フワフワの綿菓子の下に、旬の桃をたっぷりつかったケーキ。そして世界一に輝いた技で仕上げた氷の彫刻。名古屋市中区に洋菓子店を構えるパティシエが熟練の技で作り上げた。「見て」「味わって」楽しめる、そのテシゴトに迫った。

■スイーツ好きも唸る…「アイス職人=グラシエ」が技を振るう人気店

 4年前にオープンした名古屋市中区丸の内の洋菓子店「グラシエ イクス」は、スイーツ好きを唸らせる名店として人気を集めている。

ショーケースには、宝石のように美しい色とりどりのケーキ。桃やマスカット、イチジクにメロンといった、旬の果物を使った期間限定品も並んでいる。

女性客: 「毎週、春日井から。毎回、アイスケーキはいただいて…。どれも全ておいしくて」 看板商品は、アイスケーキ。

店名の「グラシエ」とは、フランス語で「アイス職人」という意味で、「グラシエ」の存在を世に広めたいという思いが込められている。

 スイーツを作るのは、松島義典(まつしまよしのり・59)さん。洋菓子世界大会の日本代表コーチを務める腕利きだ。

オーナーシェフの松島義典さん: 「見て楽しんで、香りを楽しんで、食べて楽しんで。手間暇かけるからこそ、美味しいものができるんだっていう事を知って欲しい」 松島さんは「氷彫刻」で世界1位に輝いた腕前の持ち主でもある。店内には、松島さんが2か月ごとに制作する新作の彫刻が飾られている。

松島さん: 「氷(彫刻)は透明だからこそごまかしが利かない。同じものは二度とできない。手で作るというのは、熟練してつかまないことには、真似だけでは絶対にできない」 見た目、香り、味、全てに秀でたスイーツを生み出すのは、手間暇を惜しまない松島さんの手仕事。ベテランならではの技術で、唯一無二の逸品を作り上げる。

■華やかではないが一番大事…匠の経験が生きる「手作業」でしか作れないスポンジケーキ

 この日、イートイン専用デザート「アシェット・モモコサン」を試作する様子を見せてもらった。まずは、スポンジケーキ作りから。卵黄にグラニュー糖、黒糖、和三盆糖を入れ、コク深い甘さを引き出し、「隠し味」としてハチミツも入れる。 湯煎しながらかき混ぜ、砂糖を溶かしてミキサーにかけ、生地がきめ細かくやわらかく仕上がるよう、たっぷりと空気を抱かせる。

ここに小麦粉を合わせるが、ポイントは必ず手作業でかき混ぜることだ。 松島さん: 「これをミキサーでやったら、せっかくきれいに細かい泡が立ったやつが全部死んでしまうから、切り合わせる」

さらに、溶かした無塩バターを加え、ここでも気泡が無くならないよう切るように合わせる。あとはどこまで混ぜるか、そのタイミングを見極めるのは匠の“経験”だ。 松島さん: 「どのタイミングっていうのは経験で(見極める)。硬さ見た目の艶。(スポンジケーキ作りは)全然華やかではないけど、一番大事にしないとダメなところ。すべてが変わってくる」 スポンジケーキはシンプルながら奥が深い。作り方で味や食感が大きく変わるという。 170度のオーブンで約20分焼くと…。

松島さん: 「いい感じ」

■名古屋に2台しかない最新マシンで作るふっくら滑らかなアイス

 続いて、卵白と粉糖にフランボワーズパウダーを混ぜて「メレンゲ」を作り、2センチほどに絞る。

松島さん: 「メレンゲだけだと味気ないので、甘味の中にしっかりと酸味を。桃とフランボワーズっていうのは、すごく相性がいいので」 90度の低温で焼き、しっかりと乾燥させる。

松島さん: 「これを桃とかとあえて、食感を楽しむ。硬いわけではない、ふわっと消えていくような」  そしてアイスクリーム作りだ。牛乳、生クリーム、卵黄に、バニラビーンズと合わせてバニラアイスの素を作る。

