コロナ禍で2年半以上が過ぎ、思うようにライブやイベントを行えない状況下でもファンとふれあうため、多くのタレントやアーティストがコロナ前よりもオンラインの活動を加速させた。その一環がファンクラブだ。ファンクラブビジネスのプラットフォーマーに取材を行い、コロナ禍での変化を聞くと、ファンクラブという存在自体の変化が見えてきた。タレントが一方的にコンテンツを提供する場から、ファンと相互にコミュニケーションを行う場への変化。それはタレントにとってもファンにとっても安心できる「ファンコミュニティ」の実現へとつながっていく。

■コロナ禍で新たなジャンルのファンクラブ開設や、ファンクラブの複数化が進む

1エンタメファンの体感としては、コロナ禍でリアルイベントの開催が危ぶまれる日々が続く中、ファンクラブ運営に注力したり、新規立ち上げを行うタレント・アーティストは増加している印象があるが、実際のところはどうなのだろうか。

まず取材したのは、100万人を超える有料会員を抱えるファンクラブプラットフォーマー大手のSKIYAKI。経営企画室長/広報PR担当の武田健志氏に話を聞いたところ、既存ファンクラブ会員数の成長ペースはコロナ禍で鈍化したとのことだった。

「今までのファンクラブの形だと、入会動機はライブチケットの先行予約がメイン。リアルライブの開催が難しい状況ではインセンティブが働きにくいため、現状の会員がすぐさま離れることはなくとも、新規会員の獲得は難しくなっていました」(武田氏)

確かに緊急事態宣言下ではイベントの中止が相次いだ。その後も感染状況によって一進一退が続き、コロナ前と同様の水準に戻るかは不透明な状況だ。しかしSKIYAKIの売上規模はコロナ前と変わっていない。その理由のひとつは、新たに開設されるファンクラブの増加だという。

「弊社は音楽系アーティストのファンクラブを多く運営していますが、それ以外のジャンルの方にも多くご利用いただくようになりました。例えばYouTuberやTikTokerの方。また日本初の国技のファンクラブとして、大相撲協会のファンクラブもできました。相撲にはタニマチ文化があるので、ファンクラブとの相性はいいと思います」(武田氏)10月には両国国技館でファンクラブ会員向けのイベントも予定されている。

もうひとつは、ファンクラブの複数化だ。基本的なファンクラブに加え、プラスアルファのサービスを受けられる「プライムコース」のファンクラブを運営するタレントが増えているという。

たとえばプライムコースのユーザーを対象に、毎月スタジオからオンラインライブを開催するアーティストがいる。オンラインライブは直前までチケットが売れづらいため、アーティスト側は不安を抱えながら準備をせざるをえないという話を聞いたことがある。またファンの側も視聴期限や購入期限を誤って見逃すような事態もありうるだろう。アーティストからするとライブ配信による安定的な収益を見込むことができ、ファンは月1度という高い頻度でもれなくライブ配信を視聴できる、まさにWin-Winの仕組みといえよう。

また、HYDEやVAMPSらが所属するレーベル運営の「VAMPROSE Archives」などは、過去のライブ映像をアーカイブ配信することに特化したファンクラブだ。このようにタレントが持っている映像資産を有効活用していくケースもある。

これを可能にしているのがファンクラブプラットフォーム「Bitfan」「Bitfan Pro」だ。SKIYAKIでは、専任チームが付くことでデザイン面の自由度などにアドバンテージがあり、コンテンツ発信に適した「Bitfan Pro」と、即日のサイト開設が可能で、ファンとの双方向コミュニケーションに適した「Bitfan」、2種類のプラットフォームを用意している。アーティストのニーズに応じてサービスを使い分けることで、1アーティストが2種類のファンクラブを運営することを支援しているのだという。

■「その場にいること自体が楽しい」ファンコミュニティという場所の価値

もう一社、コロナ禍において大幅な成長をとげている「Fanicon」を運営するTHECOO株式会社代表取締役CEOの平良真人氏にも話を聞いた。2017年12月にサービスを開始し、コロナ禍でも俳優やアーティスト、インフルエンサーなど多様な利用者が増加、年間成長率は2021年度で130%超となっている。

