大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか) が、6月23日に放送された第24回で第1部の終幕を迎えた。

日本最初のオリンピック選手となった第1部の主人公・金栗四三(中村勘九郎)。第2部では、新聞記者の田畑政治(阿部サダヲ)が主人公となり、日本にオリンピックを呼ぶために奔走する物語が始まる。

今回「ザテレビジョン」では、本作の演出を務める井上剛氏、一木正恵氏、西村武五郎氏に鼎談インタビューを敢行。

前後編の後編では、第1部の印象深い演出回や、撮影していて面白かった人物、そして第2部の見どころを3人に語ってもらった。

――今まで撮影したシーンの中で印象深いものはありますか?

井上剛(以下、井上):印象深くないシーンがないくらいですね。とにかく毎日撮影していて、さっき撮影したものも頭の中にあるし、編集して、音楽を入れて、脚本も作っているので、全部が印象深いです。

西村武五郎(以下、西村):本当にどのシーンも密度が濃いので印象深いのです。その中で1クール目でいうと、生田斗真さんのクライマックスを撮らせていただいた僕の中では第11回(3月17日放送)の、ストックホルムオリンピックでの弥彦(生田)の400m走が印象に残っています。

実際に半年以上かけてトレーニングしてきた生田さんが、弥彦として本気で400mを走って、その後の芝居まで一気に撮った時のことは忘れられません。

調子のいい天狗を演じ、ノイローゼも乗り越えた弥彦が実際に走った時の鬼の形相や、それを応援する四三さんや治五郎さんのリアルな芝居は、もはや演技の域を超えていました。「ああ、本当にストックホルムオリンピックを撮っている…」と、演出人生でもなかなか立ち会えることができない瞬間を撮っているのだなと感動しました。

とにかく生田斗真さんの芝居の振れ幅、命がけの「いだてん」に対する姿勢に感銘を受けましたね。

その後の四三さんと弥彦の水浴びのシーンもすごくて。2人の築いてきた関係や、リアルに四三さんと弥彦を生きてきたそのものが、表情や芝居に現れてました。そんな2人を祝福するかのように、シーンの最中に太陽が雲から出てきて光が降り注いできたので、その瞬間は、現場でもスタッフの多くが涙しました。

■ 井上さんは“増幅力”がすごい

――では、他の方の演出回の中で「面白いな」と思ったものを教えていただけますか?

井上:それもたくさんありますね。

一木正恵(以下、一木):私が「すごい!」と思ったのは、第8回(2月24日放送)でストックホルムに旅立つ弥彦が、お母さん(白石加代子)と別れるシーンです。井上さんが演出された回ですね。

井上:え、すごい前の回(笑)。その撮影したのもう1年前くらいですよね。

一木:井上さんって、群衆の中で際立つ部分と、それ以外の人たちに、同時刻に起こる悲喜こもごもを描くのが上手なんだと思うんです。

井上さんは、一連の時間の中にものすごく詰め込んでいくんですよ。あたかもスローモーションを見ているかのように、1秒が10秒に感じられるくらい、いろんな人間の感情が同時に動く瞬間の湧き上がりをまとめられる…“増幅力”がすごいと言うんでしょうか。

井上:昔、簡単に書かれているシーンを難しくし過ぎてしまって、混乱させてしまったことがあります(笑)。貧乏性なんです。

一木:「1秒のシーンでこんなに演出するの?」って思うこともありますね(笑)。あの別れのシーンは、たくさんの人間の渦巻く感情を一本にまとめられるなんてすごいなって思いました。

西村:僕は、姉さん(一木)が演出した第12回(3月24日)の、ストックホルムでの四三さんのマラソン後のシーン。四三さんのそれまでのストックホルムの力走はもちろんですが、その後部屋で倒れている姿を見たときの治五郎さんの顔が印象に残ってます。治五郎さんの選手への優しさとか、「連れてきてごめん」とは言わないけど、そんな心境が全部現れている表情に感じました。

一木:ストックホルムでは弥彦も飛び降りようとしているし、嘉納さんは連れてきた2人の選手を失うかもしれなかったんですよね。それくらいストックホルムオリンピックは過酷だった。うれしさだけではない、苦味みたいな部分もすごく感じた回でした。

