これは因縁の対決ともいえる。リヴァプールとレアル・マドリードの決勝は2017-18シーズンの再現で、当時は3-1でレアルが勝利している。しかしモハメド・サラーがセルヒオ・ラモスと交錯した際に負傷し、リヴァプールは大一番でエースを失うというアクシデントに見舞われた。これがなければという思いがあるはずで、サラーは「対戦を望んでいた」と闘争心をあらわにした。
 一方、レアルは勝利すれば前人未到の14度目の優勝(チャンピオンズカップ時代含む)。チェルシーやマンチェスター・シティをことごとく逆転劇で破ってきた勢いは本物で、近年存在感を増すプレミア勢に対し、最多優勝クラブのプライドを示すかのような戦いを続けて決勝までやってきた。
 どちらにも負けられない理由がある。そんな決勝カードが実現した。

 おそらく戦術的なポイントは前回と同じだろう。リヴァプールのハイプレスに対して、レアルがそれをいかに外すか。4年前、レアルはルカ・モドリッチ、マルセロ、トニ・クロース、イスコを中心に「ロンド」でリヴァプールのハイプレスをいなした。奪えるはずのボールを奪えないリヴァプールは終盤に足が止まってガレス・ベイルに2ゴールを決められている。

 先発予想メンバーからすると、注目のマッチアップはヴィニシウス・ジュニオール対トレント・アレクサンダー・アーノルド、ルイス・ディアス対ダニエル・カルバハルだが、これも試合の流れがどちらに傾くかによって変わってくるだろう。

 リヴァプールの得意な攻め込みの形として、フィルジル・ファン・ダイクからモハメド・サラーへの対角のロングパスがある。そこからサラー&マネのコンビネーションで一気にゴールへ迫る。相手にパスをカットされた場合は、すかさずハイプレスをかけて高い位置で奪い波状攻撃へ移る。そうなったら完全にリヴァプールのペースだ。

 4年前、リヴァプールのハイプレスを巧みなパスワークで回避したのがレアルの勝因だった。そのときに貢献度の高かったマルセロはおそらくベンチスタートになるが、フェルランド・メンディ、ヴィニシウス、クロース、モドリッチ、さらにカバーリングのダビド・アラバの5人がボールのあるエリアに入るのに対して、リヴァプールはサラー、ジョーダン・ヘンダーソン、A・アーノルドの3人。準決勝でマンチェスター・シティのハイプレスを外し続けたレアルは、リヴァプールに対しても自信を持って臨むだろう(図1)。

 ハイプレスを外せば、ヴィニシウス対A・アーノルドのマッチアップがカギになるが、スピードでヴィニシウスのほうが優勢になると予想する。

 しかし、今回のリヴァプールには前回と違ってチアゴがいる。左サイドの深くまで引いてボールを預かるチアゴを中心とした組み立ては新たな攻撃ルートとなっている。こちらのサイドはチアゴ・アルカンタラ、ルイス・ディアス、アンドリュー・ロバートソンに対してレアルはフェデリコ・バルベルデとカルバハルとなり一時的にしても数的劣勢が予想される。

 リヴァプールが左サイドで押し込んだときには、チアゴから逆の外へロングパスを通し、それをサラーないしA・アーノルドが受けて、すかさずゴール前へ折り返すアプローチを得意としている。高速サイドチェンジをワンタッチで折り返すことも多く、これをやられると守備側は目が追いつかない。起点となるチアゴをどうするかはレアルの課題になる(図2)。

 リヴァプールはテンポの早い攻守が持ち味ではあるが、ここ数年はビルドアップにも熟成をみせている。チアゴ獲得もその流れでの補強だが、A・アーノルドも右SBの領域を超えてプレイメイカーとして機能している。リヴァプールがボールを支配する展開になれば、ヴィニシウスはA・アーノルドのマークに忙殺されるだろう。どちらが主導権を握るかで双方の武器が生きるか制約されるかが決まってくる。

 レアルの攻め込みはヴィニシウスのスピードを利したカウンターアタックに威力があるが、パスワークでも独特の形を使っている。

 基本フォーメーションは[4-3-3]だが、実質的にはモドリッチをトップ下とした[4-2-3-1]であり、しかもモドリッチは左のハーフスペースを中心に動き、右ウイングのバルベルデが中へ入る。右の大外にはカルバハルが上がってくる(図3)。

