昨今、サッカーを観戦するとき、「縦に速い」「インテンシティが高い」「激しいプレス」などの言葉を耳にすることが多くないだろうか。これらのワードが多く使われるようになったのは、ドイツ生まれのあるスタイルが注目を集めたからだ。ボール奪取からフィニッシュまでの流れを一瞬のうちに行い、激しいスピード感で見るものを魅了するスタイル。今や欧州を席巻する最先端のサッカーだ。その使い手である監督たちは今季もビッグクラブで結果を残しており、なぜ強いのか?を理解することで、サッカー観戦が何倍にも面白く感じられることは間違いない。

 UEFAチャンピオンズリーグのここ3シーズンの優勝チームはリヴァプール、バイエルン・ミュンヘン、チェルシー。レアル・マドリードによる3連覇以降、再び群雄割拠の様相となっている。リーグ別ではプレミア「2」、ブンデス「1」だが、この3チームはすべて監督がドイツ人というところは共通している。

 ユルゲン・クロップ(リヴァプール)、ハンス・ディーター・フリック(現ドイツ代表監督・当時バイエルン)、トーマス・トゥヘル(チェルシー)だが、欧州を制したドイツ人監督のサッカーには共通項がある。高い位置でのボール奪取と間髪入れない攻撃が特長で、フィジカル的にも強度が求められるスタイルだ。3人のサッカーが、全く同じとはいえないまでも、土台になっている考え方は似ていて、ドイツ代表の戦いぶりに通じる部分も多い。

 いわゆる「ゲーゲン・プレッシング」をアップデートさせてチームを完成させていく手法は、成功を収めるドイツ人監督の哲学なのだ。

 ドルトムント時代に「ゲーゲン・プレッシング」で有名になったリヴァプール監督のクロップは、攻守をシームレス化した第一人者といってもよい。

 多くの監督にとって「どちらにボールがあるか」が重要だが、クロップの場合は「どこにボールがあるか」がより重要である。つまり、攻撃と守備を分けていない。ボールが相手ゴールに近い場所にあるのなら、たとえボールを持っていなくても、そこで奪えば大きなチャンスを作ることができる。より良い状態でボールを相手ゴールに近づけること。ボールが相手にあっても自分たちにあっても。言い方を変えると、クロップのチームにとって敵陣にボールがあるかぎり、それが相手のボールであったとしても、行うのは「攻撃」になる。それがゲーゲン・プレッシング=カウンター・プレスの肝になる発想の転換だ。

 クロップのサッカーは、ピッチ全面での高強度プレイが求められるため、リヴァプールには60〜70分での息切れ問題がある。そこでクロップ監督は、試合でリードすると[4-3-3]から[4-4-2]、そして終盤は[4-5-1]にシフトするなど強度を控えめにすることでリスクを管理している。しかし、プレイエリアの限定はしないため、どこからでも点を取りにいくスタイルは試合を通じて変わらない。CBファン・ダイクからの素早いパス一本で、モハメド・サラー、サディオ・マネといった強力FWがゴールゲットするシーンも、クロップ流ならではである。

 マインツ、ドルトムント、パリ・サンジェルマンを経由し、チェルシーの指揮を執るトーマス・トゥヘルは、戦術的な柔軟性が高いが、攻撃的なサッカーを志向する点では、いかにもドイツ人監督だ。かつてモウリーニョが成功したことで、いい意味でも悪い意味でも根付いてしまった「堅守速攻」というチェルシーを、昨季途中で就任するやインテンシティの高いチャレンジするチームに作り上げ、欧州王者へと導いた。プレミアで首位を走る現在のチェルシーでは主に3バックを採用するが、[3-4-2-1](ニューカッスル戦)[3-4-1-2](バーンリー戦)[3-5-2](ブレントフォード戦)など、複数のシステムを使い分ける。攻撃の核となるはずだったロメル・ルカクの離脱も関係しているが、相手のシステムを考慮するだけでなく、ロス・バークリーやカラム・ハドソン・オドイ、カイ・ハフェルツなどより多くの選手にチャンスを与えることにもなっており、特定の選手に依存しないチームづくりが、チェルシーの強みにもなっている。

 ナーゲルスマン率いるバイエルンもフィールド全面で高強度のプレイをする。リヴァプール同様、選手に技術とフィジカルがあるからできることだが、ナーゲルスマン監督はトレーニングの斬新さでも知られている。フィールドに大型スクリーンを設置して映像で即座に意図を伝えるなど、テクノロジーを駆使した指導から「ラップトップ世代」と呼ばれる若手監督の代表格だ。

