かつてMFの花形であったのは「ファンタジスタ」と呼ばれる10番タイプの選手だった。しかし、華麗なテクニックで魅せる反面、守備の貢献度が低いファンタジスタたちは現代サッカーにおいてしだいに絶滅危惧種となっていく。

 現在、MFに求められるものは多い。テクニックはもちろんのこと、守備にも走れるスタミナや献身性が必要で、フィジカル・エリートであることも求められる。加えて、局面を読む戦術眼やそれを実現するプレイ精度を兼ね備えていなくてはならない。いわば“いろいろやれること”を求められるのが現代のMFだが、育成の賜物か、現在22歳以下の新世代MFにはそれらを当たり前のようにこなすプレイヤーが数多く存在しているのだ。

 もちろん選手によって得意とするところは違うが、マルチタスクをこなしたり、FW顔負けの得点力を備えていたりと、テクニックだけでなく他の強みをいくつも持っているのが新世代MFの大きな特長となっている。

 今最も勢いに乗っている若手MFは、間違いなくレアル・マドリードのジュード・ベリンガムだろう。

 2003年生まれの20歳で、2023年の若手版バロンドール「コパ・トロフィー」を受賞。今季からレアル・マドリードに移籍するや、攻守に渡ってチームを牽引する働きぶりをみせている。ベリンガムをトップ下に置く、現在では珍しいMFをダイヤモンド型に配するシステムもベリンガムの存在があってこそだ。

 キープ力、配球力、決定力に優れ、ゴール前でこぼれ球を押し込むストライカー的な嗅覚を持つ。MFながらラ・リーガ得点ランクのトップに立つほどで、たびたび決勝点をゲットする勝負強さが光るが、終盤にゴール前へ出ていけるスタミナと意欲が前提になっている。守備の貢献度も高く、トップ下からボランチへ下がってスペースを埋めることができる。シーズン途中からは左サイドハーフとして攻守のバランスをとるようになった。

 かつてのスターは「天才」ではあっても「万能」ではなかった。攻撃力は飛び抜けているが守備はできないケースは多く、逆に守備力が抜群なら攻撃は物足りないなど、すべての分野で抜きんでていたわけではなく、またその必要もなかった。

 サッカー史上で万能かつ天才と言われた選手は少なく、ディエゴ・マラドーナ、リオネル・メッシ、ジネディーヌ・ジダンは該当しない。フランツ・ベッケンバウアーは万能だったが、リベロというポジションの制約があった。おそらく唯一、万能で天才だったのはレアル・マドリードのレジェンドだったアルフレド・ディ・ステファノだろう。

 ベリンガムはその万能性でディ・ステファノとの比較さえされている。ディ・ステファノと比べるのはさすがに早すぎるが、10年後は本当に比較すべき存在になっているかもしれない。少なくともベリンガムと同じ年齢のディ・ステファノはまだそこまで万能ではなかった。この年齢でこれだけ完成された万能型は珍しいが、ちょうどこの世代からそれがデフォルトになっている感はある。ベリンガムはその代表格といえる。

 2003年生まれの逸材は他にもいる。バイエルン・ミュンヘンで存在感を放つジャマル・ムシアラも忘れてはいけない。

 長身にもかかわらず、狭いスペースに入っていくドリブルが武器。スピードはあるが、縦にぶっちぎるのではなく、横へ横へとかわしていく足に吸いつくような運び方に特徴がある。するすると侵入するドリブルは南米的で、ドイツにはあまりいない希少なタイプである。

 新世代らしくフィジカル・エリートでもあり、運動量や守備力も備えている。ベリンガムに万能性では一歩譲るが、チームのために貢献できるタイプで、何もないところから得点チャンスを生み出せる能力は独特だ。

 そして、オランダで結果を残したことでパリ・サンジェルマンに買い戻され、今季はライプツィヒへレンタル移籍しているシャビ・シモンズ、レヴァークーゼンのフロリアン・ヴィルツ、ユヴェントスのファビオ・ミレッティも2003年生まれの20歳である。

 シモンズは初のブンデスリーガ挑戦でもここまで4ゴール7アシストを記録し、欧州のトップリーグでもその実力が通用することを証明。ヴィルツも10番としてリーグ首位を走るチームを牽引し、ミレッティも再起を図るチームで貴重な存在となっている。

