12/22にリリースされた3年9カ月ぶりのフルアルバム『effector』はこれまでのandropにはなかったようなさまざまなバリエーションの曲が収められており、バンドサウンドの範疇を一気に超え、大胆な進化を遂げたアルバムになっている。
佐藤拓也「2019年にはアルバムに向けて曲をまとめていたんですが、コロナ禍になって制作が止まってしまって。それで去年は、この混乱した世の中に出す曲は寄り添うような優しい曲にしたいと思って『RainMan』の1曲を出したんです。そこからレーベルの環境が変わったりして、次は驚きを見せたいという風に思って、『Beautiful Beautiful』からアルバム制作がスタートした感じです」

内澤崇仁「今までのandropとは違うもの、インパクトのあるものっていう気持ちは強かったですね。曲は出揃っていたけどアルバム全体の印象は大きく変わりました」

1曲目を飾るその「Beautiful Beautiful」はクールなトラックに言葉数の多いラップが乗る曲だ。

内澤「2017年にCreepy Nutsと『SOS!』という曲でコラボしたことがヒップホップをより知るきっかけになって2018年のはじめ頃に作った曲なんです。そこからいろいろと変わっていって3年くらいかけてできあがりました」

佐藤「最初はもうちょっとメロディアスなラップだったよね」

内澤「コロナ禍になって伝えたいことがきゅっと増えて文字数が増えた感じです。何かに向かおうとしてもすぐくじかれたり怒られたりする世の中に見えて、そうやって自分が思うようなことができなくなってくると自分を否定的に見てしまったり。それが自己肯定に変わるような歌詞にしたいと思いました」
「Beautiful Beautiful」のシングル配信から約3カ月後にリリースした「Moonlight」はバキバキのダンスチューンで、歌詞からはバンドが立ち上がろうとする意志を感じる。

内澤「この曲を書いた時期はバンドを続けていくことに対し、周りからいろいろなことを言われていて。それで、もう一回4人でしっかりやっていこうという気持ちを歌詞に入れました。より自分たちで責任を取れる環境に自分たちを置いて、かっこいいと思っている音楽を届ける環境を求めたので、これまで以上に意志は強くなっていると思います」

アルバムの中でも「Water」と「Gain」は特に挑戦的なサウンドだ。

内澤「これまでトランペットを入れたことはありますけど、サックスが入ったのは初めてですね。『Water』と『SuperCar』に入れました。今年のビルボードツアーで初めてサックスのサポートの人を入れてやったのがすごく良くて。『Water』は演奏するのがかなり難しいんですけど、その難しさがあまり伝わらないコストパフォーマンスが悪い曲(笑)。19/16拍子で」

伊藤「『Water』は曲が内澤くんからきて『かっけえ。レコーディング楽しみだ』って思って。でもいざ準備しようと真剣に聴いたら『これは大変だ』って(笑)。『ドラムの時間多めにください。これはせーのじゃできないです』って相談したんですけど、結局せーのでやったよね」

内澤「皆さんのスキルがすごく上がっていて、最近は大体1、2テイクで終わらせられるんですごいなと。信頼感があるから、面白いものを考えられるっていうのもあります」

伊藤彬彦「『Gain』には少しギターが入ってるんですが、ふざけて『ギター弾かしてくれ』って言って弾いたらやっぱり下手くそですぐ返しました(笑)。全員一回ずつ弾いてみたよね」

前田「全員一回ずつ弾いてみたよね?」

伊藤「うん」

前田恭介「そしたら、やっぱり佐藤が一番うまかったです(笑)」

佐藤「そこはね(笑)」

今回のアルバムでは、コーラスを効果的に使った曲が多いのも印象的に残るが、全て内澤が歌っているという。

内澤「『Iro』ではコーラスを過去最高に入れてめちゃくちゃ大変でした。今思うと誰かに入ってもらったら良かったと思うんですけど、全部自分で歌ったのでいろんな内澤がいます (笑)。全体的に音数が少なくなった分、コーラスのアレンジがしやすくなったところはあります。それに、最近コード楽器がなくてコーラスだけで成立しているような曲が増えていて。ビリー・アイリッシュの曲にも、ベース音だけであと全部コードはコーラスみたいな曲があって、そういう良さも取り入れたかったんです。そのアプローチだと感情的に持っていけるアレンジもやりやすい。家で歌も録れる環境にしたので、延々と突き詰められたのも大きいです」
バンドサウンドから大きく逸脱する方向に振り切ったことについて話を聞いてみると――。

