サッカーに限らず、現代のスポーツにおいて、自分と相手の研究は当たり前。今季の欧州サッカーでも、長きにわたってその研究を続け、独自のメソッドを確立してきた名物監督たちが名門チームを率い、リーグを面白くしている。素材(選手)と調理法(戦術)を知り尽くし、極上の一皿を作り上げる彼らはまるで凄腕の料理人のようで、その腕前を堪能することもまた、欧州サッカーの大きな楽しみのひとつなのだ。

 百戦錬磨で安定感抜群、それでいてときにスパイスをピリッと効かせることにも長けた指揮官としてまず思い浮かぶのは、ジョゼ・モウリーニョだ。チェルシー、インテル、レアル・マドリードといった“高級レストラン”のシェフとして腕をふるってきた彼は、とにかく客を満足させる=「勝つ」ことに徹底的にこだわってきた指揮官だ。

 今季からローマを率いるポルトガル人は、ボビー・ロブソンの通訳からキャリアを始め、2003-04シーズンにダークホースだったポルトをUEFAチャンピオンズリーグ制覇に導いたことで、世界的に知られるようになった。その後就任したチェルシーでは、初年度に29勝1敗8分・わずか15失点という驚異的な成績でクラブに50年ぶりのリーグタイトルをもたらすと、翌シーズンもリーグを制し連覇。さらに名声を高め、2009-10シーズンはインテルで3冠を達成。不動の地位を築く。

 近年は目立った成果をあげておらず、モウリーニョ神話もやや崩壊気味だったという声もあるが、イタリアでは違う。インテル時代のインパクトの大きさもあり、“スペシャル・ワン”のローマ監督就任は大歓迎された。

 モウリーニョの基本的なスタイルは、堅固な守備をベースにした速攻が特長だ。

 相手の力量を分析した上で、さらに細心の注意を払うのがモウリーニョ流。格上相手に見せる自陣ゴール前に人数を割く、いわゆる「ゴール前にバスを停める」戦法は、言い換えてしまえばただの人海戦術に過ぎない。だが、真っ向勝負で分が悪い相手には、結局これが一番理に適っているというのがモウリーニョの結論だろう。それを完遂する自己犠牲の気持ちを持たせることが、指揮官の仕事だ。

 2010年のインテルでのCL制覇のときは、明らかに戦力的により優れたクラブがあった。世界的な大ストライカーであるサミュエル・エトーをディフェンスラインまで下がらせたのは有名な話だ。

 これまでの戦い方を見ると、そこまで奇抜さはないのかもしれない。それでも彼をスペシャルにしたのは、たきつけ方の部分だ。必要とあれば、メディアを通して選手個人を非難することも。ファンのボルテージを上げる能力もモウリーニョはずば抜けており、これは情熱的なローマっ子との相性がすこぶる良い。その点も軽視はできない。

 今季のローマはセリエA開幕5試合で高い評価を受けたが、その後は調子を落としている。モウリーニョは審判の判定に文句を言っているが、それでも得点が減り、失点が増えたのは紛れもない事実。サイドを使えないときのタミー・エイブラハム狙いが相手の裏をかけなくなったのもあるが、モウリーニョのチームとしては2列目の運動量が明らかに少ない。“スペシャル・ワン”がどうたきつけるかが見ものだ。

 今季からユヴェントス指揮官に復帰したマッシミリアーノ・アッレグリは、料理人は料理人でも、超凄腕の家政婦といったところだろうか。冷蔵庫にあるもので極上の一品を作り上げることができる。とにかく、与えられたものでチームを完成させる力に長けているのだ。

 2008年にサッスオーロをセリエC優勝に導いたことで知られるようになったアッレグリは、その後カリア
リで結果を残して、名門ミランへ。2010-11シーズンのセリエAで優勝し、2014-15シーズンからユヴェントスで5連覇を達成した。

 基本システムは柔軟そのもの。「フォーメーションはただの数字」と本人が語るとおり、同じ試合でも3バックと書くメディアもあれば、4バックと書くメディアもあるほど、境界線はない。ユヴェントスの選手層があってこそだが、同じシステム・同じ先発メンバーで臨むことが極端に少なく、それでいて毎試合同じように勝ちきるのが、これまでの特長だ。

 今季については、その勝ちきるところができていないため、この点が非難の対象にもなる。ただ、満腹感のあるベテランと、勝ち方を知らない若者のチームで、開幕してからクリスティアーノ・ロナウド放出による戦術変更を余儀なくされたのでは、やや時間がかかるのも無理はない。

 重要なタイミングで集中が切れてしまうユヴェントスらしくない側面はさておき、アッレグリが解決したいのはプレイメーカーの問題だ。万能なアッレグリでも、2014-15シーズンはアンドレア・ピルロ、2016-17シーズンはミラレム・ピャニッチといったベースは動かさなかった。しかし、いまのユヴェントスにはこれにあたる存在がいないため、まだ模索中の印象だ。結果、パウロ・ディバラに全てを委ねがちだが、頼みのエースはケガによる離脱もあった。過去にはマリオ・マンジュキッチのウイング起用など、斬新な発想で持てる材料をフル活用してきたアッレグリ。“ありもの”で解決策を見つけてきたその真髄を発揮してほしいところだ。