Faniconはファンクラブではなく「会員制ファンコミュニティプラットフォーム」と打ち出し、アイコン(=タレントなど)とファンの、またファン同士のコミュニケーションを軸にサービス設計をしている。1つのプラットフォーム内で、用意されている様々な機能から自由に使いたいものを選び自身のコミュニティを設計することが可能だ。たとえばファンと適度な距離感を保ちたい場合は、Facebookのタイムラインのような「シーン投稿」機能で動画や写真の投稿のみを行い、ファンとの距離感を近づけたい場合は、LINEのグループチャットのような「グルチャ」機能に本人も参加してファンと交流するなど、求めるコミュニケーションのあり方をヒアリングして機能や使い方を提案しているという。

「『ファンコミュニティ』とは、その場にいること自体に価値があり、楽しい場所を提供するということです。『いいね』する行為自体を課金制にして回数上限をなくしたり、細かな設計をたくさん行い、コミュニティでの体験の楽しさを感じてもらえるよう工夫している。行きつけの飲み屋で飲むのと家で飲むのは、同じお酒でも違うでしょう。場や体験にお金を払うという感覚です」(平良氏)

ユーザーが場に対して愛着を持つことで退会を防げる。さらにコミュニティ内での行動を課金制とすることで、ユーザーに課金動機が生まれやすく、他プラットフォームと比較して高い収益性を実現できる仕組みだ。

さらにオンラインで展開されるファンコミュニティの強みのひとつは、時間と場所を超えてつながっていけることでもある。

「たとえば友達がいなかったひきこもりのユーザーが、ファンコミュニティの中で友達ができたことで学校に行くようになったという事例がありました。コロナ下で孤独を感じる人が増え、どこかのコミュニティに所属していることが心の支えになる。またアイコン(タレント)側も、イベントができずファンに直接会えない中で、ファンコミュニティがあることが心の支えになったという声も聞きます」(平良氏)

■小コミュニティが増加、クリエイターがファンから直接収益を得る時代へ


Faniconの「ファンコミュニティ」は、タレント側からの一方向のコンテンツ提供がメインとなる従来のファンクラブと違い、ファンが集まり交流・発信する場自体を作るという考えだ。SKIYAKI武田氏も、そもそもコロナ禍ではファンクラブのあり方自体が変化してきていると指摘した。

「2020年はファンクラブビジネスにおけるひとつのパラダイムシフトでしたが、過去にもこういった変化は数回起きています。かつて80年代のファンクラブはアナログで会報を送っていましたが、ガラケーの普及によって待受や着メロのようなデジタルコンテンツも供給するようになり、スマホの時代ではそれが動画に変わった。そして直接のコミュニケーションが難しいコロナ禍においては、ライブ配信のようにリアルタイムかつ双方向のオンラインコミュニケーションが求められる。クリエイターのニーズ次第ではありますが、今後はメタバース(仮想空間)やNFT(コピー不可のデジタルデータ)等の技術も取り入れていくことになるだろうと思います」(武田氏)

総括して、タレントからファンへコンテンツや特典を供給するだけではなく、ファンからも発信できる双方向性のある仕組みが求められているといえよう。

今後のファンクラブビジネスの見通しについても尋ねたところ、武田氏はこう語った。

「クリエイターの裾野がさらに広がっていくことは間違いないと思います。あらゆる『表現したい人』が、小さな単位でファンを囲っていく図式になるのではないか。そういったコミュニティが無数に存在する形になる」

実際、Faniconでも2,300以上(2022年3月時点)のコミュニティが存在するのに対し、有料会員数は約18万人と、数十人程度の規模のコミュニティも多い。Faniconではコミュニティが盛り上がるのに必要なファンの最低人数を30〜50人ほどとしており、従来の規模感のファンクラブとは性質が異なってきていることがわかる。

こういった見通しのもと提唱されるのが、クリエイター個人がファンから直接収益を獲得する経済圏「クリエイターエコノミー」だ。既にYouTuberをはじめとした配信者への投げ銭や、クリエイターへのクラウドファンディングなどは日本でも活発に行われているが、アメリカでは質問に答える、自撮りを送る、生電話などといったメニューにタレントが自ら値段をつけて提供するサービス「Fanhouse」や、タレントに動画メッセージを依頼できるサービス「CAMEO」など、直接収益を得るためのプラットフォームが群雄割拠している。なお「CAMEO」は2022年4月に日本にも上陸済みで、まだ知名度はそこまで高くないものの、徐々に国内でも参入タレントが増加している様子だ。

テクノロジーの進歩に加え、コロナ禍という外的要因によって変化を余儀なくされるファンクラブの在り方。だがそのベースとなる、ファンが自分の好きな対象を応援したいという想い自体はずっと揺るぎないものであり、そのニーズが不変であるからこそファンクラブビジネスは今後も進化し続けるのだろう。