 ユップ・ハインケス体制で2012-13シーズンに圧倒的な強さで3冠を達成したバイエルンは、その後、ジョゼップ・グアルディオラ〜カルロ・アンチェロッティと指揮官が移り変わるなかで、強いけれども、相手を粉砕する迫力が失われてしまった。17-18シーズンに復帰したドイツ人指揮官ハインケスでバイエルンらしさを取り戻し、前任のフリック体制ではスーパーハイプレスによる破壊力でCLを制覇。バイエルンは別格という立ち位置を欧州で築いた。今季から指揮をとるナーゲルスマンは、シームレスな攻守はそのままに、ポゼッションスタイルを織り込むことで、それをさらに進化させようとしている。基本的な初期配置は前任者フリックの[4-2-3-1]を踏襲するが、ボール保持時に[2-3-4-1]のように変形し、数的優位を作り出す形が見られる。また、プレイエリアをワイドにし過ぎないところが、昨シーズンとの大きな違いだ。選手間の距離を縮めることで、特長である破壊力を維持しつつも、フィジカルの温存にも繋がっている。ナーゲルスマンによる正常進化版バイエルンが、史上初の10連覇を達成する可能性は高い。

 プレイエリアを意図的に狭めることで、選手間の距離を縮めて強度を高めるスタイルは、ナーゲルスマンが師事したラルフ・ラングニックの影響が大きい。2015-16、2018-19シーズンにラルフ・ラングニックが率いたRBライプツィヒは、[4-2-2-2]のフォーメーション、ボールのあるサイドにフィールドプレイヤーのほぼ全員が入ってしまうエリアを狭めた攻守が話題となった。

「ボール奪取に8秒、フィニッシュまで10 秒」(ラングニック談)

 狭いエリアに人を集結させていたのはそのためだ。ラングニック監督時代のライプツィヒは極端で、決して本人が率いたチームがビッグタイトルを獲ったわけではないが、ハイテンポの攻守を実現させたスタイルはユニーク。ザルツブルクで監督を務めたロガー・シュミット(現PSVアイントホーフェン監督)、マルコ・ローゼ(ボルシア・ドルトムント監督)、ライプツィヒでのラルフ・ハーゼンヒュットル(サウサンプトン監督)、ユリアン・ナーゲルスマン(バイエルン・ミュンヘン監督)などが「ラングニック派」と呼ばれることもある。

 ラングニック方式を色濃く受け継いでいるのがマルコ・ローゼだ。今季はボルシア・ドルトムントを率いている。

 ローゼ監督は攻守をペナルティエリアの幅=約40メートルで行おうとしている。フォーメーションはさまざまだが、一貫しているのは相手ゴールを直撃するような縦に速い攻撃と、息もつかせぬハイプレスだ。

 サイドバック以外の8人がペナルティエリアの幅に入る。SBがいちおう幅をとってはいるが、ボールが来てもすぐに中央部へ返す。狭く攻めて狭く守る。サッカーの定石では「攻撃は広く」だが、あえて狭く攻めるのは、ボールを失ったときにハイプレスが有効だという理由が1つある。

 ラングニック派とは対極といえるバルセロナのサッカーを始めたヨハン・クライフは、「1人の選手が幅15メートルでプレイするのが理想的」と言っていた。これは[4-3-3]を意識したものだろう。3トップと2人のインサイドハーフの計5人がフィールドの横幅を担当すると、だいたい1人当たりのプレイエリアは15メートルぐらいになる。4バック+アンカーの5人も同様。

 一方、ローゼ監督のドルトムントはペナルティエリアの幅をプレイエリアとして設定しているから、1人の担当幅は8メートル。守備時には2秒でボールにアタックできる距離感だ。守備の強度は格段に上がる。

 ただし、狭く守るために狭く攻めるので、攻撃時にはあまりスペースがない。これをどうするかが問題だが、そのために縦への速い攻め込みを重視している。例えば、ボールを持っている選手の前に相手が立ち塞がったときは、間髪入れずに味方がボールホルダーを追い越してパスコースを作り、攻撃を停滞させない。インナーラップ、オーバーラップを多用している。なぜそうするかというと、相手DFを動かしたいからだ。

 止まって構えているDFがパスコースを読んで動けば、瞬時に3〜5メートルを守ることは十分にできる。ところが、動いているDFは自分のすぐそばをボールが通っても足を出せないことがある。つまり、DFを動かすことでスペースの問題は解決できるわけだ。

 ちなみにクロップはグアルディオラが率いた全盛期のバルセロナを「退屈」と評した。好みを言っただけだが、クロップにとってサッカーはもっと激しく、スリリングなものであるべきなのだろう。ドイツ人は規律で知られているけれども、その反動なのか自由を求める気持ちも強い。サッカーでも規律は大事だが、ドイツ人監督はエネルギーの全面的開放にサッカーの原点を求めているようにもみえる。

※電子マガジンtheWORLD263号、11月15日配信の記事より転載