「バズリズム02」や「チカラウタ」、また「THE MUSIC DAY」「日テレ系祭典 ベストアーティスト」といった特番に至るまで、日本テレビを代表する音楽番組のプロデュースを数多く担当、さらに、理想の2次元キャラクターを生み育てるという話題の深夜番組「アイキャラ」も手掛ける気鋭・前田直敬プロデューサー。「テレビ番組と音楽コンテンツの最適解を探す」がモットーという前田Pに、音楽番組の作り手としての現状や、音楽番組の未来の展望などを聞いた。

■ 音楽への興味の入り口がクラシックだったのがよかった

――前田さんがテレビマンとして最初に携わられた番組は?

「元々は報道志望で入社したんですが、最初は制作に配属になって、『TVおじゃマンボウ』(1993〜2006年)を担当していました。そのときに、どうせ制作に関わるんだったら音楽番組をやりたいと思うようになって。それを社内でアピールしていたら、入社1年目の後半で『THE夜もヒッパレ』(1995〜2002年)のADに。我ながら報道はできなかっただろうと思うので、今となっては、間違った選択ではなかったのかなと思ってるんですけれども(笑)」

――「音楽番組をやりたい」と思われたということは、やはり昔から音楽がお好きだったんですか?

「ええ、大好きでしたね。音楽の入り口は、中学生のときに始めた吹奏楽なんですよ。そこから、兄貴の影響でサザンオールスターズを聴いたり、洋楽も、ザ・ビートルズも遡って聴きましたし、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、エアロスミスといったロックも大好きでした。大学生のころはクラブが流行ってたので、クラブ・ミュージックにハマったり。いずれにしても、そもそもの入り口がクラシックだったのがよかったのかなと思いますね。変にフィルターをかけずに、いろんな音楽を素直に受け入れることができたので」

――では、テレビマンとして転機となったお仕事は?

「やはり、入社8年目の2006年7月に、バップ(※日本テレビグループの音楽ソフトメーカー)に出向したことでしょうね。バップでは、その後2009年まで仕事させてもらったんですが、最高に楽しい3年半でしたし、僕が今、自分なりの番組作りができているのも、この時期に学んだことや培った人脈のおかげだと思っています」

――バップへの出向は自ら志願されたんでしょうか?

「我々テレビマンは、仕事の評価として、視聴率10%と9.8%とでは、雲泥の差があるんですね。10%取っていれば、お客さんは仮に1000万人、9.8%だと数十万人減って…という評価をされるわけですけど、僕としては、その違いをなかなか実感することができなくて。そういった状況にだんだん違和感を覚えるようになってきて、音楽番組どころか、音楽そのものが好きじゃなくなっていた時期があったんです。そんなときにちょうど、日テレとバップで、現場レベルで人事交流をするという話が出てきて。それで、何か自分を変えるきっかけになればと思って、自ら手を挙げてバップに行かせてもらったんです」

■ テレビマンの自分とミュージックマンの自分が、せめぎ合って音楽番組を作っている

――バップ時代には、具体的にどんなことを学ばれたのでしょうか。

「バップで僕が担当していたのは、A&Rといって、アーティストや楽曲の発掘・契約などを担当する、総合責任者のような立場の仕事で。CDの売り上げはもちろん、販売店でのセールス戦略から、お客さんの反応まで、“音楽を売る”ということに関わる全てのことを知っておかないといけないんですね。そんな中で、個々の店舗のPR展開しだいで全体の売り上げが変わってくるとか、そういった現実も目の当たりにして。そのときに僕が実感したのは、送り手の熱は確実に受け手に伝わるものなんだ、ということ。そして、売り上げというのは、お客さん一人一人の元に商品を届ける、その積み重ねなんだということ。どちらも当たり前のことなんですが、こういったことを実感として理解できるようになったことは、僕の中ではものすごく大きな収穫でした。さっきもお話ししたように、『1000万人のお客さん』といわれても、漠然とした数字でしか捉えられなかったのが、バップでの経験を通じて、その1000万人は、1人1人が集まった1000万人なんだと実感できるようになったんです。例えば今、『バズリズムLIVE』(※「バズリズム」の番組発の音楽ライブ。2015年より3年連続で横浜アリーナで開催されている)をやるときも、僕は事前にいろんなライブを見に行くようにしていて。会場でそれぞれのアーティストのファンの顔を見ていると、コアマーケットを握っているお客さんはどれくらいいるのか、それを実数で捉えることができるんですよね。

ただその一方で、『1000万人のお客さん』をマスで捉える感覚もあって。また『バズリズムLIVE』を例に出してしまいますが、『バズリズムLIVE』は今や、横浜アリーナ2DAYSを成立させられるだけの動員力はある。でも、それをテレビで放送するときに、どう料理できるんだろうと考えると、横浜アリーナ2DAYSは、『バズリズム』という番組や出演アーティストがもう少しブレイクスルーしてからの方がいいんじゃないか。その方がアーティストのみなさんにとってもメリットが倍増するんじゃないか、といった考え方をするわけです。つまり、テレビマンである自分と、ミュージックマンである自分が、せめぎ合って音楽番組を作っているというか。そういった方法論が身についたのも、やはりバップでの経験が大きいのかなと」

