夏になると食べたくなる「手延べそうめん」。熟成させながら3.6メートルまで伸ばし、モチモチしてコシがある美味しいそうめんを作る愛知県安城市の製麺所「間杉(ますぎ)手延製麺所」は、地域に200年以上受け継がれた製法を守り続けている。

■美味しさの秘密は“日本一”の長さ…江戸時代から続く伝統の手延べ製法

 愛知県安城市和泉地区。江戸時代中頃から農家の副業として始まった「手延べそうめん」作りが盛んなこの地に、昭和49年(1974年)創業の「間杉手延製麺所」がある。家族で営む製麺所だ。

作っているのは「ひやむぎ」や「うどん」。

そして看板商品の「和泉手延長そうめん」(1袋360グラム750円)。 作るのは間杉秀昭さん(77)。

伸ばせば伸ばすほどモチっとしたコシが生まれて美味しくなるからと、日本一の長さ3.6メートルにもなった半生麺で、全国から注文が入る逸品だ。

間杉さん: 「昔は高台であまり水の便が良くなくて、米をとるというよりも小麦を(生産した)。多い時は70軒近く製麺所があったって聞いています。今は7軒かな。その中でも昔ながらのものを作っているのは、4軒か5軒」

■独特のモチモチ食感とコシを生み出す秘訣は繰り返される「熟成」

 江戸時代中頃、農家の副業として始まった「手延べそうめん」作り。午前4時から始まる、昔ながらの製法を見せてもらった。まずは小麦粉と塩水を合わせ、生地を練る。力のいるこの作業は、長男の宗臣さんが担当。

間杉さん: 「暑い時とか、雨のたくさん降る時とか、その日によって塩加減も違うし練りの硬さも変えていく。今日みたいに暑いと辛く(塩を多く)して伸びを抑える感じ」

生地はとても繊細なため、日々変わる気温や湿度に合わせ、水や塩の量、練り具合を見極める。練り終えるとしばらく寝かせ、熟成させる。

続いて、生地を足で踏み、弾力を引き出し…。

再び寝かせたのち、生地を機械に通して一本の太いヒモ状にする。この時、乾燥を防ぐため表面に植物油をつけながら、桶に入れていく。

そして、ここでも生地を寝かせ、熟成させる。 間杉さん: 「伸ばすことによってコシの強さが出る。その日の麺の伸び具合を見ながら熟成させるもんで。昨日と今日じゃ、今日の方がちょっと暑いから、熟成時間はちょこっと短めになる」 気温が高いほど生地は伸びやすくなるため、この日の熟成時間は短め。

続いて、小指大の太さまで伸ばし、また熟成。

竹の棒に生地を8の字にかけ、再び熟成…。

手間はかかるが、独特のモチモチ食感とコシを生み出す秘訣はこの熟成にある。棒にかけた生地を30センチほどに伸ばし、「休め箱(やすめばこ)」という大きな箱の中へ。 間杉さん: 「板張りの箱に水を打って乾きを抑える。麺を入れて休ませ熟成させる」

ここで6回目の熟成、1時間ほど休ませる。

■「この程度の事ならできるだろう」と始めて“50年” 今でも変わらぬ思い

 27歳で結婚した間杉さん。妻・ミチ子さんの親戚が製麺所を営んでいて、そこで初めて「和泉そうめん」の存在を知った。

間杉さん: 「変わったものがあるんだなって程度で…。『やる気があるなら教えてやる』って言われて、最初に見に行った時はこの程度の事ならできるだろうと。だけどいざ始めてみると、なかなか難しかった。始めたからには何とかものにしていかないかんってこと」 3年の修業を積み独立。麺づくりの奥深さと向き合い続け、2022年で50年になった。

間杉さんには、50年間変わらぬ思いがある。 間杉さん: 「今でも毎日伸ばしているけども、いかにお客さんが喜んでもらえるようなものを作れるかってことを思いながらやっています」

■いつまでもおいしいと思ってもらえるよう「無理せず麺と話し合うように」

 間杉さん一家の「手延べそうめん」作りも、いよいよ佳境へ。長女の升結(まゆ)さんが、「休め箱」から生地を取り出し、両手足を使って約180センチに伸ばして別の「休め箱」へ。最後の、7回目の熟成だ。

升結さん: 「いま伸ばしただけですぐ外へ出すと、全部切れちゃうんです。ゴムみたいな張りがあるので」

間杉さん: 「いっぺんには伸びない。小麦粉の成分の中にグルテンというのがありまして、グルテンが伸ばすことによって均一に繋がるって感じかな」

「グルテン」は麺の「コシ」になる。徐々に伸ばしては熟成を繰り返すことで、より細く長く伸び、よりおいしくなる。 最後の熟成具合を確認すると、いよいよ手で3.6メートルまで伸ばす。

まず、穴の開いた板に竹の先端を差し込み、軽く伸ばして麺の弾力を確認したあと、麺の間に竹の棒を入れ、張りついた麺をはがす。さらに上から押すようにして麺を伸ばす。

一気に伸ばすと切れてしまうため、いったん置いて次の麺へ。 間杉さん: 「無理をすれば切れます。無理をせずに麺と話し合いみたいな感じで、伸ばすというより撫でる感じですね」

細くなった麺は乾いて伸びにくくなる。素早く、かつ丁寧に。

3回に分けて伸ばし、よりモチモチとした強いコシを生みだすが、力加減は手に伝わる感触だけで見極める。 間杉さん: 「生き物みたいなもので。日によっても伸び具合が違う。それを、手の感触で感じながら、いつも同じような状態に伸ばす。もっと短くすれば簡単にたくさんできると思うけど、それでは和泉のそうめんのおいしさがでないです。伝統の製法を始めたからには、いつまでもおいしいと思ってもらえるようにと思って」

長さ3.6メートル、太さは1ミリ。日本一長く伸ばした麺は、吊り下げた状態で乾燥させる。

さらに、もうひと手間。水を霧状にして湿度を上げた部屋で、乾燥した麺に再び水分を与える。 間杉さん: 「和泉に昔から伝わる、“半生もどし”って言うんだけど。いったん乾燥させたものを戻すことによって、舌触りが滑らかになるし、食感も柔らかくなる」

昔ながらの「半生もどし」で、ツルっとした喉越しを引き出せば完成。 間杉さん: 「手で触ってちょうどこのくらいが、いつも通りのいい出来です」

■製法を伝え後世の人にも「うまい」と思ってもらえるように

 間杉さん一家の手仕事によって生み出された、「和泉手延長そうめん」。独特のモチモチ感と、ツルツルの喉越し。200年以上守り継がれた伝統の味はこの時期、お中元の品としても人気の逸品だ。

間杉さん: 「200年近く続いている製法の品物を後世に伝えていって、後世の人もうまいそうめんだなと思ってもらえるのが一番だなと思っています」

 商品は愛知県安城市の直営店「間杉手延製麺所」内の直売店で販売しているほか、店のHPからも購入することができる(4袋入り3000円〜)。