東京・北千住のシアター1010で開催されていた田中れいなの主演舞台「剣が君 -残桜の舞-」 が7月12日、千秋楽を迎えた。

■ 芝居ができる喜びを改めて実感

原作の和風伝奇アドベンチャーゲーム「剣が君」は、いわゆる“乙女ゲーム”と呼ばれる女性向け作品。多くのファンを持つキラーコンテンツであり、舞台化発表時には大きな反響を呼んでいた。

今回は新型コロナウイルス感染防止対策により客席を半数以下にしての開催となったが、無事に全公演を完走。役者陣、観客の誰もが待ち望んでいた数カ月ぶりのステージだった。

万雷の拍手で迎えられた千秋楽カーテンコールでは、出演キャスト全員が挨拶。舞台に立てる喜び、不安もあった気持ち、いつも通りの日が帰ってくることへの願いなどを、それぞれが噛みしめるようにコメントした。

主演の田中も、公演を行うと聞いたときは不安があったことを正直に明かし、「それでも今日を迎えて、本当に公演ができてよかったなと思います」と、晴れやかな笑顔を見せる。また、「香夜ちゃんは(プレイヤーキャラのため)ゲームでは声がなくて、私は原作に寄せたかったから、『どうしよう、どうしよう』と考えて…」と、主人公の香夜を演じる際にあった悩みも告白。

「原作ファンの方たちに『香夜ちゃんこんな声じゃない、そんなヤンキーみたいな顔じゃない』と思われたらどうしようと思ったんですけど、私なりに香夜ちゃんに寄せて頑張ってきました。少しでも私の香夜ちゃんが受け入れられてもらえていたらうれしいです」と挨拶。「本当に幸せでした!」と、元気に締めくくった。

今年3月から多くの舞台、ミュージカルの公演が取り止めになっていたが、7月から徐々に他作品も公演が再開。演劇界はようやく前に進む兆しを見せている。

なお、本公演は客席数減のほか、来場者およびスタッフへの赤外線サーモグラフィーによる体温チェック、アルコール消毒(会場含む)、マスク着用を実施。出演者にも上演時以外はマスク着用、上記同様の感染予防対策が取られた上で公演が進められた。

■ 原作の魅力、キャラクターの生き様を余すところなく再現

人の世に鬼や妖怪が住まう和風伝奇という妖しい世界観、繊細で美麗なイラスト、個性豊かなキャラクター。ゲーム「剣が君」の魅力は挙げれば切りがないが、ファンを引き付ける最大の魅力と言えば、なんといってもキャラクターたちの生き様だろう。

姫の影武者となり、江戸から駿府まで花嫁行列をすることになった主人公の少女・香夜。そして、香夜の護衛に就く九十九丸、螢、黒羽実彰、縁、鷺原左京、鈴懸ら6人の若き侍。ある者は剣の高みを目指し、ある者は家族の仇を追い、ある者は贖罪の道を探し…。さまざまな過去を背負った者たちが見せる信念と誇りの生き様は熱く、切なく、剣を取るのか、愛する君を取るのか――香夜との恋模様も胸打たれるシナリオとなっている。

舞台ではこのキャラクタードラマの魅力を余すところなく再現。もちろん上演時間の都合上、膨大な原作全てが収められているわけではなかったが、テンポのいい演出で片時も目を離せず、原作の名シーンを切り出しながら、舞台ならではのアレンジで原作ファン、作品未体験の俳優ファンの両方を楽しませてくれる内容に。

九十九丸役の矢部昌暉、螢役の反橋宗一郎ら役者陣は立ち居振る舞いからセリフ回しまで、キャラクターが生身となって現れる2.5次元の醍醐味をしっかりと体現してくれた。

■ 田中れいな、ミュージカルさながらに全編で歌唱を担当

今回、田中れいなが演じたのは、ヒロインである料理茶屋の娘・香夜。モーニング娘。のエースとして活躍した彼女はかねてから演技力にも定評があり、グループ在籍時から数えれば、舞台、ミュージカルの出演作数は20を超える。

「剣が君」は、九十九丸たち6人の若者がそれぞれの宿命に立ち向かう物語だ。香夜はその中で彼らを支え、心を癒やし、彼らが生きるための愛しい君になっていく。男性陣の熱量あふれる芝居に対し、田中は女性らしい柔らかさで香夜を表現。個別ストーリーと呼ばれる6人それぞれとのドラマでは、シナリオごとに変わる香夜の感情を細やかに映し、役者としての実力をしっかり見せた。