私は、四三さんが見つからないことを報告する嘉納さんが「Dissappeared」って言うシーンの表情もすごく好きなんです。なんかゾッとする感じも出ていて。あのシーンは1発OKでした。

西村:弥彦が400mを走った後(第11回)も、役所さんの表情がすごく良かったです。若い人が走っている姿に、役所さんは本当に感動していらっしゃった感じがしました。

井上:人が動いてたり走ってたり一生懸命やっている姿に、見ている側が感動するのって、スポーツだけのことですもんね。そこに理屈はないけれど、そうなってしまう人の感情を体現しているのが役所さんだと思います。

役所さんの表情で言うと、僕はたけ(西村)の演出した第6回(2月10日放送)の、オリンピックに自費で行くことを説得するシーンが印象的だった。すごくいいことを言っているのに、100%真心だけではないところが宮藤さんの台本の面白いところで、その台本に役所さんがなんともいえない深みを出してる感じがしました。

西村:台本にはなかったけど、役所さんが「『情けないなぁ』って言わせてほしい」っておっしゃってくださって、せりふが追加されたんですよ(笑)。

■ 大竹しのぶさんがかっこよくて、すっごく面白かったです

――撮っていて楽しいキャラクターって誰ですか?

井上:みんな楽しいですね。

西村:本当に楽しいですね皆さん。誰か一人には絞りきれませんが、撮影初期でいうと、僕は四三さんのお兄ちゃんの実次さん(中村獅童)でしたね。個人的に長男に肩入れしてしまう部分もありますが、上京する四三を見送るとき、四三さんと実次さんは2人そろって鼻水出してて奇跡だと思いました(笑)。

獅童さんのお芝居の幅もすごく広くて、あの実次お兄ちゃんは好きですね。このとつけむにゃあお兄ちゃんあって、とつけむにゃあ金栗四三あり、という感じがとても出ていました。

井上:幾江さん役の大竹しのぶさんもかっこよくて、すっごく面白かったです。兵蔵役の竹野内さんも面白かった。

西村:ペアーが面白いんですよね。宮藤さんの本がそう書かれているのですが、役者さんが生み出す化学反応がとても面白い。2人きりでオリンピックに行った弥彦と四三さんもそうですし、安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)と兵蔵の夫婦も、2人でいればずっと見ていられる。

井上:確かに。永井(杉本哲太)と可児(古舘寛治)もね。

一木:美川(勝地涼)とスヤ(綾瀬はるか)も面白いよね。あとは孝蔵(森山未來)と清さん(峯田和伸)も。

――スポーツだけではなく、志ん生周辺の人間関係も今作の見どころですが、浅草界隈を撮るときの面白みってどんなところですか?

井上:スポーツの部分とは違って、空気感がガチャガチャしてて面白いです。フィクションのキャラクターも多いので、実在の人々を撮るのとは違った面白さがあります。

西村:浅草のところは、決まった人たちしかあまり出てこないんです。スポーツでは時代が変わるにつれてどんどん新しい人物が出てくるんですけど、浅草には時代が変わっても変わらない人間関係がある。

孝蔵と円喬(松尾スズキ)や、小梅(橋本愛)と清さんとか、密にくっついているわけではないんですけどすごく近いんですよね。そういう関係性って、スポーツ界にはない気がします。

一木:スポーツの方は、みんないろんな立場があるんですけど、浅草の人々はそういうものを取っ払って、自由につるんでいる感じがありますね。

西村:弥彦はストックホルムオリンピックが終わったら銀行に行っちゃって、四三さんとは会えなくなるけど、清さんと孝蔵の関係はずっと変わらないですからね。自分にとってこんな友達はいるかなって考えたりもします。

――オリジナルキャラクターを動かすときに気をつけていることってありますか?

