今季、欧州の舞台ではイタリア勢の躍進が目立っている。CLでは18年ぶりのミラノダービーが行われただけでなく、準々決勝ではミランとナポリが激突。ELではユヴェントスとローマが4強入りし、ECLではフィオレンティーナも4強へ進出している。長年、欧州で苦杯をなめてきたイタリア勢。昨年はECLの初代王者にローマが輝いたが、今季はその他のコンペティションでもイタリアのクラブが大きな存在感を放っている。

 イタリア国内でもナポリが33年ぶりの優勝。しかもぶっちぎりの戦績と、イタリアでは間違いなく地殻変動が起こっている。欧州の勢力図は、イタリア勢の逆襲により、ふたたび変革の季節を迎えようとしているのだ。

 前回ナポリがスクデットを獲得したのは1989-90で、チームの中心にはディエゴ・マラドーナがいた。それ以来の優勝となったが、シーズン前はよくても上位戦線を掻きまわすかもしれないダークホースとして名前があげられる程度だった。ルチアーノ・スパレッティの監督就任1年だった昨季は3位だったが、ロレンツォ・インシーニェ、ドリース・メルテンス、カリドゥ・クリバリなどが退団しており、優勝候補として◎がつく存在ではなかった。

 それが、いざシーズンがはじまるとキム・ミンジェ、マティアス・オリベラ、クヴィチャ・クワラツヘリアといった新加入選手がすぐにフィットし、セリエAで11連勝を含む15試合負けなしを達成した。CLではリヴァプールとのホームゲームに4-1で快勝するなど序盤から好調を維持し、GSを5勝1敗20得点6失点という安定感ある戦いで首位通過。さらに、ラウンド16でフランクフルトを2試合トータル5-0で下して8強入りを果たした。

 スパレッティが志向するのは現代サッカーの主流であるインテンシティが高く縦に早いサッカーで、ナポリはスピード、力強さを併せ持った各選手が共通意識のもと連動性ある攻撃をみせる。基本布陣は[4-3-3]で、アミル・ラフマニ、キム・ミンジェの両CBはともに身長190センチ超えで屈強な身体を持ち、空中戦を含めた1対1に強くてカバーするエリアも広い。そのため、両サイドのジョバンニ・ディ・ロレンツォ、オリベラ、マリオ・ルイも思い切った攻撃参加ができる。

 中盤ではアンカーのスタニスラフ・ロボツカ、インサイドハーフのアンドレ・フランク・ザンボ・アンギサ、ピオトル・ジエリンスキ(エリフ・エルマス)が抜群の距離感でお互いをサポートし、ボール奪取からの素早い攻撃を実現している。ロボツカの前方に仕掛ける積極的な守備など、いずれも前への推進力があり、ナポリは選手の意識が一度縦に向くと、波のように後方から押し寄せてくる印象がある。

 加えて、前線にボールが収まるヴィクター・オシムヘン、巧みなボールタッチで左サイドからえぐって得点にからむクワラツヘリアなどがいる。オシムヘンのスピード&パワー、クワラツヘリアのゴールにつながるドリブル。これらの武器を擁するナポリの攻撃力は圧倒的で、5節を残してセリエA優勝を決めている。そして、スクデット獲得&CL8強入りに貢献したラフマニはコソボ代表、キム・ミンジェは韓国代表、クワラツヘリアはジョージア代表である。選手を見抜くスカウティング能力もナポリは高く評価されている。

「われわれはアメリカ人、韓国人、日本人のカンピオーネをあちこちで探している」

 これは、イタリア紙『Il mattino』に掲載されたアウレリオ・デ・ラウレンティス会長の言葉だ。勢いに乗るナポリで日本人選手がプレイする日も近いかもしれない。

勝負強さが出てきたミラン 16シーズンぶりの欧州制覇へ

 CLでミラノダービーが行われるのは、2004-05の準々決勝以来だ。それ以前の2002-03の準決勝でも行われており、いずれもミランが勝利している。ちなみに、2002-03の決勝はユヴェントス×ミランというカードでミランが優勝している。今季CLでもミランは準々決勝でナポリに1-0(H)、1-1(A)で競り勝っている。ミランはCLでのイタリア勢との対決を得意としており、この相性でいくとミランが有利だが、ミランのホームゲームだった第一戦は0-2に終わっている。

 昨季にセリエAを制したミランだが、今季は年明けに3連敗を含む5試合勝ちなしがあるなど勝点の上積みに苦しみ、第34節終了時点ではCL出場権獲得圏内(4位)からはじき出されている。しかし、就任4年目を迎えたステファノ・ピオリのもと経験を積んできた“若かった”選手たちが主力となり、CLで16シーズンぶりの4強入りとなった。

 左サイドを掌握するテオ・エルナンデス、左利きの司令塔であるイスマエル・ベナセル、運動量が多くボールを運べるアレクシス・サレマーカーズ、そしてスピードスターのラファエル・レオン。いずれも、指揮官と同じ4年前に加入して成長を遂げてきた選手である。

 さらに、加入3年目のサンドロ・トナーリ、フィカヨ・トモリ、ピエール・カルル。こうした選手たちが主力となり、各選手が連動することでハイラインかつアグレッシブなサッカーを機能させている。