 左サイドをクロース、メンディ、ヴィニシウス、モドリッチで制圧し、ヘンダーソンを釣りだし、さらに中央からファビーニョを引っ張り込むことで、中央にベンゼマ、バルベルデのためのスペースを空ける。打開できなければクロースのサイドチェンジでカルバハルへつなぎ、ハイクロスをベンゼマが狙う。

 準決勝のシティに対して有効だったこのメカニズムは、リヴァプールに対しても使われるだろう。ここでもレアルの「ロンド」に対してのリヴァプールの「プレッシング」が流れを決めることになる。

 一方、守備のときのレアルはモドリッチとベンゼマをトップにした[4-4-2]の形でセットする。モドリッチは主にファビーニョをマークし、中央の左をクロース、右をカゼミロが埋める。マンチェスター・シティはベルナルド・シルバが下りてきてパスの中継点となり、クロースまたはカゼミロを引っ張り出して、ケビン・デ・ブライネにスペースを提供していた。リヴァプールではチアゴがその役割を果たすだろう。ただし、リヴァプールには中央のスペースを使えるデ・ブライネに相当するMFがいない。となると、左サイドへの展開が多くなり、ルイス・ディアスとカルバハルの1対1が焦点になりそうだ。ディアスは強引なドリブルからチャンスをつくる形を今季何度か見せており、スリリングなマッチアップが期待できる。

 リヴァプールは、レアルの中盤のスタミナという弱点を突きたい。中盤のエンジンであるモドリッチ、クロース、カゼミロは変わっておらず、極めて重要なパーツであるにもかかわらず90分間強度を保つのが難しい。

 ただ、カルロ・アンチェロッティ監督はその弱点を補う交代策を用意している。カゼミロとクロースを兼ねたようなエドゥアルド・カマヴィンガ、無尽蔵のスタミナでウイングからボランチへ移動してもなお仕事ができるバルベルデがいる。バルベルデの移動とともに、決勝進出の立役者となったロドリゴが右ウイングで登場。さらにマルコ・アセンシオがモドリッチの役割を引き継ぐ。

 モドリッチ、クロース、カゼミロのトリオに比べるとアイデアや精度は落ちるかもしれないが、アセンシオ、バルベルデ、カマヴィンガはフィジカル面で強く、レアルがリードしている状況なら有効な交代策になる。シティ戦第2レグの大逆転は説明が難しいが、交代策でエネルギーを低下させなかったのは1つの要因だろう。交代策で生まれた勢いを活かし、逆転勝利を収め続けてきたのが今季のレアルだ。

 リヴァプールにはレアルほど明確なギアチェンジのできる交代策がない。ルイス・ディアスとディオゴ・ジョタ、MFにジェイムズ・ミルナーやナビ・ケイタを投入することはできてもパーツ交換の域を出ない。終盤までもつれる、あるいはレアルのリードで推移した場合は交代策が定番化しているレアルが有利かもしれない。

 ただし、シティ戦ではロドリゴの2ゴールで追いついたが、強引な力攻めが結果に結びついただけで、若手中心のレアルはそれまで実はあまり攻め手はなかった。フィジカルは強いので構えて守るのには向いているしカウンターも打てるが、モドリッチとクロースを欠くと必然的に構成力は落ちるのだ。レアルがリードされている状況で交代を打っても、サンティアゴ・ベルナベウでの試合ほど効果は期待できないだろう。

 レアルが全盛期の力を何とか保持しつつ世代交代を図っている時期なのに対して、リヴァプールはまさにピークだ。その意味では今回の決勝は是非とも結果を出したいところだろう。来季以降はサラー、マネの代役を探していくことになり、現在のレアルと同様サイクルの終わりに向かう。4年前との比較では、明らかに今回はリヴァプールに分があるはずなのだ。GKにアリソン・ベッカー、チアゴがフィットし、ヘンダーソンも健在。ジョタ、ルイス・ディアスも台頭している。熟成したリヴァプールにとって、まさに今回はリベンジの絶好機だ。

 リヴァプールはサラーとマネのコンビで、レアルのエースはベンゼマ。どちらも絶対的な存在である。双方のエースを完封するのは難しい。彼らの一瞬の技術やヒラメキが勝敗を決する可能性は大いにある。一方で、ワールドクラスのGKであるクルトワとアリソンがいかにそれを防ぐかの争いでもあるわけだ。

 リヴァプールのプレッシングとレアルのロンド。どちらが優位かで流れは決まるが、試合を決めるのは一瞬のディテールである。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)269号、5月15日配信の記事より転載