これをイタリア製の最新ジェラートマシンに注ぎ入れる。この機械は名古屋に2台しかないそうで、わずか8分でほどよく空気を含み、ふっくら滑らかなアイスが作れる優れものだ。

松島さん: 「氷結晶の細かさ、滑らかさが食感、旨味になったり…」 材料選びやレシピだけでなく、機械を使いこなすのも職人の技量だ。

■この夏限定の桃のデザート「どうやったら美味しく、面白く、ビックリするか」

 各地から厳選した、主役の桃。この日は山梨県産を使う。皮をむくと、みずみずしい果肉が姿を現す。

丸くくりぬいたスポンジケーキの上に、生クリームと桃を何層にも重ねる。その周りにたっぷりと桃を敷きつめ、桃と相性が良いというフランボワーズのソースと、バニラベースのソースで味を際立たせる。

先ほどのフランボワーズのメレンゲを飾り付け、心地よい食感をプラス。

さらに、自慢のバニラアイスと、ピスタチオアイスをトッピング。

松島さん: 「めちゃめちゃうまそうやん!よし、綿菓子」  これだけでも十分に絶品のスイーツだが、松島さんはもう一つの極め付き「綿菓子」を作り始めた。綿菓子は、風味付けにバニラペーストを加える。

松島さん: 「出てきた出てきた、想像でできあがっているから。アシェットデセール」 「アシェットデセール」とは、コース料理の最後に出てくる「皿盛りデザート」の事。でき立てを味わえるのがその魅力で、作り手の高い技術と発想力が求められる。

綿菓子をのせ、松島さんの夏の手仕事「アシェット・モモコサン」(1皿3000円)が完成。

雲に見立てた「綿菓子」の下には、美しくおいしい世界が広がる。極上の桃と、ふんわりとろける自慢のスポンジケーキ。そして、上には2種類のアイス。ここでしか食べられないこの夏限定のひと皿だ。

試食した店のスタッフは…。 店のスタッフ: 「バニラの香りがよくて、生地もしっとり馴染んでておいしいです」 別の店のスタッフ: 「桃が旬なので、季節を感じるデザートだなと思います」 松島さん: 「どうやったら美味しく、どうやったら面白く、どうやったらビックリするか考えるのも楽しいんで…。我々の仕事って一生やからね」

■レシピがあればできるものではない…練習を重ねて得られる技術「氷彫刻」

「人を楽しませたい」とこの道に進み、技術の向上に励み続けた松島さん。2003年には、洋菓子の世界大会「クープ・デュ・モンド」に出場し、氷彫刻の個人部門で世界1位に輝いた。

原点であり、ライフワークでもある氷彫刻。今回は、その技も披露してくれた。製氷会社から届いた大きな氷のブロックを使う。

松島さん: 「(氷のサイズが)これくらいならね、何となくで彫れる」 「鳳凰(ほうおう)」を彫るというが、設計図は松島さんの頭の中。

まずは胴体部分の下絵を刻み、輪郭を粗削りしていく。パーツとして切り出しておいた頭や翼も同様に削り、胴体と繋げる。

夏場はみるみる氷が溶けるので、正確さはもちろん、スピードも重要だ。翼を繋げれば、30分ほどであっという間に鳳凰の輪郭が…。

松島さん: 「フランスのグラシエ(アイス職人)は絶対に氷が彫れないといけない。こういうのって、レシピがあるからできますじゃないの。何回も練習してやっとできるもんやから。こういうの(技術)も伝えていかなあかんしね」  松島さんのもう一つの夏の手仕事、氷彫刻「鳳凰」。光り輝く透明感と緻密な造形美が、観る人に癒しと涼やかさを届ける。

松島さん: 「今日やったやつより明日のほうがいいし、明日やったやつよりその次のほうが絶対いいのわかってんねんから。1回できたから『もういい』っていうわけじゃない。好きじゃないと、こんなんやってられへんもんね」