7月25日(土)の「テレメンタリー2020」(毎週土曜深夜4:30-5:00[日曜朝4:30-5:00]、テレビ朝日系)は、「私がやらない限り〜性暴力を止める〜」を放送する。放送に際して、制作を担当し、1年以上取材を続けてきた濱地咲季ディレクターから話を聞いた。

本作は、性被害で苦しむ人たちをなくすため、性犯罪法改正に取り組む人たちの戦いを追う。

2019年、実父に中学2年生の頃から5年にわたって性暴力を受けていた女性の訴えに対し、性行為の事実を認定したものの、「娘には抵抗の余地があった」として父親を無罪とする判決が下され衝撃が走った。他にも「同意のない性交」と認めながらも無罪となる判決が相次いだ。

こうした判決に対して、手に花を一輪たずさえた人たちが抗議を行うデモ「フラワーデモ」が起こった。デモは、次第に全国へと広がり、当事者がつらい被害について語り、二度と同じような被害者が出ないよう願う場所となった。

そして2020年、法務省は、性犯罪法に関する検討会を設置し、初めて被害当事者が検討会のメンバーに入った。検討委員の山本潤さんは、10代の頃、実父から性暴力を受けていた。山本さんは「同意のない性行為は罪」と規定する法改正を訴えている。

これまで、性暴力を受けた人の声は、多くが何事もなかったようにかき消されてきた。法の改正は遅過ぎるのかもしれないが、山本さんや多くの勇気ある人たちの行動が未来を切り開いている。性犯罪抑止をめぐる今知っておくべきことを番組は伝える。

制作はテレビ朝日。担当プロデューサー・土井研吾、担当ディレクター・濱地咲季。そして、番組のナレーターを、自身も性犯罪の被害者として戦ったジャーナリストの伊藤詩織氏が務める。

今回、濱地ディレクターに取材を敢行。この題材を通して伝えたいことや制作意図などを聞いた。

■ フラワーデモの広がりに、日常の中で性暴力は起きていると実感させられた

――「私がやらない限り〜性暴力を止める〜」制作・放送の動機をお聞かせください。

2019年3月に相次いだ性犯罪に関する裁判での無罪判決、特に、当時19歳だった実の娘に性的暴行を加えた父親に無罪を言い渡したというニュースに大変な憤りを覚えました。しかし、私も憤りを覚えるものの、それを何か主張するわけでもなく、いつものように番組制作を行う日々でした。

その後、この無罪判決に抗議する「フラワーデモ」が始まりました。私も、何か引き寄せられるように、あのデモの現場に、小さなカメラを持ち取材に向かいました。テレビ制作会社のディレクターという立場で、今すぐニュースなどですぐに放送できるような確約は、一つもありませんでした。

その時は、番組や作品にしようという気持ちよりも、この現場を記録しておかないといけないのでは、という思いでカメラを回しました。デモで語られていた、性被害を受けた人たちの悲しみや怒りの声、今まで苦しんできた人たちの声を実際に聞き、なかったことにしてはいけないと強く思いました。

フラワーデモの撮影をしていて驚いたのは、大学生やLGBTQ、男性など、年齢性別関係なく、被害を受けた痛みを語っていたことでした。性被害は、女性だけの問題ではないと学んだのもこの場所でした。

その撮影で、デモのスピーカーとして参加していた、性犯罪の刑法改正を訴える山本潤さんに出会いました。潤さんのスピーチを聞き、現在「同意のない性交」であったということだけでは、加害者を罪に問えないということを知りました。

刑法が変わることで何が起こるのか、なぜ、これまで、刑法は変わってこなかったのか、そんな疑問が起こり、潤さんに取材を申し込みました。それから1年以上、潤さんとフラワーデモの取材・撮影を行なっています。

――「フラワーデモ」の広がりについて、どのように取材を行われたのか、また、取材を通じて感じたことをお聞かせください。

フラワーデモが始まってから一年。47都道府県に広がったことは、とても大きなムーブメントが起きていると感じます。しかし一方で、こんなにも苦しんでいる人たちがいて、あらためて、日常の中で性暴力は起きているのだとも感じます。