 ベリンガムらのひとつ上(2002年生まれ)には、レアル・マドリードでチームメイトのエドゥアルド・カマヴィンガがいる。

 こちらも21歳ながら攻守に優れた逸材で、SB、MF、ウイングと幅広くプレイできる。利き足の左足を相手の懐に差し入れるボール奪取が得意で、十代のころからフランスリーグで抜群のボール奪取力を示していた。柔らかいドリブルでの突破、正確なコントロールとパスもハイレベル。その万能性を使ってポジションを軽々と越境し、局面を一気に変えてしまう飛び道具的な使われ方もしている。

 ポジションの越境こそ万能型の真骨頂。カバーリングバックとプレイメイカーを兼任したベッケンバウアー、フィールドの縦軸を支配したディ・ステファノ。運動量は多くなかったが神出鬼没だったヨハン・クライフ。SBながらポジションがないかのような広範囲な動きで「偽SB」の元祖だったジュニオールもカマヴィンガのモデルになりそうだ。

 バルセロナのペドリはアンドレス・イニエスタの系譜を継ぐ技巧派で、フィジカル・エリートという感じではない。飄々としたプレイぶりは明らかに同僚のガビとは異なるタイプ。技巧とセンスが際立つという点では古典的なスターにも近い。しかし、その技術と戦術眼ゆえの万能性をもっていて、たとえばワイドの位置で起用することもできる。運動量も豊富だ。

 他に同い年の選手にはトッテナムのパプ・マタル・サールやリヴァプールのライアン・グラフェンベルフもいる。サールは出場機会を一気に増やしたことで着実に成長を遂げている。アンカーからインサイドハーフ、トップ下までさまざまなタスクをこなせる選手だ。

 グラフェンベルフも徐々に出場機会が増えていて、確実にチームにフィットしてきた。190cmの長身はリヴァプールの中盤では貴重で、高い技術や推進力も持ち合わせているため彼もまた多彩な仕事をこなすことができる。

 2001年生まれの久保建英は早くから「日本のメッシ」として注目されていたが、当時から「日本のダビド・シルバ」だと思っていた。メッシのスピードは久保にはない。しかし、細かいボールタッチで時間を早めることも遅らせることもできる。時間の操作ができる天才特有の資質を持つ点で、ダビド・シルバと共通していた。左利きで背格好も似ていて、サイドもセンターもできる。

 レアル・ソシエダに移籍すると、そのダビド・シルバとチームメイトになった。得たものは大きかったのではないか。ダビド・シルバが引退した今季は、攻撃の切り札になっている。右ウイングの久保はボールを持って前進すれば、ことごとく決定的なプレイに結びつけている。ゴールを直撃する姿勢が明確になり、ベリンガムを抑えて月間MVPに選出されたのも、はっきりと得点に直結するプレイのわかりやすさが大きいと思う。

 チャンスメイカー、ゴールゲッターとしての能力は高く、得点力という点において久保もまた万能性を備えている。日本人(男子)でバロンドールを狙うとすれば現状で最も可能性のある選手かもしれない。

 久保のマジョルカ時代の同僚で、今季からプレイするパリ・サンジェルマンで着実に出場機会を増やしているイ・ガンイン。そして、ブライトンで違いを見せつけ、英国史上最高額となる1億1500万ポンドの移籍金でチェルシーへ加入したモイセス・カイセド。同じくチェルシーのエンソ・フェルナンデスも2001年生まれ。この年も才能あふれる選手を多く輩出しているが、カイセドとE・フェルナンデスはボランチとしてコンビを組んでいることもあり、欧州屈指のユニットとしてもさらに注目を集めるかもしれない。

 また、これまで紹介してきた選手はいずれも20代だが、10代にも既に結果を残している選手はいる。その筆頭はバルセロナのガビだろう。

 ガビは小柄だが球際では闘志をむき出しにするファイター。一方で、シャビ・エルナンデスを思わせる俊敏な技巧派でもある。ベリンガム、カマヴィンガのようなフィジカル・エリートではないが、全身全霊を込めたプレイぶりは体格を補い、ガビの魅力にもなっている。短気をコントロールできるようになれば、より飛躍していくだろう。

 パワーやリーチでベリンガムやカマヴィンガには劣るものの、クイックネスという武器がガビにはある。初速の速さはサッカーでより決定的であり、歴代スーパースターの共通点でもある。新世代的な攻守のスペックの高さと古典的な速さと技巧を併せ持ち、ガビもやはり万能性がある。

 これだけ見てもわかるとおり、やはり現在のU-22MFはさまざまな才能を兼ね備えた選手たちの宝庫だ。


文/西部 謙司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)287号、11月15日配信の記事より転載