宝塚歌劇団を退団して約1年半。もともと伸びやかな歌声と丁寧な役作りで、実力派トップスターとして人気を博してきた人ではある。しかし、退団後初のミュージカルとなった「INTO THE WOODS」の魔女役、続くミュージカル「next to normal」の双極性障害の母親役、一作ごとにさらなる進化を遂げ、女優として新たな魅力を開花させてきた。その望海風斗が、初のラジオパーソナリティに挑戦したのが、5月に放送された「望海風斗のサウンド・イマジン」だ。

さまざまな“音”にクローズアップし、これまでにない切り口から望海の興味のある分野を掘り下げていくこの番組の、待望の第2弾が8月9日(火)夜9:05からNHK ラジオ第一で放送される。今回のゲストは、7月29日に博多座で大千秋楽を迎えたばかりのミュージカル「ガイズ&ドールズ」で共演していた井上芳雄。収録を終えた望海にインタビューすると、お互いのこと、歌そしてミュージカルについて…興味深い話が次々と飛び出した。

――浅田真央さんをゲストに迎え、ラジオパーソナリティー初挑戦となった前回の感想をうかがえますか? 反響は届いていましたか。

そうですね。ファンの皆さんをはじめ、たくさんの方が喜んでくださったというか、楽しんでくださったみたいで…。声で聞くって、ちょっと特別な時間なのかなと感じました。また、真央ちゃんとお会いできる機会もなかなかないので、またじっくりとお話できたこともありがたかったですし、真央ちゃんのファンの方もすごく喜んでくださっていたようでうれしかったです。

ただ、前回の放送を聞いて反省する点がいっぱいありました。話の聞き方や、ゲストの方の話の引き出し方…。あとラジオは音で聞くしかないからこそ、自分が感じたことを声…言葉にして伝えるスキルが必要で、それがすごく難しい。反省点ばかりでした。

――今回の第2弾のゲストは、ミュージカル「ガイズ&ドールズ」でも共演された井上芳雄さんです。お話、とても盛り上がっていましたね。

ラジオにも慣れていらっしゃる芳雄さんにいろいろ助けていただきました。芳雄さんとは「ガイズ&ドールズ」の稽古を含めると、かなり長い期間をご一緒させてもらっていたところでしたので、とても安心感がありました。なにより、芳雄さんが本当に話を回すのがお上手なので、私が何を言っても的確にフォローしてくださるし、絶対に面白くしてくださる。今回こそは私がしっかりしなきゃと思って挑んだのですが、結果的には、芳雄さんの話が面白すぎて、もっともっと聞きたくなってしまい、収録時間をすごくオーバーしてしまいましたから(苦笑)。

――いろんなお話をされていましたが、とくに印象的なお話は?

いっぱい話しすぎましたよね(笑)。なかでも印象に残ったのは歌の話でしょうか。芳雄さんって人から話を引き出すのが上手な方ですけれど、ご自分が舞台にどういうふうに向き合って来られたかとか、ご自身の努力されているお話ってあまりされないんです。…というか私は聞いたことがなかったので、そこを聞くことができたのがすごく新鮮でした。

発声に関しても、芳雄さんが舞台の本番前にやられていることを教えていただけて…。芳雄さんように完璧に見える方こそ、いろいろなことを考えながら喉と向き合って、これだけの段階を経て、毎日の公演乗り越えられてるんだなって。

いつもご自身のことは面白おかしく話されるじゃないですか。でもその陰で、努力を続けてこられている。でも、それを普段感じさせないというのが、やっぱりすごいなと改めて思いました。

――身近な存在だと逆に、お互いに仕事への向き合い方について話ってあまりしないですもんね。

なかなかここまで歌のこととか、普段の舞台への向き合い方のような踏み込んだ話って伺えないですよね。だから今回、お話する機会をいただけてすごくうれしかったですし、芳雄さんもいろいろお話してくださってありがたかったです。

――トークの中で望海さんが、女性を演じるようになってから、こう歌いたいと思うのに自分のスキルが追いつかずに悔しさを感じることがある、というお話をされていたのが印象的でした。

結構ありますよ。とくに「ガイズ&ドールズ」で演じたアデレイドの曲は、すごく難しかったです。男役の発声ほど低くはないけれど、かといって高くもない中音域で、思うようにスムーズに声が出ない。それが自分の中でものすごく嫌で、芳雄さんに稽古場で「なんか悔しい」って話したら、「もっと堂々と歌っていいんじゃない」とアドバイスしてくださったんです。でも、やっぱり気になっちゃいますね。

――歌のお話が出たのでぜひ伺いたいのですが、今、舞台で歌う時に大事にされているのはどんなことですか?

本番までに踏んでいかなくてはいけないプロセスというと、技術的なこともそうですし、役としての感情の流れとかいろいろあるんですけれど、本番で一番大切にしたいのは、そこまでのプロセスをすべて忘れて、その日にしか出せないものを出し切ることですね。舞台ってその日その日でお客様が違いますし、芝居の流れも少しずつ違いますし、生演奏に合わせて歌うので、その日その時にしか歌えない歌というのが絶対あるはずなんです。なので、それを絶対忘れないようにしようと思っています。

うまくいかないかったらどうしようという不安は毎回ありますが、それを気にしすぎて技術だけで歌うのは、絶対しちゃいけないこと。そのためには、本番までにどれだけのものを積み重ねておけるかだと思っています。そして本番になったら、その日、その時に流れる空気を大切に歌う、ということでしょうか。

――もうひとつラジオの中で、よく聞く曲ということで1曲紹介されていましたが、普段よく聞かれるのはどんな音楽ですか?