また、ゲームではエモーショナルな音楽も胸を打つポイントで、舞台でその役を担ったのが田中の歌唱だ。物語を紡ぐ情感豊かな歌声が会場の隅々までを包み込み、劇への感情移入を一層高めてくれるものに。随所でミュージカルさながらに美声が披露され、演出家が寄せる“田中れいなの歌”への信頼が見えるようだった。

2.5次元のほとんどは女性をターゲットにした作品で、観劇者の多くが男性俳優陣の女性ファンであるのが常だ。本作もその例にもれず、田中にとってはある意味アウェーの場だったが、だからこそ初めて聴く彼女の歌の輝きに驚いた方も多いだろう。

■ キャスト一丸で作ったオールインワンの「剣が君」

舞台には主人公サイドだけでなく、主だったサブキャラクターたちも登場。鬼族の斬鉄(土井一海)、シグラギ(KOHEY)は強烈な存在感を示し、元NMB48の上西恵も、男装のくノ一・服部半蔵役で出演。男性陣に負けない殺陣を披露した。

また、原作で人気のハバキ憑き(佐武宇綺)、妖のマダラ(矢倉楓子)、ハチモク(設楽銀河)は緊迫するドラマの中、ほっこり癒やし空間を作り出し、それぞれの役者が「剣が君」世界で生きるキャラクターを舞台上に体現。九十九丸たちのドラマが引き立つのも、彼らがいたからこそのものだ。

原作ファンにも高評価な舞台化だったが、今回は日々の状況もあり、残念ながら観劇を見送ったファンも少なからずいただろう。原作はマルチエンディング形式であり、できるなら、今回収めることが叶わなかったストーリー構成での再演を願いたいところだ。

なお、7月8日に行われた公開稽古(九十九丸&螢ルート)全編の映像が、VR動画配信サービス「360Channel」にて、7月14日(火)18:00から7月31日(金)までの期間限定で販売が決定。本サイトにて5分間のサンプル映像の視聴が可能になっている。

■ 田中れいな、矢部昌暉ら千秋楽カーテンコール挨拶

香夜役・田中れいな:最初、公演をやると聞いたときは、「え、できるの!?」と思ったけど、それでもやっぱり今日を迎えて、本当に公演ができてよかったなと思いました。香夜ちゃんは(プレイヤーキャラのため)ゲームでは声がなくて、私は原作に寄せたかったら『どうしよう、どうしよう』と考えて…。原作ファンの方たちに「香夜ちゃんこんな声じゃない、そんなヤンキーみたいな顔じゃない」と思われたらどうしようと思ったんですけど、私なりに香夜ちゃんに寄せて頑張ってきました。少しでも私の香夜ちゃんが受け入れられてもらえていたらうれしいです。本当に幸せでした!

九十九丸役・矢部昌暉:無事に千秋楽まで終えられたのは、ここにいてくださる皆さんのおかげです。ボケてツッコんでの応酬で、稽古のときから楽しくて。自粛明けの久しぶりの舞台、この作品、ここにいるみんなと会えてすごくよかったです。

螢役・反橋宗一郎:今日この日にたどり着けて、一瞬足りとも楽しくなかった時間はありません。この舞台ができたのは、“止めることを止めてくれた”アミプロさん、原作さん、足を運んでくれたお客さんのおかげです。また原作の世界に触れたいですし、「剣が君」のさらなる発展を願っています。

黒羽実彰役・秋沢健太朗:大好きなお芝居ができて本当に幸せでした。正直、稽古期間中、「できるのかな?」と不安に思ったときもありましたが、こうして千秋楽を迎えられて、どんな状況でもお客さまに届けることができるというのはありがたいことだと改めて感じています。また不安なく、前みたいに戻れるように心から祈っています。

縁役・谷佳樹:最後の歌に、「だが、散る桜は知っている。次の春にまた」という歌詞があるんです。この作品が千秋楽を迎え、散る桜に例えるならば、またこのキャスト全員が集まって、満開の桜の時期に再演であったり、「剣が君」の舞台がまたできる日が来ることを願っています。

鷺原左京役・田中稔彦:芝居ができることが何より幸せです。この蛍丸(左京の刀)、作中で言うなら刃こぼれしていません。これは左京にとってとても意味のあることで、舞台に関してだと、あれだけ熱量のある殺陣の中で一つも刃に当たっていないというのは、しっかり稽古ができたからだと思います。全てに感謝をしています。

鈴懸役・杉江大志:本当に楽しい舞台の期間でした。たくさんの舞台が毎日いろんな劇場で上演されて、「見たいな」と思った作品に、皆さんが気兼ねなく足を運べる日がいつか帰ってくることを願っています。(ザテレビジョン・取材・文・撮影:鈴木康道)