 ルチアーノ・スパレッティ監督率いるナポリは、いまのうちに一度はみてほしいチームだ。「オレの味が嫌ならくるな」と言わんばかりの頑固な料理人だが、その腕は間違いない。既存の料理をさらに進化させようとする、創作料理人のような指揮官だ。

 セリエAで絶好調のナポリは、第12節終了時点で得点数が5位の24。失点の少なさはダントツ首位の4となっている。平均のボール支配率は「59.8%」と2位のサッスオーロ(56.6%)に大差をつけており、ここまでスパレッティのチームには絶賛の声しかない。

 スパレッティといえば、[4-2-3-1]のシステムがお馴染み。ベースは同じだが、客に応じて仕掛けをかえてテーブルに出す形式だ。

 試合中の平均ポジションを見ると、右ウイングのマッテオ・ポリターノがセンターフォワードのヴィクター・オシムヘンよりも前になることがしばしば。これは、攻撃時のナポリが基本的に3バックに変形するのが理由で、右サイドバックのジョヴァンニ・ディ・ロレンツォがかなり高い位置に張りつく。そのため、ポリターノの定位置も自然と前になるという仕組みだ。ここに今季加入のアンドレ・フランク・ザンボ・アンギサが激しいアップダウンで絡み、常に数的優位を生み出している。

 今回挙げている監督たちの中で、タイトルという意味での成功は多くないスパレッティ。第1期のローマ時代にコッパ・イタリアを2度制し、ゼニトで国内リーグ優勝などの実績があるくらいだ。ただ、指揮官として最先端で探求を続けているのは確か。いまではポピュラーなゼロトップも、スパレッティがローマでフランチェスコ・トッティを最前線に置いたことが起源で、そこから世界に発信された。

 そのトッティとのちに衝突するなど、周囲が全て味方かといえばそうではない。それでも、ゼロトップ発案や、ラジャ・ナインゴランやシモーネ・ペロッタを一列前に上げて全く別のクオリティの選手に引き上げたのもスパレッティ。ただの頑固者ではなく、時代に合わせてかわるサッカーの中で進化を遂げていくタイプの監督だ。試合中の細かい修正力にも長けているだけに、「監督についていけばなんとかなる」という気持ちをクラブ全体が持てれば、大きな成功に届くかもしれない。

 レアル・マドリードを率いるカルロ・アンチェロッティ監督は、上記の3人に比べると、キャリアの初期から成功を収めたといえる。選手時代にローマやミランでプレイし、イタリア代表でも活躍したため、指導者としての下積みは短かった。そんな彼は、素材の味を最大限に活かす老舗料亭の板前のようだ。

 そのため、基本システムも素材に合わせる。今季のレアル・マドリードでは、[4-3-3]がベースだ。

 ミランでセリエAを1回、CLを2回制し、チェルシーではプレミアリーグを制覇。その後、パリ・サンジェルマンでリーグ・アン優勝を経験し、レアル・マドリード第1期でCL優勝。バイエルン・ミュンヘンではブンデスリーガ制覇と、行く先々で結果を残している。

 その一番の要因は、誰とでもうまくやれる特殊能力だ。選手から不満の声が挙がらないのはもちろん、フロントともうまくやる。

 アンチェロッティのミラン時代といえば、会長はイタリア元首相のシルヴィオ・ベルルスコーニ。現モンツァ会長は、好みのフォーメーションがあり、これを現場に実行させることでも知られていた。練りに練って決めた戦術が会長の一言で変わるなど、現場の人間からしたら心底腹が立ってもおかしくない。それでも、アンチェロッティは上の命令を受け入れながら、それを結果に結びつけたことで、長期政権を築いた。

 それは今季のレアル・マドリードでも同じこと。元々のセンターバック不足やケガ人の影響で、メンバーは限られているが、その中で最適解をみつけようと模索している。3トップ採用には、エデン・アザールとガレス・ベイルの復活に期待する意味も含まれていたと思われるが、こちらはいまのところさっぱり。それでも、ヴィニシウス・ジュニオールがエースのカリム・ベンゼマに次ぐ9ゴールを挙げており期待の若手が爆発している。守備面ではダビド・アラバの個の力が最大限に発揮されている印象だ。

 加えて、息子のダビデ・アンチェロッティをチームスタッフに起用していることにも触れておきたい。ダビデは2012年に父がパリ・サンジェルマンの指揮官に就任した際にフィットネスコーチとして指導者キャリアをスタートさせ、バイエルン、ナポリ、エヴァートンでは右腕としてアシスタントコーチを歴任している。スペイン『LA RAZON』によれば、32歳にしてエリートチームでの経験が豊富な彼は、得意とする言語面でチームをサポート。多国籍な選手・スタッフたちとのつなぎ役として現場のコミュニケーションを円滑にし、父が監督の仕事に専念できる環境を作り出している。チームはリーグトップの28得点(第12節終了時点)を叩き出すなど好調で、父子鷹で経営する“料亭アンチェロッティ”は、その評判をさらに高める気配だ。

 どの監督も一流であることは間違いないが、そこへ至るアプローチは様々。皆さんは、どの料理人の味がお好みだろうか。

文/伊藤 敬佑

※電子マガジンtheWORLD263号、11月15日配信の記事より転載