映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届けする連載企画。今回は日本時間2月10日(月)に行われる第92回アカデミー賞授賞式をより楽しむための特別編。過去91回分のアカデミー賞授賞式で披露された数々のスピーチの中から、小沢さんが心撃ち抜かれた名スピーチを語る。一体どんな名言が選ばれたのか?

──アカデミー賞授賞式は観てますか?

小沢「その後にニュースになったり、特集されたりするじゃん。そういうのはだいたい目にしてる。日本にも日本アカデミー賞があって毎年盛り上がってるけど、アメリカのアカデミー賞は、よりエンターテインメント色が強いから、最初から最後まで通して観ても楽しめるよね」

──長時間の授賞式なんですが飽きないですね、毎年。

小沢「例えば、自分の好きな面白い映画があったとして、あの授賞式は、その映画のエピローグとかスピンオフ作品みたいな位置づけで観られるわけじゃん。それぞれの映画を観た後に、さらにその映画を面白がれるというか。それは素晴らしい文化だと思うよね。出てくる役者も超一流ばかりで、授賞式そのものが1本の映画みたいに作られているわけだから」

──たしかに1本の作品として考えたら、超贅沢な作品ですね。

小沢「『週刊少年ジャンプ』でいえば、孫悟空とルフィとナルトが勢揃いして舞台に上がるようなもんだからね(笑)」

──また、ハリウッドの人々はみんなスピーチが上手いですからね。

小沢「シャレたこと言うよね。あとさ、みんな家族とか奥さんとかお世話になった人たちの名前を必ず出すじゃん。あれは日本の文化にあまりないものだよね」

──世話になった人の名前をいっぱい挙げますよね。

小沢「俺、海外の小説をよく読むんだけど、海外の小説も1ページ目に『この作品を○○に捧げる』って載ってること多いじゃん。『亡き友人○○に捧げる』とか、すぐ捧げるよね(笑)」

──捧げますね〜。

小沢「海外の人、すぐ捧ぐのよ。アカデミー賞でも、『まず感謝したいのは、旦那の○○』って、スキあらば捧ぐ(笑)。毎回、それぞれの受賞者が何人にも捧げてるから、これまでの91回で何百人もの人が捧げられてる計算になるよね」

──相当な数です、たぶん。

小沢「あとアメリカとかイギリスの良いところは、ああいう授賞式のようなかしこまった場所でも、権威とか権力を茶化すような笑いを入れられるじゃん。日本だと、大抵の場合『ちゃんとした場なんだから、そういうこと言っちゃダメよ』って言われちゃう。ちゃんとした場で言うからこそ、一番の“緊張と緩和”が生まれてウケるのに。だから、そこは海外をうらやましいと思うよね」

──観客もそれを受け入れてるから、ちゃんとウケますよね。

小沢「そう。ああいう空気が、すごくいいよね。あれがまさにエンターテインメントで。日本がこれからエンターテインメント大国を目指したいなら、まずそこの気質を変えなきゃいけないかもしれないね」

──ちなみに小沢さんは、こういうスピーチは得意ですか?

小沢「俺はね、めちゃくちゃ苦手なのよ。忘年会とか何かの打ち上げとかで挨拶しなきゃいけない時でも、まあ、(相方の井戸田)潤に任せるね(笑)」

──小沢さんも得意そうですけどね。

小沢「ダメなんだよね。ただ、前に一度だけ、自分で『いいスピーチできたな』って思ったことがあって。事務所の後輩の女の子の結婚式だったんだけど、予定がなかったのに、その場で急にスピーチを頼まれちゃって。その時したスピーチが、俺が人生で一番気に入ってるスピーチだね」

──どんなスピーチだったんですか?

小沢「結婚式のスピーチなのに、第一声が『子供の頃、ザ・ブルーハーツが好きでした』から始まるのね(笑)」

──なんか、ちょっとアカデミー賞授賞式っぽいじゃないですか。

小沢「でしょ? なんも用意してなかったから、すげえ短いんだけどさ。『子供の頃、ザ・ブルーハーツが好きでした。子供の頃、ダウンタウンが好きでした。ザ・ブルーハーツを見て、バンドやりたいなと思いました。ダウンタウンを見て、お笑いやりたいなと思いました。で、お笑いをやるんですけど、今日の結婚式を見て、俺、結婚したいなって思ったから、今日の結婚式は良かったんじゃない?』って、それで終わり」

──すげえ、シャレたスピーチ! 小沢さん、スピーチ大得意じゃないですか!

小沢「最初に『はぁ?』と思わせて惹きつけるっていう、俺のズルいやり口だから(笑)。ただ、このスピーチは、その後の二次会とかでも、色んな人からめちゃくちゃ褒められたよね」

──で、今回はそんなスピーチ上手の小沢さんに、歴代アカデミー賞授賞式の名スピーチの中から、お気に入りのスピーチをチョイスしていただきたいのですが。

小沢「まず俺は、アル・パチーノとかジョー・ペシとか、ああいう不良系の役者のスピーチはやっぱり好きだね。たまたま二人とも、今度(第92回)の(共に『アイリッシュマン』('19)で)助演男優賞候補になっているけど。アル・パチーノが8回目のノミネート(※1)で初めてようやく受賞した時の、『あんた達は俺の連続記録を邪魔した』っていうスピーチなんか、めちゃくちゃいいよね」

──第65回の主演男優賞を『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』('92)で受賞したときのスピーチ。これはつまり『あんた達に連続落選記録を邪魔されたぜ』っていう、アル・パチーノ流の感謝の言葉ですね。

小沢「こういうことを言いたいよね。あと、ジョー・ペシの『サンキュー』だけで帰っていくやつもカッコいい」

──『グッドフェローズ』('90)で第63回の助演男優賞を受賞した時の、このジョー・ペシのスピーチは、恐らく史上最短スピーチのひとつだと思うんですけど。キャラが立ってるから、それだけでも充分にカッコいいんですよね。

小沢「他にも映画の中のセリフみたいなことをポロッと言っちゃえる人がいるからね。その時の授賞式を観てなくても、それが会場でどれだけウケてたか簡単に想像つくスピーチがいくつもあるもん。例えば『ミザリー』('90)の時のキャシー・ベイツが言った『(共演者の)ジェームズ・カーンに感謝します。足を折ったりしてごめんなさい』なんて、絶対ウケてるよね。セリフとして、ちゃんと面白くなってるもん」

──映画の中でジェームズ・カーンは狂気のキャシー・ベイツにハンマーで足を折られてますから、映画を観た人には絶対ウケます。

小沢「俺、『ミザリー』が大好きだし、キャシー・ベイツが大好きなのよ」

──ちなみにキャシー・ベイツが『ミザリー』で主演女優賞を受賞したのも、ジョー・ペシと同じ第63回でした。

小沢「古いやつだと、『フレンチ・コネクション』('71)で主演男優賞を獲ったジーン・ハックマンの『この賞は僕の愛車に与えられたのだろう』っていうスピーチも、絶対ウケてる」

──それは第44回のときのスピーチですね。『フレンチ・コネクション』はカー・チェイスが話題になった作品なので、それをネタにしたスピーチでした。

小沢「こういうのが、まさにアカデミー賞授賞式って感じだよね。あと意外だったのは、『ジャンゴ 繋がれざる者』('12)の時の(クエンティン・)タランティーノのスピーチだね」

──第85回の脚本賞受賞の時ですね。

小沢「『長年記憶されるような映画を作りたいと思ってましたが、それを今やり遂げることができました』って。多分、タランティーノが好きなファンの中では、『ジャンゴ〜』ってそれほど上位の作品ではないと思うのね」

──そうですね。初期作品のファンが特に多いですからね。

小沢「本人にとっても、もっと思い入れのある作品は他にあると思うんだけど、そんなタランティーノでも、こうやって賞をもらうと嬉しいんだなって。俺らも漫才とかを作ってる以上、こういう気持ちって必ずあるのよ。もちろんレベルは全然違うんだけど、タランティーノほどの人でもこうやって喜べるときが来るんだから、俺ももっと頑張ろうって思えたよね」

──タランティーノが「長年記憶されるような映画を作りたい」と思ってたというのは、ホントに意外ですけどね。

小沢「だよね。好き勝手に作ってるだけかと思ってたのに(笑)」

──その他、さっきの話にあった“捧げる系”では、お気に入りはありますか?

小沢「これは去年になるのかな? 『女王陛下のお気に入り』('18)のオリヴィア・コールマンのやつ」

──去年の第91回の主演女優賞ですね。スピーチの中で「私の親友で夫のエド。心から愛しています。25年間、私の最高の支援者です。彼は泣くでしょうが、私は泣きません」と、夫への素敵なメッセージを語ってました。

小沢「オリヴィア・コールマンって、たしか俺の一つ下ぐらいの年齢なんだけど、とてもいい歳の重ね方をした女性で、このスピーチも嫌みがなくてかわいいなって。『彼は泣くでしょうが、私は泣きません』って、めちゃくちゃいい奥さんだよね」

──最高の捧げ方ですね。

小沢「あとは捧げるシリーズだと、ロバート・デ・ニーロの『僕を生んでくれた両親と、両親を生んでくれた祖父母に感謝したい』っていうのもカッコいいよ」

──それは『レイジング・ブル』('80)で第53回の主演男優賞を受賞した時のスピーチです。

小沢「まあ、過去のスピーチの資料を見ると、ほとんど捧げるシリーズばっかりなんだけどね(笑)。フェデリコ・フェリーニが名誉賞を獲った時(第65回)のやつもいいよ。『全ての人に感謝は言えないので、ひとりだけ…泣かないで、ジュリエッタ』って、これ、奥さんに言ってるんだよ」

──シャレてますね〜。

小沢「映画的だよね、この状況に、このセリフ」

──俳優や監督だけじゃなく、美術とか衣装とか脚本とか、そういうスタッフのスピーチも、いちいちシャレてますからね。

小沢「ちなみにさ、歴代でアカデミー賞の受賞回数が一番多い人は誰だか知ってる?」

──え、誰だろう? そうやってクイズにするんだから、メリル・ストリープとか、分かりやすい答えじゃないってことですよね?

小沢「そう。いつも飲み会でこのクイズ出すと、なかなか正解が出てこないんだ」

──意外なところに答えがあるんですね?

小沢「素晴らしい受賞者はたくさんいるけど、最多受賞者は、みんなが知ってる意外な人。せっかくだから、今回ここでは答えは明かさないでおこうか(笑)」

──エ〜ッ!? めっちゃ気になるじゃないですか。

小沢「なんでも答えを明かすと、頭に残らなくなるからさ。気になる人は、是非自分で調べてみてほしいね。その答えを知ったら、きっと今年のアカデミー賞授賞式が、より楽しくなると思うから」

※1 同年、主演男優賞受賞前に発表された『摩天楼を夢みて』(’92)の助演男優賞受賞ならずも1回とカウントしています。

■ 小沢一敬

愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。(ザテレビジョン・取材・文=八木賢太郎)