現在の2.5次元ブームの火付け役的存在でもあり、当ジャンルを牽引し続ける鈴木拡樹が新たに挑戦するのは、大人の恋愛をモチーフにしたオリジナルの舞台。「時子さんのトキ」は、高橋由美子演じる時子が、路上で歌っていた翔真と出会い、恋に落ちる物語です。しかし翔真には、時子に見せていない顔があって…。今回、翔真という難しい役に挑む鈴木に心境、そして現状のエンターテイメントに対する思いを聞いた。

■ 器用じゃないと自覚していることが、僕の武器

——「時子さんのトキ」、最初に脚本を読んだときの感想を教えてください。

現状としましては(8月末)、台本の制作が後半にさしかかっているところなので、プロットを見た時点でのお話をさせてもらいますと、僕自身は男女の恋愛を描く作品に出演したことがごく少ないというか、ほぼないに等しかったんです。

この作品のプロットは、時子と翔真という男女が、本人同士だけは必要としてしまう、ある意味依存してしまっている愛の形を描いていたので、「こんなに難しくて、いろいろと考えさせられるような題材に出演できることは、チャンスだな」と感じました。純愛系の作品にあまり出ていない自分ですが、端から見たら「ちょっと信じられない」と思われるような愛の形を描けることを楽しみに、参戦しました。

——脚本を途中まで読ませていただきましたが、鈴木さん演じる翔真がなかなかにクズだな、という状況でして(笑)。

さらに進むともう一段階、クズさが見えてくるかもしれません(笑)。僕も先日、作・演出の田村(孝裕)さんから、「こういう展開になっていくと思う」と構想を伺ったのですが、最後のドタバタがかなりおもしろくなりそうです。

——鈴木さんから見た翔真とは?

自分が演じている人物だからこそとは思いますが、擁護してあげたい部分もあるんですよね。世間的に見てダメな人間だということは理解しているんですけど、時子さんに対して甘えてしまうというか、彼女からの大きな支えを感じる瞬間があります。その分、「あ、翔真は頼っちゃったんだ、そっちにいっちゃったんだな」と、わかる気がしますね。

——翔真はアーティストを目指しているものの、現実はうまくいっていません。鈴木さん自身、役者としてなかなかうまくいかない時期はありましたか?

僕は基本的に器用なタイプじゃないので、何をやってもそう簡単にうまくはいきません。そこを自覚していることが、ひとつの武器になっている気がします。不器用だからこそ、時間をかけてどうにかしようと思っているので、そこで折れないことはすごく大事だと思っています。

■ 現場で学びと問題点の改善を繰り返した13年間

——鈴木さんが主演していて、今や大人気コンテンツとなっている「最遊記歌劇伝」ですが、初演のあと、続編がストップした時期があったとか。以前、それがショックだったと語っていました。

僕の中で「続編はあるものだ」と、どこか当たり前に思ってしまっていたところがあったのかもしれません。

——その時期は、どんなことを目標にしていましたか?

再開できるかはわかりませんでしたが、やりたい意志はありましたし、それはキャストとも共有していました。続編をやることを目標にして、そのために何が必要かを考えたところ、個々のレベルアップは当然のこと、「座組とはどういうものなのか」を、いろんな座組を知ることで学ぶというか。「ひとつのチームになりたいね」ということをテーマに、頑張っていました。

——また役者として走り始めたころに、心の支えにしていたことは?

運のいいことに、デビューさせてもらった作品以降、仕事だけは続いていたんですよね。何かしらやることがあったのはすごく幸運なことではありましたが、逆に言えばとても怖いことでもあって。

右も左もわからなかったので現場で学ぶしかない状況でしたが、次の現場に行って問題点がすぐ改善できるのかと言えば、そうではない。それをずっと繰り返してきました。

いつ切られてもおかしくないという状況の中で、現場で何を吸収できるか、そこにどれだけ早く気づくことができるかに、賭けてきた13年間だったと思います。

■ 「やっぱり演劇は楽しいな」と実感しています

——翔真の役作りは、どのようにして構築していきましたか?

