの自分で人付き合いをすることは容易ではないだろう。コミュ障やあがり症といったその人が持つ性質が障壁になってしまったり、孤独を隠して明るく振る舞う、周囲から“ナメられない”ように派手な見た目を演出するといった、“武装”が必要な場合もある。

『古見さんは、コミュ症です。』でも、さまざまな個性派キャラクターたちが登場するが、本作では彼らが抱える“生きづらさ”やコンプレックスを決して否定しない。友情、恋愛、ギャグが織り交ぜられた学園コメディというエンタメ性の強い作品の中で、集団には多種多様な人が属していること、そして、自己を肯定することの重要性、人と交流することの素晴らしさを、改めて感じさせてくれるのだ。

■コンプレックスを否定しない尊い世界にポジティブなエネルギーをもらえる

コミュニケーションの希薄化が叫ばれるようになって久しいが、コロナ禍によって、その問題は一層加速した。SNSなどを介して、表面的な付き合いが手軽に出来るようになってしまい、リアルの場で人と接することを億劫に感じる人はどんどん増えてきているように感じる。

そんな今、本作で描かれている、“リアルコミュニケーションにおいて、人それぞれの個性を尊重してくれる世界”は、とても尊いものに感じられるかもしれない。かつての日常が失われたコロナ禍にあって、コミュニケーションの大切さを再認識させてくれると同時に、「人と関わること」に対して前向きな気持ちにさせてくれるはずだ。

若者たちが感じている“生きづらさ”をあえて明るくコミカルに描き、コメディに昇華した『古見さんは、コミュ症です。』は、この時代にヒットするべくしてヒットした作品だろう。年齢や性別、ステータスに関係なく、ポジティブなエネルギーをもらいたいときには、ぜひおすすめしたい一作だ。