■ 匂い立つ狂気と闇。 だけど愛すべき僕らの「窪田くん」

年齢を重ねても、いつまでも「くん」付けされるタイプの人がいる。童顔であったり、親しみやすかったり、貫禄がなかったり、頼りなさげであったり、理由はその人によって様々だが、「窪田くん」こと窪田正孝もそのひとりである。ただ彼の場合、「頼りなさげ」とは真逆。ドラマにおいて、彼ほど頼りになる存在はいない。たとえ、正直全体的な出来の悪い作品があったとしても、窪田正孝が演じる人物だけは魅力的で、彼が出ているシーンは、輝きを放っているから見てしまう。どんな役でも自分のものにし、その人間が実在しているかのようなリアリティを与えてくれる。

だから、28歳の窪田正孝が『僕たちがやりました』(フジ系)で高校生役を演じるというニュースが流れてきても、別に驚きはなかった。

ドラマや映画において実年齢とかけ離れた役者が起用されることは少なくないが、コメディならともかく、シリアスなドラマの場合、危険だ。しかも、脇の個性的キャラクターではなく、主人公。絶対に高校生に見えないといけない。こういう場合の違和感はドラマへの集中を阻害してしまう。だけど、彼なら難なく本当の高校生のように演じきってくれるはずだという絶大な信頼感がある。

思えば、窪田は本格的な俳優デビューが高校生役。もちろん、この時は実年齢に近い。『チェケラッチョ!! in TOKYO』(フジ系)の主演だった。脇から徐々にステップアップして……みたいな苦労人のイメージがあるが、実は最初からメインを張っていたのだ。同じく高校生役で主演というと印象深いのが2008年4月から2009年3月まで1年にわたって放送された特撮ドラマ『ケータイ捜査官7』(テレビ東京系)だ。三池崇史がシリーズ監督を務めた同作は、麻生学、小中和哉、鶴田法男、押井守、金子修介といった名だたる監督も参加。1年の間で窪田は主人公のケイタ同様、役者として急速に成長していった。この頃から彼を見守り続けているファンも少なくないだろう。いわゆる「特撮」出身で人気になった俳優は数多いが、やはりそれは多くの人が成長を「見守る」ことができるからに他ならない。「くん」付けしてしまうのもそのせいかもしれない。実際、ナイーブさ、コミカルさ、アクション……と、長丁場の中で変幻自在に演じ分け、その後の彼が演じる多彩な役柄の原型をこの作品で形作ったといえるだろう。

中でも、窪田正孝の最大の魅力は、なんといってもその繊細さ。繊細さゆえに、狂気をもはらんでしまう若者を演じさせたら、右に出る者はいない。透明感と底知れぬ闇を同時に表現できる、稀有な俳優だ。

『僕たちがやりました』に際して寄せたコメントでも、彼は「内面の葛藤や苦しみを描く部分も多くて、ああ、やっぱり僕のこういう顔を見たいんだな、と思いました。誰も僕の幸せを願ってないんだなと(笑)」と自ら語っているとおり、苦悩がこれほどまでに似合う青年はなかなかいない。屈折した光を放っている。たとえ、おちゃらけた役を演じていても、どこかで葛藤を抱えているんだろうなと勝手にこちらが想像してしまったりする。

彼のもう一つの魅力はその意外性だろう。工業高校出身で、ネジを愛し、構造物が好き。『笑っていいとも!』の「テレフォンショッキング」に出演した際は、タモリと延々、工業話に花を咲かせ、ほとんどそれだけでコーナーが終わってしまったほどだ。それだけなら、ちょっと変わった趣向があるなあというくらいだが、そうではない。脱げば筋肉隆々の肉体があらわれ、ダンスも得意なスポーツマン。その役柄ゆえ、内向きな人間だと思われがちだが、実はアクティブなタイプなのだ。ガチのEXILEファンでもある。そうしたパーソナリティが、幅広い演技につながっているのだろう。

『ケータイ捜査官7』の時、三池崇史に「10年後に窪田を選んだ理由がわかる。10年後に会おう」と言われた窪田正孝(実際には半年後に再会しているのだけど)。彼は10年を待つことなく、押しも押されもせぬ名俳優に成長した。その10年後は、来年訪れる。本当の意味で“再会”を果たし、「監督・三池崇史×主演・窪田正孝」の作品が作られるか否かは分からない。けれど、もし実現したらそれだけで「窪田くん!」と涙するだろう。そんな悦びのために僕らは見守り続けるのだ。

◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと)。1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』、『タモリ学』、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』、『コントに捧げた内村光良の怒り』など多数。雑誌「週刊SPA!」「TV Bros.」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。今月より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート