山崎賢人が主演を務め、2019年、実写邦画No.1ヒットを記録した映画「キングダム」が、5月29日に「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)にて、本編ノーカットで地上波初放送される。

本作は、2006年より「週刊ヤングジャンプ」(集英社)にて連載を開始し、コミックス既刊累計6400万部を突破した同名人気漫画を基にした歴史エンターテインメント。時は紀元前、中国春秋戦国時代を舞台に、大将軍になるという夢を抱く戦災孤児の少年・信(山崎賢人)と、中国統一を目指す若き王・エイ政(吉沢亮)が出会い、それぞれの野望を胸に成長していく模様を描く。公開されるや否や、瞬く間に話題となり、興行収入57.3億円を記録する大ヒットとなった。

昨今、漫画原作を実写化した映画やドラマをよく目にする。2019年だけでも「第104回ドラマアカデミー賞」で作品賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、ドラマソング賞を獲得した「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)をはじめ、「テセウスの船」(TBS系)、「凪のお暇」(TBS系)などの人気ドラマ、二階堂ふみ×GACKT「翔んで埼玉」や菅田将暉主演「アルキメデスの大戦」、平野紫耀×橋本環奈「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」などのヒット映画……と、もはや少年/青年/少女、ジャンル等は関係なく、少しでも人気になった漫画はすべて実写化されるのではないかと思うほどの勢いだ。

漫画原作の実写化が飽和状態とも言えるいまだからこそ、注目されてバズる作品と日の目を見ずにひっそりと終わっていく作品と、映画公開後の明暗がはっきりと分かれているように思う。では、そんな中、なぜ映画「キングダム」は大成功を収めたのか。その理由を3つの項目に分けて考えたい。

■ 原作へのリスペクト

まず何と言っても重要なのが、“原作へのリスペクト”が感じられるか、ではないだろうか。実写化が決定するだけで、この世の終わりのごとく嘆く原作ファンたちは少なくない。それもそのはず、自分の中で大事に愛してきた作品が、実写化されることによって、冒涜されたと感じることがあるからだ。

その作品に対して、読者一人ひとりの中で大切に育んできたイメージがある。そのイメージに沿わなかったり、少しでも傷つけられたりする可能性があるからこそ、原作のファンたちは実写化を過剰に恐れる。ファンたちから合格サインがでるかどうかが、実写化成功のひとつのボーダーラインと言っても過言ではない。

その第一関門が、誰が何の役をやるかである。先述したが、ファン一人ひとりの中にそれぞれのイメージが存在しているため、100人中100人が「このキャラクターにはこの役者しかいない!」と納得することはまずないだろう。そもそも二次元を三次元で再現にするのだから、100%ピッタリな配役というものは存在しない。

よって、配役が決定したとき原作ファンの心理は大きく分けて3つとなる。「イメージ通りの配役で満足!」「イメージとは少し違うが許容範囲内」「イメージとは全く違う……絶望……」。映画「キングダム」では、キャスト発表当時は、全体的に「イメージとは少し違うが許容範囲」という声が多かったように思う。

だが、予告編などの映像が公開されると、成キョウ役の本郷奏多や山界の王・楊端和役の長澤まさみをはじめ、キャラクターの再現度の高さに歓喜の声があがり、原作ファンからの期待値が一気に上昇した。短い映像を見ただけでも、出演者たちが自身の演技スタイルを貫きつつも、原作ファンのイメージを崩さないように最大限努めていることが伝わってくる。

特に大沢たかおは元々のビジュアル自体は王騎とはあまり近くない印象だったが、口調や表情、態度、仕草、姿勢などを忠実に再現したことで、王騎を見事に完成させていた。出演者たちが、原作やアニメに寄り添い、役作りをしたことで、それぞれのキャラクターへの理解と愛を感じさせる。

次に、ストーリー。実写化作品でたまにあるのが、原作の意図を汲み取らずにアレンジを加えすぎて、気づけば全く別物になってしまうことだ。たとえば、原作は生死をかけたシリアスな戦いがテーマとなっているのに、実写化ではなぜか恋愛がメインに据えられているなど、設定と世界観を活かしきれずに撃沈してしまうことがある。

だが、映画「キングダム」は原作者・原泰久先生が脚本に参加していることもあって、ストーリーやキャラクターなどの設定が原作の意図から決して外れない。土台を大切にしながら、必要な部分を取捨選択すると同時に、“三次元の映画”に合う新しいシーンやセリフが加えられている印象だ。

ほかにも、本物の画を求めて中国浙江省象・山影視城で撮影を敢行したり、山崎賢人や吉沢亮らの躍動感溢れるアクションシーンだったり、原作に忠実な衣装や美術、巨大なセットだったり、大勢のエキストラによる迫力あるシーンだったりと、見た目ひとつとっても“再現へのこだわり”がヒシヒシと感じられる。

■ 映画としての面白さ

ここまで映画「キングダム」が、いかに原作をリスペクトして制作されてきたかを書き綴ってきたが、では本作は原作ファンだけが楽しめる映画なのか、というと答えはノーだ。世界観や設定、登場人物たちの心の機微がしっかりと丁寧に描写され、ストーリーがわかりやすく進んでいくため、原作を全く知らない人たちも、十分に堪能できる。

ド迫力のアクションや映像美は、コアな映画ファンをも唸らせるほどだ。つまり、一映画作品として楽しめるだけの完成度の高さと大スクリーンで見る意義を感じさせるため、原作ファンも映画ファンもそれ以外の老若男女も……とにかく多くの人を取り込めたというわけである。

■ 二次元を三次元にする意味

ここまで、「キングダム」の実写化成功の理由を長々と語ってきたが、そもそも二次元を三次元にする意味とは一体何なのだろうか。もちろん人気作品ゆえ、ある一定の集客を見込めたり、話題性に長けていたりと、収益面でのリスクの低さといった制作サイドのメリットは挙げられる。そういった商業的な部分ではなく、もっと本質的なところ。つまり、ひとつの作品を二次元と三次元の両方で表現することの意義とは何かだ。

二次元と三次元には、それぞれ違うメリットがある。たとえば、二次元は生身の人間では難しいことを描写できたり、生々しくない完璧な美しさを築けたりと、現実ではありえないことも描くことが可能だ。一方で三次元は、生身だからこその臨場感や迫力、リアルさを醸し出すことができる。極端に言えば、二次元での非現実を三次元で現実にでき、三次元での現実を二次元で非現実にできるということ。

また漫画、アニメ、実写映像というコンテンツ区分で考えると、漫画は声や音、色など読み手の想像にゆだねる部分が多い。だからこそ、それぞれが好きなように解釈でき、作品の幅が広がるように思う。アニメは非現実のものに現実の音を加えることで、世界観をあまり崩さずに、キャラクターに息を吹き込む。

まるで画面の向こう側という別の世界で、彼らが本当に生きているかのように錯覚させる(個人的には、スポーツやアクションものなど“動き”がある漫画が最もアニメ化に適しているように思う)。実写映像は、非現実だったものが現実に召喚されるイメージだ。より、作品やキャラクターを身近に感じられる。

よって、全編を通してあまりにもCGが多用されていると、アニメと実写映像の境界線があいまいになってしまい、どんなに原作を忠実に再現していたとしても、観客が実写でみたいと思う意欲をそぐ原因になってしまうのではないだろうか。

映画「キングダム」は、この漫画/アニメ/実写映像の塩梅が実に絶妙なのだ。原作が史実を参考にしているため、そもそも三次元を二次元に落とし込んだ作品とも言える。すなわち、実写化することで生まれる違和感が比較的少なく、またあからさまなCGを多用する必要もない。加えて、実写化するメリットを最大限に活かしている。

たとえば、生身のアクションや広大な風景によって臨場感や迫力が増す。歴史ものだからこそ、より壮大になり、現実感が生まれるのである。原作ファンにはリアルな高揚感を、原作未読者には作品の世界観に入りやすく、没入感を。

こうして構造を紐解いていくと、映画「キングダム」が2019年実写邦画No.1を勝ち取るほどヒットしたのも頷ける。だが、もちろんここに挙げた理由だけがすべてではないし、成功した漫画原作の実写化すべてにあてはまるわけでもない。

たとえば、“努力・友情・勝利”をテーマにした少年漫画と“憧れの青春と恋愛”を詰め込んだ少女漫画では、実写化する際に成功する鍵は、また微妙に異なってくるはず。だが、どんなジャンルの漫画であったとしも、原作への深い愛とファンもそれ以外も楽しめる丁寧なストーリー描写は、ヒットには欠かせない重要な項目となってくるに違いない。

※山崎賢人の「崎」は正しくは「立さき」(ザテレビジョン)