 各選手が年齢を重ね、厳しい試合を経験してきたことでいまのミランは粘り強さ、勝負強さもある。CL準々決勝のナポリとの第2戦はアウェイゲームで、積極的に攻めてくる相手に押し込まれた。それでも、堅守でゴールを許さず、前半終了間際にレオンがチャンスを作り、オリヴィエ・ジルーがフィニッシュして先制点を奪った。第1戦に1-0で勝利していたミランにとって、この1点は大きな意味があった。

「いつもより少し低いポジションで守ることを選択した。犠牲を払ってでも、このラウンドを通過しようとしたんだ」(ピオリ監督)

 自分たちのカタチを持つうえで、勝負に徹した戦いもできる。若く勢いがあったミランは、それだけではないチームへと進化を遂げている。

 とはいえ、経験豊富な選手が多いインテルも抜群に勝負強い。今季はセリエAで第8節を終えて4勝4敗。CLではバイエルンに2敗するなどスロースタートとなったが、第9節から4連勝して順位をしっかりと整えはじめ、CLではバルセロナに1勝1分けと勝点を稼いでグループ2位でラウンド16に進出している。

 迎えたポルトとのラウンド16でもホームで戦った第1戦に終了間際のロメル・ルカクの決勝点で勝利し、まずは優位に。アウェイでの第2戦はボールを支配されて押し込まれる展開になったが、フランチェスコ・アチェルビ、マッテオ・ダルミアン、アレッサンドロ・パストーニというベテランと若手が融合した3バックでスタートし、5枚の交代枠のうち2枚を使ってダルミアン→ミラン・シュクリニアル、パストーニ→ステファン・デ・フライという交代を行い、守備の強度を保って0-0で終わらせている。

 準々決勝では勢いのあったベンフィカと対戦し、アウェイでの第1戦にまたもボールを支配されながらもニコロ・バレッラ、ルカクの得点で2-0と勝利してセーフティリードを持ってホームに帰還。第2戦では前に出てくる相手の裏を効果的に突き、78分を終えて3-1という展開に。その後に2点を返されて3-3で終えたが、勝ち上がりに影響はなかった。

 ルカク、ラウタロ・マルティネス、エディン・ジェコ、ホアキン・コレアがいる前線はどの組み合わせでも一定の質が保たれていて、ワンチャンスをモノにできる決定力がある。ハカン・チャルハノール、ヘンリク・ムヒタリアン、マルセロ・ブロゾビッチ、バレッラがいる中盤はインテンシティが高く、サイドではデンゼル・ダンフリース、フェデリコ・ディマルコなどがアップダウンを繰り返す。

 ポルト、ベンフィカとの戦いもそうだし、GSのバルセロナ戦もそうだったが、自分たちでボールを支配するよりも、相手に時間を与え、奪った瞬間に攻撃を仕掛けて仕留める得点パターンが目立つ。CLミラノダービーでも前半11分という早いタイミングでカウンターから2点目を決め、終始試合を優位に運んだ。3月から4月にかけてセリエAで5試合勝ちなしがあったが、シーズン終盤を迎えて4連勝、しかも14得点1失点と調子を上げている。

 ここ2年でセリエA、コッパ・イタリアを制しており、タイトル獲得の術を心得ている。インテルはしたたかに欧州王者を狙っている。

 2011-12からセリエAを9連覇したイタリア屈指の強豪であるユヴェントスは、コロナ禍の経営不振に応じた不正会計などの疑いでトリノ検察から調査を受け、今季一時はイタリアサッカー連盟(FIGC)から勝点15のはく奪処分を受けていた。しかし、イタリアオリンピック委員会(CONI)のスポーツ仲裁所へ上告した結果、暫定的に処分が取り消されることになった。これにより、ユヴェントスは第34節終了時点で2位となっている。

 欧州の舞台でも集中力を切らすことなく粘り強い戦いを続け、CLでは1勝5敗でラウンド16進出はならなかったが、戦いの場を移したELではフライブルクを2試合トータル3-0で下して準々決勝に進出し、スポルティングCPには2試合トータル2-1で競り勝って4強入りを果たしている。勝点15の没収が取り消される朗報はスポルティングCPとの第2戦が行われる日に入っており、マッシミリアーノ・アッレグリは「準決勝進出を決め、素晴らしい日になった。勝点15も戻ってきた。これからセリエA に集中していきたい。(CL 出場圏内の)4位以内になるためにも、復調していかなければならない」と言葉を残していた。そして、現在は2位となっている有言実行ぶりである。

 ELの4強にはユヴェントスとともに、昨季からジョゼ・モウリーニョが指揮官を務めるローマが勝ち上がっている。モウリーニョは就任1年目にECL優勝を果たし、今季はネマニャ・マティッチ、パウロ・ディバラ、アンドレア・ベロッティ、ジョルジニオ・ワイナルドゥム(ローン)など、良質な補強を行っていた。2年連続での欧州タイトル獲得となれば、さらなる戦力アップが行われるだろう。というか、選手ファーストのモウリーニョのもとで戦いたい選手は多いと考えられる。たとえEL制覇はならずとも、より戦力アップした編成で来季を迎えると予想できる。

 CLの4強にミランとインテル。ELの4強にはユヴェントスとローマが勝ち上がっている。ECLに関しても、フィオレンティーナが4強入りしている。すべての大会をイタリア勢が制覇することになれば、時代の趨勢は明らかである。大きなうねりが、欧州サッカー界に起きている。カルチョの国から吹く風が、確実に強くなっている。

 文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)281号、5月15日配信の記事より転載