――その“テレビマンの感覚とミュージックマンの感覚のせめぎ合い”は、やはり「バズリズム」という番組に最も象徴的に表れていますよね。

「そうですね。僕の中では『バズリズム』というのは、単なるテレビ番組じゃなくて。まず『バズリズム』という“ブランド”が真ん中にあって、そこから地上波の放送や、イベント、グッズ、さらにHuluの配信、いろんなものが派生していってる、というイメージなんです。もちろん、地上波放送には重きを置いていますが、あくまでも中心にあるのは『バズリズム』というブランド。最近流行りの言葉だと“IP”と言い換えてもいいんですけど、ともかく、そのバランスは間違ってはダメだと思っています」

――音楽番組に限らず、今のテレビは、こうした多角的な展開が必要なのかもしれませんね。

「それは時代の必然だと思いますね。もちろん、テレビはこれからも娯楽の王様じゃなきゃいけないし、日テレはその中でナンバーワンじゃなきゃいけない、というのは前提だと思うんですけど。ただ、日テレには高視聴率を叩き出す優秀な3番バッター、4番バッターがたくさんいますから、僕は僕で、自分なりの思考回路を武器に、クリーンナップ打線とは別のやり方で戦うべきなんじゃないか、という気がしていて。実際、『バズリズム』も一定の評価をもらえていますし、さらに言えば、『バズリズム』があるからこそ、『アイキャラ』という番組も生まれたんだと思います」

■ 作り手が工夫を凝らせば、「音楽番組も必要だ」という人は増えていくはず

――前田さんが企画・プロデュースを務める「アイキャラ」も、新しいもの好きの視聴者の間では、かなり評判になっていますね。

「『アイキャラ』って何というか、不思議な縁に恵まれた番組なんです。音楽を担当してくれているアゲハスプリングス(※蔦谷好位置らが所属するクリエイター集団)の田中隼人さんや、制作のディレクションズ(※NHK Eテレ「ビットワールド」などを手掛ける映像制作プロダクション)の社長の長江努さんは、僕がバップにいたころの仕事仲間で。何年かぶりに飲んだときに、こういう番組をやってみたいと話したら、その場で知り合いのクリエイターに電話してくれてスタッフが決まったりして、日々、人が人を呼んで展開しているというか、所帯は狭いながらも、それぞれ得意分野を持った人間が集まってお互いを引っ張り合ってる、ゴレンジャーみたいな番組なんです(笑)。

今、『ひらがな男子』という新たな2次元キャラクターができて、ゲーム展開も始まりましたし、劇場版の制作も決まって、春先には応援上映も予定していて。この先、2.5次元舞台や海外での展開も考えています」

――では、最後の質問です。現在のテレビ界における、音楽番組の存在意義とは?

「ひと昔前は、寺尾聰さんの『ルビーの指環』を、5歳の僕も、兄貴もおふくろも、ばあちゃんも、みんな歌ってたわけですけど、今は、演歌を聴いている方々がGReeeeNはなかなか口ずさめないですよね。ただ、それは音楽が細分化されているからであって、そのことを憂いても意味がない。だから、音楽番組がなかなか視聴率を取れないという現状は、仕方がない部分もあると思うんです。けれど、世の中から音楽がなくなることは絶対にないし、音楽には他のジャンルではできないこともいっぱいある。だから、視聴率というものにこだわりすぎず、僕ら作り手が工夫を凝らせば、きっと『音楽番組も必要だ』という人はまだまだ増えていくと思うんですよ。手前味噌ですけど、『バズリズム』の展開の仕方も、その一助になっているという自負はありますね。

今、『アイキャラ』を作っていて、『前田さんがそんなにオタクだったとは知りませんでした』なんて言われたりもするんですけど(笑)、極論を言ってしまえば、僕が『アイキャラ』で実績を作ろうとしているのは、音楽番組を盛り上げるための環境づくりの一環でもあるんですよね。『アイキャラ』から生まれたキャラクターは、いわば日本テレビに所属しているアーティスト。『ひらがな男子』が将来、初音ミクのような人気キャラに育っていったら、『ベストアーティスト』や『THE MUSIC DAY』に、『アイキャラ』の番宣じゃなく(笑)、ちゃんと世の中から求められる形で出演する日が来るかもしれない。ゲームや映画で放送外収入も生んで、“(c)日本テレビ”のアーティストも輩出して、そうしたら、日本テレビはトータルでハッピーになれるわけじゃないですか。そう考えれば、音楽番組はテレビ局にとっても、絶対に残すべきコンテンツだと捉えられると思うんです」(ザテレビジョン)