撮影を続けていて、何度も悩んだのは、今、この瞬間、デモに参加し、被害について語っている人も、少し時間がたつと、テレビには出たくないと希望する人が出てくるだろうと予測されることでした。

実際、一度、取材を受けようと決意した人もSNSにその人を中傷するコメントが書き込まれ、「今回は、残念だけれども、身の危険を感じるので協力を控えたい」と断られた被害者もいます。「暴力に反対する」「自分のような被害者をこれ以上生み出したくない」と訴える人々の声が消されてしまう現実を目の当たりにしました。

今回、勇気を持って取材を受けてくれた人々とは、時間をかけて話し合いながら制作してきました。「自分の取材の方法は、本当にこれで良いのか」「被害を受けた人々のためになっているのだろうか」と悩みながら取材を進めていますが、取材を受ける人たちにいつも励まされ、なんとか撮影を続けてこられたというのが正直な感想です。

■ 望まない性的な行為は、人権と尊厳を傷つける暴力

――山本潤さんを取材されて感じたことを教えてください。

山本さんは、5年前から刑法改正に向けた活動を行なっています。私は最初、「刑法なんて自分とはあまり関係ない、遠い話だ」と思っていました。しかし、山本さんの話を聞いて、望まない性的な行為は、人権と尊厳を傷つける暴力だと強く感じるようになりました。

これまで、セクハラをされても、「笑って対応するのが大人だ」と思っていましたが、そうではない。「おかしい」と思うことは「おかしい」と言っていかなければいけないんだ、と今ではそう思います。山本潤さんを追い続けることで、(山本さんには、かなりの負担になったかと思いますが…)どうすれば「性暴力のない社会」を作ることができるかを私自身深く考える機会を持つことができました。

――フラワーデモなどを経ての性犯罪法改正の動きをどのようにみられていますか?

性犯罪法の改正は、フラワーデモをはじめとした被害者が声を上げたことで、改正へ向け、大きな動きにつながっています。しかし、一方で、「刑法は、人の自由を拘束できる究極的な法であるがゆえ、罰則の強化には慎重であるべき」「冤罪(えんざい)に対する対策はどうするのか」と主張する専門家もいます。

こうした専門家の意見も私たちはきちんと学び、どんな社会を作りたいかという議論を行うべきだと思います。ただ、一つ、誰もが同意できるのは、「性暴力のない社会を作り、被害者が痛みを抱えながら苦しみ生きていく社会をなくす」ということだと信じています。

■ 被害を受けた人に寄り添うナレーション

――今回ナレーターに伊藤詩織さんを起用した理由をお聞かせください。

3年前、性暴力の被害を実名で語った伊藤詩織さんには、多くの人が勇気をもらいました。今回、番組で被害を語った人の中にも、伊藤さんから勇気をもらって、「私も自分の体験を話そうと思った」とおっしゃった方がいます。

性暴力にあった方たちに寄り添ったナレーションを読んでいただけるのは、伊藤さんだと思い、お願いしました。また、伊藤さんの優しい声は、番組の雰囲気にも合っていると思っています。

伊藤さんからは、「今までかき消されてきた、沈黙を強いられてきた一人一人の声。声をあげてくださった方々、声が上げられない方全ての思いがこのドキュメンタリーを通して届くよう、今回ナレーションとして声を重ね伝えることができて光栄です」とコメントをいただきました。

番組内で、伊藤さんが2019年9月にフラワーデモで行ったスピーチの一部も紹介する予定です。

――本番組を通じて訴えたいこと、視聴者に伝えたいことを教えてください。

性暴力は女性だけの問題でなく、男性の問題でもあり、そして性的マイノリティーの人々は、法の適用されるスタートラインにも立っていないという声があります。安全で安心して暮らせる当たり前の社会になるように、私たち一人一人が考えていかなければいけない問題だと思います。

2020年6月に性犯罪に関する刑法の検討会が始まったばかりです。性暴力に対し、日本社会がどう変化していくのか、これからも取材を続けたいと思っています。

最後に、今回、番組の取材にご協力いただいた全ての皆さまに本当に感謝しています。(ザテレビジョン)