テレビ番組に精通するライターの前川ヤスタカが、地方番組に注目し、レビューしていく。今回はさんいん中央テレビで放送されている「かまいたちの掟」(毎週水曜深夜0:25-0:55)を取り上げる。

現在、東京キー局で数多くのレギュラー番組を持つかまいたち。コンビだけでなく山内(健司)、濱家(隆一)それぞれのソロ活動も含め、限界に挑戦しているのだろうかと思うほどに仕事が増え続けている。テレビだけでなくYouTubeやTwitter配信番組など各種媒体での露出も多く、大袈裟でなく彼らの姿を見ない日はない。

そんな状況にも関わらず、彼らは地方局にもレギュラー番組を持っている、関西ローカルの「かまいたちの知らんけど」(MBS)、「かまいたちの机上の空論域」(カンテレ)、そして今回紹介する「かまいたちの掟」である。

■山内の出身地・島根での冠番組

「かまいたちの掟」はさんいん中央テレビ開局50周年を記念し社運をかけて制作した同局史上初のレギュラーバラエティ番組。2020年10月に開始し、現在も水曜深夜に放送中だ。濱家は大阪出身、山内は島根出身で、地元の違うコンビがそれぞれの出身地でローカル番組を持つというのはなかなか珍しい。

ただ両者の地元への向き合い方はだいぶ異なっている。濱家が「知らんけど」特別編で地元スーパーイズミヤの閉店を惜しみギャラクシー賞を獲得するなど地元愛を前面に出すのに対し、「掟」の山内は驚くほど地元への思い入れがない。高校まで松江市で生まれ育った山内だが、山陰の各ロケ地に行くたびに毎回「来たことないねんなあ」「初めて来ました」「特段思い入れない」を連発。毎回濱家に「さんいん中央テレビも地元でやってる甲斐ないわ」とつっこみを入れられている(ちなみにかまいたちは番組開始以前の2019年から松江観光大使に任命されている)。

ただ、ピンポイントで覚えている場所はあるようで、学生時代によく洋服を買いに行っていたという鳥取県米子市のセレクトショップ「ロケットクイーン」の名前が出るたびに、懐かしさに山内が倒れるというお約束のくだりがある。

■かまいたちの良さが出る、“しばり”がほとんどないロケ

「かまいたちの掟」の地元での人気はなかなかのもので、2021年8月に行ったゴールデンタイム生放送1時間スペシャルでは、同時間帯の最高視聴率13.9%を記録している。同スペシャルでの島根県民へのインタビューでは、地元のスターとして山内に熱烈な支持が集まりつつも、やはりもう少し島根をアピールしてほしいと苦情も寄せられた。

そんな地元愛若干不足気味の「掟」だが、内容はかまいたちの二人が山陰の各地を訪れるゆるいロケ番組。地方番組にありがちな「しばり」は殆どなく、ルールは番組最後にかまいたちがその回で感じた「掟」を発表するのみ。かまいたち的にはこの自由さはとてもやりやすいらしく、両名がそれぞれ「縛りはなければないほどいい」「縛りがあると最初はやりやすいがだんだん苦しくなる」と話している。

■ロケ番組で無類の強さを発揮するかまいたち

「掟」でも「ロケの達人」と紹介されているように、かまいたちはとにかくロケ番組で無類の強さを発揮する。「知らんけど」もTwitterユーザ投票で行動を決めるなど趣向を凝らしたロケ番組であり、ラジオの冠番組「かまいたちのヘイ!タクシー!」(TBSラジオ)もタクシーで東京各地を訪れるロケ番組だ。本人たちもロケには自信を持っているようで、以前雑誌のインタビューで「大阪時代に年300本のロケをこなしており、それがベースとなっている」と話していた。

彼らの強みは、笑いに持っていくパターンの引き出しが豊富なことだ。イチローがメジャー1年目の頃、マリナーズの打撃コーチが「イチローは相手のボールや場面によって5種類のスイングを使い分ける」などと話していたが、かまいたちも相手に合わせて「山内が相手に強く行って濱家が突っ込む」「相手の土俵にあえて乗っかる」「山内のボケに濱家が更にボケをかぶせる」「二人の掛け合いに引き取る」「大人気なく本気になる」など、必ず笑いに持っていけるパターンを多数持っている。

「掟」では、何を言っても「あ”っ?」と聞き返してくる巨大迷路テーマパークのオーナー田中社長(通称ターちゃん)、タクシー会社の社長と二足のわらじでクラシカルなマジックを披露するマジカル江島、とにかくグイグイ前に出てくる出雲大社「大社の紅うさぎ」のおばちゃん店員など、いわゆる「扱いに困る」キャラクターがたくさん登場したが、かまいたちの二人はむしろ、いきいきとして笑いに変えていく。

そして些細なことまで気付いて笑いに持っていくのも彼らのすごさで、たまたま通りかかった「漫画家・園山俊二(松江市出身)の会」の会長の話を真剣に聞きつつ、会長のマスクが異常に口に吸い付くマスクで呼吸のたびにダイナミックに動くことに笑いを堪えきれない、などの場面もあった。

■「かまいたちの番組の中で『掟』が最も面白い」と評する人も

そんな「掟」だが、残念ながら地方番組の性、予算が極めて少ない。常に工夫を凝らしてスタッフが資金を捻出する涙ぐましい努力も見どころの一つで、番組第2回でかまいたちがどハマりしたカードゲーム「ゾン噛ま」をビジネスチャンスと見るや、番組で60個仕入れ販売して数万円儲けるなど、地元の名士・田部長右衛門が社長のテレビ局とは思えない爪に火を灯す運営が続く(番組では何度も田部長右衛門について触れられているのだが……)。

しかし、かまいたちのコロナ感染時にピンチヒッターで「掟」ロケをこなしたアインシュタイン河井が「あんなに(スタッフ)みんないい人の番組あんねんな」と評したように、島根の番組スタッフの士気は高い。

ゆるすぎるシチュエーションで実力がのびのび発揮されるという意味で「かまいたちの番組の中で『掟』が最も面白い」と評する人もいる。月一回毎回日帰りで四本撮りという厳しいスケジュールだが「掟」はきっとかまいたちにとって最も自由で優しい場所だ。

2008年の雑誌インタビューで山内は、大阪と島根の違いについて「島根にはツッコミがないので、誰かが面白いことを言ってもみんなヘラヘラして終わる」と語っていた。

島根の人は確かに大阪のようにツッコミはしないかもしれない。しかし、かまいたちの卓越した笑いの技術を今後も優しく少しヘラヘラしながら見守ることだろう。