伊藤「元々時代の変化とともにバンドも変化し続けるものだと思っているし、そういうバンドでいたいと4人とも思っているので、良い変化ができてきているんじゃないかなって思います」

内澤「メンバーみんなすごく自由になってきてると思います。デビュー作の『anew』の頃はバンドサウンドという枠があったんですが、その後同期を取り入れてデジタルになってきて、『Yeah!Yeah!Yeah!』とか音数がめちゃくちゃ多くなった時期があって。そのあと同期に合わせるのが嫌になってなるべく自分たちで鳴らせるような音にして。それを経てデジタルもアナログも両方できるようになりました」

前田「人って失敗しないと分からないこともありますよね。挑戦していっぱい失敗した結果、今の良い状態がある。でもこれからまた変わっていくと思いますし」

伊藤「メンバー同士『最近この曲がかっこいい』みたいな会話をすると、その曲の良さを取り入れた曲が内澤くんからあがってくるんです。そうなると自然と自分の好きな演奏ができる。だからモチベーションが続くし、そういう場を作ってくれる内澤くんはすごいなって思ってます」

内澤「メンバーがそうやっていろいろ新しい情報を持ってきてくれるので、『あ、そうなんだ』と思ってチェックして。前田くんが取材の空き時間にいきなりシンセベースを買ってきたりね」
前田「空き時間に急にデカい箱持ってきてね(笑)。今はシンセベースを使っている人は増えたけど、当時は結構先駆けだったんです。バンドフォーマットに捉われる必要もないし、置いていかれるのも嫌だったので。彬彦が今言ったみたいに、新しい楽器を持っていけば内澤くんが取り入れてくれるのは知ってたので、もう買っちゃおうと(笑)」

内澤「シンセベースを最初に取り入れた曲が今回のアルバムに入ってる『For you』ですね」

伊藤「内澤くんがそうやって何でも作れるのがやっぱりすごいよね」

また、今作には音のイメージを膨らませて自由に戯れているような歌詞も多く感じる。

内澤「例えば『Gain』だったら、佐藤くんのギターの音がマシンガンをかき鳴らしてるような音に聴こえて、歌詞も膨らませていきました」

佐藤「「Water』の2Aの息を歌詞に取り入れてる表現は内澤くんはこれまでやっていなかったようなものだし。『Lonely』や『Know How』の歌の表現も今回のアルバムで手に入れた手法な気がしました。歌が楽器になっている感じがして、より歌そのものがビートやリズムに寄ってる感じもするし」

内澤「歌詞と歌もやろうと思えば永遠にできる環境だったので、『今日はこの歌詞をウィスパーで歌ってみよう』ってやってみて、ダメだったらまた録り直すっていうことがずっとできたので、いろいろとパターンも試せたし楽しめました」

さまざまな試行錯誤を重ね、音楽の可能性をとことん追求したような本作だが、この一枚を完成させた今、思うこととは?
前田「例えば『Water』とか、『こういうことがやれたらいいな』っていうことが少しずつ具現化されたアルバムだと思います。だから今後はまた各々がいろんな音楽を聴いたりして、それを内澤くんに流し込む作業が行われるんじゃないかと(笑)」

伊藤「ガソリンが溜まって動くみたいな(笑)」

内澤「(笑)」

前田「もちろん内澤くんも音楽をすごくたくさん聴くので、そこからも新しいものが生まれてくると思いますし」
伊藤「ライブでやってきた曲や前からある曲も多かったので、マスタリングで聴き直したときに4人でやってきたことの歴史を感じました。フォトアルバムを見返しているような気持ちになったというか。聴いてもらえる人にとっては、幅広い曲が入っているのでどれかしら好きになってくれるんじゃないかと思ってます。そういうアルバムをフィルターがない状態で届けられる環境で作れたのも大きい成果だと思います」

取材・文=小松香里