過去二回のインタビューでは「菅原小春の10代」、「菅原小春から見た“10代のダンサーたち”」というテーマでお届けしてきたが、完結編となる今回は「表現者としてのヴィジョン」について話を聞いた。

彼女のパフォーマンスのモチヴェーション。海外で活躍し続ける彼女だからこそ語れる、日本と海外それぞれでダンサーが置かれている環境の違いとは? さらにいま彼女が抱いている未来へのヴィジョンまで、じっくりと語ってもらった。

――菅原さんのダンスを拝見していると、あくまで私感ですが、良い/悪いではなく、身体の重心が下に据わっていないというか、重力と戦っていないような印象を受けます。

「ああ、確かに。重力と戦うの、苦手だし(笑)」

――もっと言うと、菅原さんの身体には丹田のようなコアの球体があって、どんなに手足が激しく動いても、その球体が、いつも菅原さんの身体の真ん中で浮いているような印象を受けるんです。

「そうかもしれない。自分のダンスにおける球体のようなコアの存在は、確かに自分でもあると思いますね。私はバレエやコンテンポラリーといった基礎をほとんど飛ばしてここまできちゃったので、できないことや後悔もたくさんあるんですけど」

――その一方で、ずっと持ち続けてきたものはありますか?

「人やモノへの興味かな。インスピレーションの芽というのはどんな場所にでもあると思う。いまこうやってお話している時の相手の話し方とか、映画の中の役者さんはここでどうしてああいう顔をしたのかとか。それなのにダンサーって、良くも悪くもダンスのことしか目に話に入らない人が多い。ダンスをやってダンスの発表会に出てダンサーだけで集まってしまいがちになる。もっとダンサーの枠の外の人たちに伝えようとしないとたくさんの人に届かない。例えば町の公民館で踊って、仮に一人のおばあちゃんが『すごいわねぇ』と感動してくださったら、その時点で、もうダンサー同士で踊っているだけの環境とは違う世界が目の前に開けているじゃないですか?」

――そうですね。

「ずっと同じ場所で同じこと続けるのは安心。でも、何も生まれないし、新しくない。成長も出来ない」

――人やモノへの興味は増す一方ですか?

「そうですね。一人でボーッとする時間もあるし、自分だけで悩んで答えを出して、それがいいか悪いかわからなくなって、自分で自分に問いかける時間もあります。でも人と一緒に何か生み出すことが大好きなんです。自分一人だけじゃ何もできない。たくさんの才能がひとつになった時の力を信じる。それが出来るのは人間特有の素晴らしさなんじゃないかなって思います」

――いまも昔もご自身の感動の源になっているような不動の存在ってありますか?

「宮崎駿さんですね。たぶん一生『ありがとうございます』って思い続けます!」

――10代の頃からダンスを踊り続けている菅原さんですが、これまでのキャリアにおいて「ここはターニングポイントだったかな?」と思える時期や出来事を問われたら?

「そういうの、あまりないんですよ。私、いちいちフットワークが軽いので、例えば海外へ出かける時も、綿密な計画を立てることはほとんど無くて。『行けば分かるさ』と思っちゃう人なので。いいダンスをすればいいリアクションが返ってくるし、心の中で『ダメだ』と思って踊ってしまったら、やっぱりそういうリアクションが返ってくるものだし。まずは挑戦して、ダメならその時に考える。そこはいまも昔も同じですね」

――海外に出た際、「(私は)日本人でよかったな」と感じる瞬間はありますか?

「もちろん。まずご飯が美味しい(笑)。マナーが身に付いていることへの有り難みと誇り。トイレとお風呂の環境が恵まれている国であるという感謝。あとはこたつも好き(笑)。ダンスにおける強みは黒髪かな。アジア人特有の強さや美しさを表現することができますからね。これは女性に限らず、男性についても同じだと思います」

――菅原さんはこれまでの取材の場でも、ダンサーへの理解やスタンスに関する海外と日本の違いや、ダンスを総合アートとして見せていきたいという想いを語ってきましたね。日本だとまだダンサーと言えば何らかのバックダンサーがメインで、脇役としての認知になりやすいとか、だからこそダンサーという職業のみで生計を立てるのはなかなか難しい現状であるといったお話ですが。

「そうですね。日本はまだ表現としてのダンスの表現にフォーカスをしてくれていないと感じます。例えば中国ではアメリカからダンスの番組を持ってきて、かなりシリアスな作りで放送しているんです。ちょっと台本を感じさせる演出もあるけれど、身体と心が本気でぶつかり合う瞬間をしっかり届けようとしている。でも日本では、どうしてもバラエティやコメディに落とし込んで、笑いに転化させようとする。私が堅いのかもしれないけど、だからテレビが苦手で(苦笑)。ドキュメンタリー番組だと自分のままでいられるからまだ何とかなるんですけど(笑)」

――なるほど。

「私は笑いのためにダンスを作ったり踊ったりしているわけじゃないし、ダンスがアートとして、表現として、スポーツとして見られていない現状はとても悔しい。だからそんな状況を変えていくことで、次の世代のダンサーのたちが、もっとプロフェッショナルな活動に恵まれるための架け橋になりたい。これは勝手に自分の使命だと思っています」

――そして、それが菅原小春の今後のヴィジョンでもある?

「はい。自分なりにダンスを通して喜びも苦しみも味わって、いまここにいます。まだまだ自分の知らない世界があるはずですが、その眺めを見渡しながら、次の世代のダンサーたちがリスペクトされるよう、バトンを手渡していきたいですね」

――2020年には東京オリンピックです。開会式で踊りたいと思うことは?

「ありますよ。夢ですね。普段はあまり口にしませんけど、そんな機会がもし機会が巡ってきたら光栄ですね」

――では最後に。辞書に“菅原小春”の項があるとしたら、そこには何て記されてあるのが理想ですか?

「えー!?(笑)。何だろう……(※しばらく悩んで)“変態”って書いてあってほしいかな(笑)。変態とか変人って最高の褒め言葉じゃないですか。変態。変人。ミステリアス。自由。クリエイト。表現。そんな言葉が並んでいたらうれしいですね」

(撮影●オノツトム 取材・文●内田正樹 ヘア●KENICHI メイク●SADA)