まずは台本を読んだ自分の感覚を信じて進めてみる構想でしたが、テーマのひとつが支え合いということもあり、高橋さんの演じ方によって、ふたりで空気感を作っていけたらなと考えました。

また稽古で田村さんが「ここの翔真は、実はウソをついているんだよ」と小出しに教えてくれるので、「えっ、これはウソだったんだ!」というところから、またひとつ変化するんですよね。「騙しているつもりはないけど結果的にウソついちゃった」みたいな感覚で、稽古を進めています。

——時子を演じる高橋由美子さんの印象を教えてください。

最初にお会いした時から、高橋さんの器の大きさなのでしょうか、受け止めてくれる力を感じます。それは座組全体に対してかも知れませんが、とても大きな力で…抱擁力という表現が近いんでしょうかね。僕らは、すごく不思議な包まれ方をしていただいています。人間としての大きさを感じます。

——さらに矢部太郎さん・伊藤修子さんという、個性的な共演者についても伺えますか。

矢部さんは田村さんから「ここはちょっと任せるわ」とアドリブを頼まれているのですが、そこで果敢に戦っている姿がめちゃくちゃおもしろいです。よくメモを取る役なのですが、気づくとおもしろいことをしていたりもします(笑)。

伊藤さんは伊藤さんにしか出せない、なんとも言えない空気感があります。共演していて安心しますし、「実際にいそう!」と思わせる力がすごいですよね。

■ 久しぶりのお稽古で演劇の楽しさを改めて実感

——今回はかなり大人っぽい舞台ですが、鈴木さんが多く出演していらっしゃる2.5次元系舞台と、演じる上で心構えに違いはありますか?

心構え自体は、そんなに違いはないです。ただ「翔真ってどんな人ですか?」と聞かれて、現時点で答えられないことが、最も大きな差異なのかなと思います。

2.5次元系の作品は、僕が演じる役がどんな人かを、お客さんは舞台を見る前から答えられるんです。一方で本作のようなオリジナル作品は、ゼロから見ていただく楽しさを味わっていただけると思います。

創る側としても、同じ条件です。オリジナル作品は資料が多く存在するわけじゃなく、ゼロから創ることができるので、答えの幅が広いところがいちばん違う点ですかね。

——現状は、エンターテイメント業界も様変わりしています。今、エンターテイメントを通じて届けたいことは?

僕が惹かれた舞台の世界は、すごくパワフルで楽しい空間…実際は目の前で行われているのですが、まるで包み込まれているように感じました。この感覚は劇場じゃないと、フルで活かした状態で感じ取ることができないんですよ。だからこそ劇場で見ていただきたい気持ちはもちろんありますが、今のご時世だとそれを勧めることがとても難しい時期です。観劇される方は無理をせず、体調が悪い方はご来場をお控えいただきますようお願いいたします、とお伝えしたいです。

「今回は体調が悪いから諦めるけど、どうしても見たいです!」という声が届いたら、また見ていただける可能性もあるかもしれないので。今は出演者・スタッフ・お客様の全員がきっちりと感染対策に意識を向けることによって、演劇というもの自体が嫌われないよう、守っていけると思うんです。演劇が好きであればあるほど、みんなで見られる環境を守って、観劇を楽しんでいただきたいです。

——「お芝居を見る幸せ」を改めて感じることができただけに、その幸せを壊さないよう、観客の意識も高まっていると思います。生で鈴木さんのお芝居を見ることを楽しみにしているファンの方々へ、メッセージをお願いします。

久しぶりにお稽古をして、「やっぱり演劇は楽しいな」と実感しています。そういう気持ちも作品に乗っかるのではないかと思いますので、一緒に楽しんでいただける方には本当に感謝します。まずは健康な状態で見終えて帰っていただけることが何よりですから、カーテンコールのお見送りまでしっかり務めます。(ザテレビジョン・取材・文=篠崎美緒)