井上:みんなでワイワイしゃべりながら作ってる感じがありますね。

例えば、小梅ちゃん。彼女は遊女だから、いろんな昔の遊女の資料を持ってきてもらって、みんなで見るんです。でも、その資料だけじゃない要素をみんなでしゃべって加えていったり、衣装とか小道具とか作っていく中でも発見があります。

一木:私は何回か大河をやっているんですけど、普通はオリジナルキャラクターって極めて難しいんです。史実上の人物ばかりの中に、一人だけオリジナルの人が入ると、ものすごく不自然になってしまうし、実在の人物がやれないことをやらせようとするので、浮いてしまうことも多い。でも宮藤さんの脚本には、ハレの日だけではない日常が描かれているから、違和感がないんですよね。みんな溶け込んでいる感じがします。だから、私たちも構えなく撮ることができます。

井上:オリジナルキャラクターの小梅と、本当にいた人物の美川が出会っても、「それはないだろ〜」ってならないんですもん。すごいですよね。ゆるっとフィクションが入ってくる感じが、宮藤さんの脚本の面白い部分だと思います。

――宮藤さんの脚本の“らしさ”は、どんなところだと思いますか?

井上:大成した人じゃない人物に光を当てる感じが宮藤さんらしいなって思います。金栗さんと田畑さんを主人公に選んでいるのも、大成した人じゃないからでしょうし。そういう人を宮藤さんは描きたいんだろうなとひしひし感じています。だからこそ、みんなが応援したくなるんだろうなと思います。

西村:時々、100年後の僕たちに向けた言葉が入っていることがあるんですよね。それがとても不思議でグッときます。

僕たちが100年後の未来に思いを馳せるのと同じような気持ちを、100年前の人たちも持っていたんだろうなって思えるんです。

ドラマを通して100年前の人たちと会話している気分になれるということが、このドラマのいいところなんじゃないでしょうか。

井上:大河ドラマってタイムトラベルができるものなので、どの作品でもそういう感じがあるとは思うんですが、今回は特に現代に近くなるので、より、現代の人に届けばいいなと思っていますね。

西村:100年後も見られてたらいいですね!

――永井さんが発明した肋木(ろくぼく)だって、100年ほど経った今でも残っていますもんね。

井上:そうですよね! 可児さんがドッジボールを作っていたり、ちょっとしたことが今の人と結び付けられるドラマだと思います。

一木:脚本がノスタルジーだけじゃなくて、今を生きている人に、つながってるんだよっていうことを問いかけている部分が多いですよね。

■ 四三さんが、情けなく思える部分もあります

――6月30日(日)から始まる第2部は、主人公も物語もガラッと変わります。演出も変わった部分があるんでしょうか?

井上:第1部はおおらかな感じだったんですけど、阿部さんも早口だし、テンポが早くなって、また違うものになっています。

登場人物もスポーツマンだけじゃなくなります。阿部さん演じる田畑は新聞記者なので、政治家なども多く出てきて、必然的に撮り方も変わっています。

そして、これまでは四三さんたちのアスリートの目線があったけれど、マネジメントする側の視点での物語になっていきます。

四三さんと田畑が一緒のシーンでは、第1部では華々しく見えた四三さんが、情けなく思える部分もあります。その視点の違いも面白いですね。

西村:オリンピックチームもすごく発展してくるので、ストックホルムでは出場選手が2人だったんですが、どんどん人数が増えてきて、大きいチームになっていきます。監督の話にもなっていますよね。

とにかく人がいっぱい出てくるので、視聴者の方々はAKB48みたいな感じで、“推しメン”とか見つかるんじゃないかなって思います(笑)。

一木:四三さんの物語って、主観的な部分があったと思うんです。マラソンのルートって42km走っているのは自分しかいないので、妄想とかもありましたし。第2部に入ると、それが客観的になって、関係性のドラマっていうものになっていく気がしますね。

――第1部ではペアーが面白いという話もありましたが、第2部ではもっと増えてチームになっていくようなイメージでしょうか。

一木:まさにAKBみたいな感じですね(笑)。団体戦も増えますし。

西村:大きいうねりになっていきますよね。映像の話で言えば、国もいっぱい出てくるので、ロスアンゼルスもベルリンも…オスロ、カイロとかも、IOC総会が各国で開催されるので、国ごとに撮り方を変えています。映像のトーンが違うので、旅行している気分になれるかもしれないですね。

井上:外国人もいっぱい出てきます。ムッソリーニもマッカーサーなど教科書に写真が載ってる人もたくさん出てくるので、そういう意味では大河っぽいんじゃないでしょうか。

一木:ここまで本気で近代史の人々に踏み込んでいるものってないですよね。すごくちゃんと史実を研究しています。

井上:真面目にやってますからね(笑)。(ザテレビジョン)