ハリウッドの第一線で活躍している監督の中でも、新作を発表するたびに世間の大きな注目を集めるのがデヴィッド・フィンチャー。『セブン』(1995)でヒットメーカーとなり、さらに映画賞をにぎわせる鬼才へ。映画ファンばかりか、世界中の映画人が注目する存在といっても過言ではなく、名作『市民ケーン』(1941)の脚本家にスポットを当てた2020年に待機中の新作『Mank(原題)』も、早くも話題となっている。なぜフィンチャーの放つ映画は、こんなにも注目を集めるのか?

フィンチャーは自作の世界観作りを入念に行なう監督で、納得のいくテイクが撮れるまで何度でも撮影を繰り返す。例えば、フェイスブックの創設者マーク・ザッカーバーグの成功の光と影を描いた『ソーシャル・ネットワーク(2010)』(1月15日[水]夜10:55 WOWOWシネマほか)。主人公とヒロインがパブで会話をする、数分の長いせりふの応酬を、フィンチャーが90回以上撮り直したのは有名な話。演じたジェシー・アイゼンバーグとルーニー・マーラに演技をさせるのではなく、自然に言葉を発させる、そのためにテイクを重ねたというから驚きだ。これだけではなく、シーンによっては200回撮り直した場面もあるという。

実際の未解決連続殺人事件に基づき、その謎に迫る記者たちの奔走を描いた『ゾディアック(2007)』(1月14日[火]深夜1:15 WOWOWシネマほか)では、事件を追う刑事に扮したマーク・ラファロがハンバーガーを食べるシーンがある。これも撮影が何度も繰り返され、ラファロは結局、74個のハンバーガーをかじることになったのだから、摂取カロリーが心配になる!? 

また、新居に侵入してきた強盗犯たちと戦うはめになった母娘のサバイバルを描くサスペンス『パニック・ルーム(2002)』(1月14日[火]夜11:20 WOWOWシネマほか)では、母が娘を起こそうとして顔に水をかける場面を45回撮り直し。娘役のクリステン・スチュワートは今でこそ人気女優だが、本作の撮影時はまだ11歳。子役にも高いレベルを求めるフィンチャーの姿勢は、まさに完璧主義者と呼ぶにふさわしい。

こうなると、演じる俳優も大変であることは想像に難くないが、それでも彼らはフィンチャーの才腕に信頼を寄せている。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生(2008)』(1月15日[水]深夜1:00 WOWOWシネマほか)で主演を務めたブラッド・ピットはこう語る。「デヴィッドには映像に対するすばらしい目があり、カメラワークのバランスは彼にとって、もうそれしかないというものだ。それがまた最高だから、その結果、見事に練り上げられた作品が完成する。彼は彫刻家なんだよ」。

当のフィンチャーは「撮影の98%は妥協だ」と口にするが、妥協のない残りの2%で、これだけの傑作を作り続けているのだから恐ろしい。鬼才の鬼才たるゆえんというべきか。いずれにしても、ますます目の離せない存在なのだ。

■ 文=相馬学

アクションとスリラーが大好物のフリーライター。「DVD&動画配信でーた」「SCREEN」などの雑誌や、「シネマトゥデイ」「CINEMORE」などのネット媒体、劇場パンフレットなどでお仕事中。(ザテレビジョン)