初のベストアルバム『雨宮天 BEST ALBUM - BLUE - / - RED -』を2タイトル同時リリースする声優の雨宮天。今回『BLUE』『RED』それぞれのリード曲を、雨宮自身が作詞作曲を手掛けている。

「そもそも『BLUE』はシリアスでアンプテンポなロック、『RED』は歌謡曲という2つの軸があったので、そういう曲を作るぞという目標からのスタートでした。それぞれをイメージして2曲ずつ提出したんですけど、プロデューサーから全部ボツをくらいまして(笑)。私に自由に作らせるとヘンな曲というか、クセのある曲を作りがちなんです(笑)。プロデューサーと一回話した中で、今回はリード曲ということもあるので『BLUE』はもっとわかりやすく王道でキャッチーなシリアスロックナンバー、『RED』に関しては“中森明菜さんっぽい”という具体的なワードが出たので、イメージを更新して、より細かく、ピンポイントを狙ってもう一回作り直したという感じでしたね。具体的なものがあったほうが、このあたりの曲を研究材料として聞いたら何かを得られるなと定まってくるんですけど、難しさもありました」

■生みの苦しみはすごく強かったです

『RED』のリード曲『ロンリーナイト・ディスコティック』は、歌謡曲のフィーリングとロックを融合させたナンバー。

「歌謡を意識して、ちょっと昔のメロディとかを考えてみたんですけど、1980年代ではなく、今現在のお客さんは好きになるか? 求めているものは違うのでは?みたいなことを考え始めちゃって…。そこのバランスのとり方にめちゃくちゃ悩みましたね。歌謡っぽいメロディができても、これはお客さんが好きじゃないなと思ったらもう全部作り直して。そういういろんな迷いを経て出来上がった曲なので、生みの苦しみはすごく強かったです(笑)」

メロディはもちろん、歌詞で選んだひとつひとつの言葉にも彼女のこだわりが詰まっている。

「1980年代の歌謡を意識した曲なので、今の曲にはあまり使われなさそうな言葉を入れたいなという気持ちがあって。あとは感覚的なことですけど、発してみて口が気持ちいいか。例えば“変わるがわる交わされるデザイア”や、“バカね”と“やめて”は、このメロディにこの言葉がのることがすごく気持ちいい(笑)。韻を踏むのも好きなので、1番を書いた後に2番はどう韻を踏めるかを考え始めて、この曲だと“シューズ”と“ルージュ”、“デザイア”と“メサイア”、“チープ”と“陳腐”とか。音のハマり、言葉自体が好きかどうか、韻をうまく踏めているかどうかという要素を全部クリアしたくて、時間はかかるんですけど、もともと言葉が好きなので妥協できなくて。すごく困ることもあるし、めんどくさいところでもあります(笑)」

■お客さんに届けてみんなが好きになってくれて、初めて不安が払拭される

ここまで細い部分にまで力を注いでいるからこそ、ファンの手に渡り、反応を見るまでは思い悩むこともあるという。

「自分が迷いながら作ったものだからこそ、本当にこれでよかったのかな?という気持ちがずっと残っちゃって。だから周りのスタッフの皆さんにいい曲だねと言ってもらえることで一段階上にあがれて、かつお客さんに届けてみんなが好きになってくれて、初めてその不安が払拭されるんです。だから今すでに思い入れが強いというよりは、これを出したあとにみんなが好きになってくれたら、そこで初めて思い入れを強く持てるんだろうなと思いますね。ワンコーラスがYouTubeに公開されていて(※取材は21年12月中旬頃)、今のところ感触はいいですし、再生数も順調なのでひとまず安心かなと思いつつ、まあフルを出してから決まるなと結構ドキドキそわそわしているところです。例えばCDで曲を出したときにそこまで好感触じゃなくても、ライブのパフォーマンスとかいろんなことでめちゃくちゃ化けて、そこからみんなが大好きになる曲もあると思うんです。もしこの曲をみんなが気に入ってくれても、ライブで置く位置を間違って『この曲でテンション下がったね』みたいな印象を持たれちゃうと、もしかするとあんまり好きじゃないと思われちゃうかもしれない(笑)。だからパフォーマンスや曲を置く位置も大事だなとすごく思っていますね」

■やってやらぁ!みたいな気持ちでした(笑)

『BLUE』に収録された「This Hope」では、制作中に大きな壁にぶち当たった。

「『This Hope』はもうとにかくわかりやすくキャッチーに作っていこう、みんなが好きそうなコード進行を使おうと考えて作っていたので、作曲は基本的には大変ではなかったです。ただこういう曲だからDメロがあったほうがエモいな、作りたいなと思ったんですけど、そこでどうしたらいいかわからなくなって思いっきりつまずいて、めちゃくちゃ落ち込みました(笑)。サビも命だけど、Dメロも同じように命だと思うんですよね。だから妥協はできないけど、作っても作っても納得がいかなくて。それで一回、自分の部屋で気持ちを沸騰させてリセットして。そうすると整理されるのか、すごく冷静になってやる気が湧いてくるんです。そこからはさっぱりとした気持ちで取り組めて、なんとか出来上がりました」

そして驚かされるのは、その制作期間。

「たぶん3週間で7曲くらい提出して、ボツを食らってからこの2曲ができるまでは1週間くらいで。時間がなかったんですよね…(笑)。でも時間がないからといってやらないのは許せなくて。時間はないけど、できないわけではないんじゃないか、じゃあやるしかないんじゃない?みたいな。TrySail(※雨宮が参加しているユニット)のツアー中だったので、新幹線でテーブルを出してiPadの鍵盤アプリを開き、鍵盤を2段表示し、イヤホンをして一生懸命つくりました。それで気持ちはかなり追い詰められたんですけど(笑)、でも諦めたくなかったんです。やっぱりベストアルバムのリード曲だし、またとないチャンスだから、ここで妥協したらきっとまた妥協するだろうなと思って。やってやらぁ!みたいな気持ちでした(笑)」

(取材・文 / 東海林その子)