普段流しているのは、カントリーミュージックが多いです。カントリーミュージック括りで聴いていて、誰のどの曲、という特定のものがあるわけではないんですけど。ただ、車を運転している時はもうちょっとアップテンポのものが良くて、いきものがかりも聴きますし、BTSもかけたり。あと、ミュージカルのサウンドトラックはよく聴きますね。宝塚を退団してから、いろんなミュージカルの曲を聴くようになりました。

――退団後、聴く曲もちょっと変わってきたんですね。

変わりましたね。わりと女性ボーカルのものを聴くことが多くなりました。やっぱり、ミュージカルに出られてる方のアルバムが多くて、聴きながらも発声はどうなっているんだろうって考えたりしちゃいます。

――プライベートでつい歌っちゃう、ということもありますか? それこそご飯を作りながら鼻歌を歌う、みたいな。

あんまりないかもしれないです。でも、例えば音楽番組を見ている時とか、CDを聴いている時に、これ歌いたいなと思って、一緒にハミングで歌ったりとかすることはあります。お風呂でシャワーを浴びながら、すごい発声練習していることもありますけど(笑)。

――やっぱり歌うのは発声練習のためなんですね。

ここを克服したい、と思っているところをずっと延々と(笑)。最近は高音が多いです。

――先日、ミュージカル「ガイズ&ドールズ」の大千秋楽を迎えたばかりです。宝塚音楽学校の同期である明日海りおさんと女性役同士で共演した感想を、あらためて伺えますか。

やっぱり安心感はありましたね。今回、お互いに女性役というちょっと慣れないことをやっていて、お稽古中は不安なことがいっぱいあったんです。私もそうですけれど、明日海に関しては6年もトップをやってきているわけですが、お互いにそういうものを忘れて…というかどっかに置いてきてたんです。でも本番が始まってみると、自分がちょっと失敗したとしても、この人がいてくれるなら大丈夫だって、安心感をものすごく感じたんですよね。

ふたりで一緒に歌う場面はやっぱり楽しいですし。宝塚時代から、明日海の舞台に対する情熱の傾け方は、すごく自分の刺激になっていましたが、改めて今回その姿を目の当たりにして、そうだった、こういう人だったなと。本番が始まってもなお、粘り強さというか…千秋楽まで常に上のものを求め続けていく姿勢は、やっぱりすごいなと思いますし、刺激を受けます。

――井上さんとの共演、そしてその座長ぶりはいかがだったでしょうか。

芳雄さんは、何と言うか…すごくトップスターさんだなと思いました。みんなが芳雄さんを頼りにしてるのもありますけれど、芳雄さん自身が、何があってもブレることなくフラットな状態でいてくださるのがどんなに心強かったか…。その一方で、ふざける時には、もう全力でふざけられるんです。稽古場で芳雄さん自身が“ちゃんとしなきゃ”って空気を作らずにいてくださるので、周りの私たちも、自由でいいんだなと思って楽しんで作品に向き合えていたと思います。そういう安心感をみんなに与えてくださる方なんですよね。こちらが何をやっても受け止めてくださるし、すごくいい意味で、明るく前向きに舞台に集中できる空気を作ってくださる。理想のリーダーですよね。

あと、芳雄さん自身が、舞台が好きっていう気持ちをずっと持ってやり続けていらっしゃる。それってすごいことだと思うんです。だから、ご覧になる方が惹きつけられるんだなと感じています。そういう情熱を忘れずにいさせてくださる存在です。

――浦井健治さんとは恋人同士の役でしたが。

浦井さんの舞台は以前から拝見していて、いつも役を魅力的に演じられているなと興味深く思っていたんです。今回、初めて共演してみて、その理由がすごくよくわかったというか…。とても人を大事にされているというか、相手のお芝居をちゃんと受け入れて、さらに広げてくださる方なんです。なんとなく飄々とされてるイメージを持っていたんですが、稽古場からエネルギーを出される方なんですよね。何をやっても全力だし、こちらが何をやっても受け止めてくださって。

先ほど収録中にも井上さんに指摘されましたが、私自身は無意識なんですが、稽古場でしょっちゅう違う言い回しでせりふを言ったりしていたんですね。自分でも気付くぐらいなんで、かなりひどかったと思うんですが…。それでも「大丈夫だよ」と、大きな心で受け止めてくださるので、すごく安心してお芝居ができましたし、その人柄というか人の良さに、救われることも多くて。とても魅力的な方ですし、ネイサンなのか浦井さんなのかわからないくらい、一緒にやっていて楽しい気持ちでいられました。

――最後に、この先に控えているコンサート「Look at Me」についても伺わせてください。退団後初のコンサートとなった「SPERO」から約1年。今回はどういった趣向を考えられていますか。

何よりもまずは、来てくださる方とぐっと距離感が縮まるものになったらいいなというのがあります。あとはやっぱり、たくさんの歌に挑戦したいですね。「SPERO」は、女性のキーで歌うという挑戦の場でもあったんですが、今回はもっと幅広く、これまで歌ったことのない曲にも挑戦して、いろんな歌の声を出していきたいと思っています。

取材・文=望月リサ