ブレイキン(ブレイクダンス)が2018年にブエノスアイレスで開催されるユースオリンピック正式種目に採用決定! これを機に、公益社団法人 日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部の部長に就任した石川勝之さんに登場していただきました。自身も日本人として世界大会を制覇するなど、日本のブレイキンシーンに多大なる影響を与えている石川さん。ブレイキン正式種目採用の裏側や今後の課題など、興味深い話がたっぷりです。

■ ブレイキンはヒップホップカルチャーのひとつなので、スポーツの現場でもそういったカルチャー的な側面もしっかり紹介できるようにしたい

――まず、ブレイキンがユースオリンピックの正式種目に選ばれた経緯を教えて頂けますか?

これが全く分からないんですよ。僕もインターネットで知ったぐらいで。なので、我々もまだあまり真相を把握していないんです。

――そうだったんですね。

これは推測でしかないんですけど、ユースオリンピックは宗教や人種の壁を越えた世界平和が念頭にあるものなので、同じダンスでも社交ダンスのような男女のペアダンスだとイスラム教の方々が参加できないとか、そういう事情もあるんじゃないかと思います。

――どんな地域に住む、どんな宗教的なバックグラウンドを持った人でも参加できるものがブレイキングだったと。

あくまでも推測ですけどね。でも、どこの国にもB-BOYはいるので、そこに注目したのかもしれません。

――正式種目に採用されたことでブレイキンが注目を集めているわけですけども、この状況をどのように捉えていますか?

先輩たちや私たちが作り上げてきているものがまさかこういうことになるとは思ってませんでした。だけど、シーンが盛り上がった結果として自然な流れなのかなとも思うし、賛否両論あることはもちろん理解しながら、ポジティブに夢を持たせられる現場を作れたらいいのかなと思ってます。ただ、ブレイキンはあくまでも、ラップ、グラフィティ、DJと共に成り立っているヒップホップカルチャーのひとつなので、スポーツの現場でもそういったカルチャー的な側面もしっかり紹介できるようにしたいと思っています。

――たしかに、海外のBBOYの間でも議論を呼んでいます。それぐらい大きな出来事だったと。

そうだと思いますね。僕個人もヒップホップカルチャーのなかのひとつとしてブレイキンとは向き合ってきたので、正直スポーツということに対して違和感を覚えることはあるし、きっと他の皆さんもモヤモヤしてるところなんじゃないかと思います。

――そのモヤモヤを取り払っていくのも石川さんの役割のひとつで。

そうですね。今後、ブレイキンがスポーツとして根付いたとしても、「そうじゃない」という人がいるのも分かりますし、そのなかでカルチャーの部分を大切にしながら新しいことをクリエイトしていくことが大切なんだと思っています。

――選手の選考はどうやって進んでいくんでしょうか?

すでに始まってるんですけど、まず3か月間にわたるビデオ審査があって、エントリー希望者は映像を投稿しなければいけない。そこから、各国最大5人まで選手を絞り、大陸ごとに選考会が行われます。そして各大陸から勝ち上がった男子60人、女子30人が来年日本で行われる最終選考会に参加して、そこからトップ9か国を選び、ユースオリンピックゲームズが行われるアルゼンチンに行くという流れです。

――日本の実力はどうなんでしょうか?

シーン的にも世代的にもレベルの高い子が多いので、アルゼンチンまで行けるんじゃないかなとは思ってます。

――石川さんの目から見て、現在の日本のシーンはどうですか?

男女共にレベルが高いんじゃないかと思います。ユースオリンピックには16〜18歳という年齢制限がありますけど、日本はブレイク大国と呼ばれるぐらいレベルが上がっています。

――日本のユース世代のブレイカーはどんな反応を示していますか?

挑戦してみたいという子がけっこういますね。だけどみんな締切ギリギリまで動画を上げないんですよ。募集が始まってすぐというより、もっとダンスの内容を詰めてから上げますっていう声はけっこう聞きますね。ただ、ひとつ懸念しているのは、有名なBBOYがエントリーすると、その時点で「勝てないからいいや」って諦めてしまう子が多いということ。

――大物に勝ってやろうと気合いを入れるんじゃなくて。

昔は大会が少なかったので、大人も子どもも上手い人も下手な人もそこに集まるしかないという状況だったんです。だから「上の人たちを倒すぞ!」みたいな空気が若い子の間にもあったんですけど、今はダンス人口が増えてダンス歴何年未満大会みたいなカテゴリーができたことで、いろんな世代をミックスする機会が少なくなったんですよ。その結果、限られた人しか勝てなくなってしまったんです。

――では、日本のシーンにおける環境的な部分に関してはいかがですか?

昔に比べれば環境は相当いいと思います。でも、地方に行ってワークショップやショーケースをやると、「ダンスをやりたいと思ったらどこでやればいいんですか?」という質問をしてくる子がけっこういます。ダンス人口は爆発的に増えたとは思うんですけど、日本の隅々まではまだ届いていないのかなっていうのはありますね。そこはいつも悩みます。

――ちゃんと情報が行き渡っていない。

あとは、その地域で引っ張る人がいるかいないか。これから新しいものがどんどん出てくると思うので、それをきっかけにより広がっていけばいいなと思ってます。

――まだ固まっていない部分も多いとは思いますが、シーンの仲間と共に様々なことを経験しながら、ユースオリンピックにおけるブレイキンについて一緒に考えていくことになりそうですね。

今の時点で既にドーピングについてだったり金銭や組織的な面で、これまでのブレイキンの世界にはなかったことを学べているのは大きいですね。

――今回のことをきっかけに新しい展開が生まれ、そこからさらにどうやってブレイキンを発展させていけるのかが大切になってくると思います。

はい。今回メリットとして生まれた部分は生かしていきたいと思ってます。他のジャンルを見てもそうなんですけど、バスケの3 on 3やBMXのフリースタイルが東京オリンピックの正式種目に採用されましたけど、そこに関わっている人たちもきっと僕らと同じ気持ちだろうし、アートとして、スポーツとして、それぞれの取り組み方をしていると思うんですね。それはブレイキンも一緒なので、そこのバランスをしっかり考えてやらないといけないと思ってます。

――課題はありつつも、期待できる部分も大いにありますね。

ゼロからイチを作っていくというヒップホップの原点みたいな、クリエイトしていく気持ちがあるので、そういう思いを忘れずに、いい方向になるように取り組んでいきたいですね。

(撮影:大石隼土 取材:阿刀“DA”大志)

■ PROFILE

B-BOY KATSU1(ALL AREA / MZK / READY TO ROCK / FRESH SOX / 7$)

1981年7月21日生まれ。

<経歴>

ROCK STEADY CREW 30th ANNIVERSARY in JAPAN 優勝

THE NOTORIOUS IBE 2008 in HOOLAND アジア代表

THE NOTORIOUS IBE 2009 in HOOLAND 日本代表

BATTLE OF THE YEAR JAPAN 2009 優勝

BATTLE OF THE YEAR ASIA in SINGAPORE 優勝

BATTLE OF THE YEAR INTERNATIONAL in GERMANY BEST SHOW

RED BUL BCONE 2009 in NEW YORK GUEST JUDGE

など、数多くのバトル / コンテストにて活躍し、V6、KREVAなどのアーティストのPVやライブなどにダンサーとして出演している。現在は、日本ダンススポーツ連盟の一員として、ユースオリンピックのブレイクダンスの種目に関して力を注いでいる。また、BBOYとしてオーストラリア永住権を取得。川崎産業親善大使にも任命された。