てりカツ丼からしょうゆカツ丼まで…岐阜県東濃地方で進化を遂げた『個性派カツ丼』その知られざる歴史と理由

 カツ丼といえば卵とじが定番だが、名古屋の味噌カツ丼など「ご当地カツ丼」も知られている。岐阜県の東濃地方にもバラエティー豊かな個性的なカツ丼が存在し、それぞれが地域に根付いた「名物メニュー」になっているという。その実態と理由を調査した。

■卵がない…土岐市は濃いめのタレの「てりかつ丼」 腹持ちよく「時間が経ってもおいしい」

 岐阜県土岐市のカツ丼の人気店「旭家食堂」。

名物の「かつ丼」(790円)は、卵がない。 アナウンサー: 「この上にかかっているものは何ですか」 旭家食堂の女将: 「自家製のタレというか、ソースとケチャップとかを(合わせた)」

ごはんの上にキャベツ、カツを乗せ、ウスターソースやケチャップなどを配合した濃い目の自家製ダレがかかっている。

半世紀以上の歴史があるという通称「てりかつ丼」だ。

味は甘辛く、絶妙なマイルド加減。ソースとカツとライスの相性が抜群だ。

旭家食堂の女将: 「今はないけど、レストランがあって、そこのカツ丼がおいしかったもんでね。そこのカツ丼を、マネしたようなもんやね。それがのちに大ヒットするわけ」 地元のレストランにあったカツ丼からヒントを得て作り、のちに大ヒット。

しかしなぜ、この独特なスタイルのカツ丼が土岐市で生まれたのか。 旭家食堂の女将: 「(土岐市は)陶器処やで、熱いところで仕事したり重いものを持ったするので、腹持ちがよく、ある程度ボリュームがあってね…濃いめ、味が」  日本一の陶磁器生産量を誇る土岐市。焼き物は力仕事で火も扱うため、スタミナが必要だ。そのため腹持ちがよく、味の濃いタレがからむこのカツ丼が受け入れられたのではないかという。

旭家食堂の女将: 「昔の話だけど、出前が来るわ、来るわ、来るわでね、ものすっごく忙しくてね。(出前で)時間が経っても、1時間2時間おいて食べてもおいしくいただけるという話は聞くよ」 卵でとじる通常タイプのカツ丼は、時間の経過とともにごはんにタレがしみこみ、ベトっとしてしまう欠点があるが、てりかつ丼はタレにとろみがあるためその心配がなく、冷めてもおいしいことから人気が定着したという。

「出前」向きのスタイルだった。

■瑞浪市は黄金色の「あんかけかつ丼」 貴重な卵をたっぷりに見せたい80年前の着想から

 土岐市の隣、瑞浪市。「加登屋(かどや)食堂」は「あんかけかつ丼」が名物だという。

現れたのは、なみなみの餡にカツに覆われた、黄金色のカツ丼。

このあんかけかつ丼の特徴は、名前の通りたまごやダシをベースにとろみをつけた特製あんだ。

サクサクのカツを覆うようにかければ、瑞浪名物「あんかけカツ丼」(850円)の完成。

アツアツで、とろっとしたあんがカツにからむ。

加登屋の女将: 「黄金色で、見栄えよく作ったように見えるんですけど、卵が貴重だった時に少しの卵で卵感のあるカツ丼を作りたいって(あんで卵を)のばしたのがきっかけです」 女将によると、このあんかけカツ丼には80年以上の歴史があり、先々代が卵の貴重な時代に少ない量の卵で提供できるカツ丼を、と考えついたという。

なぜ瑞浪の名物になるほどこのスタイルが愛されたのか。 加登屋の女将: 「今ってウーバーイーツとかおしゃれなことを言うんですけど、昔は出前と言っていたんですよ。力仕事の方に、結構定番でずっと食べていただいていて、どれだけ時間が経っても冷めないというのと、(あんで包まれているため)ご飯に汁が染みこまないんですよ。だからご飯がべちゃべちゃになることがなくて」 瑞浪もたしかに陶器の街。力仕事に向いたスタミナメニューであるのと同時に、あんかけにすることで熱を閉じ込め、時間がたってもアツアツで食べられる、出前にぴったりだったというのが定着した理由ではないかという。

土岐市のてりカツ丼と同じ理由だった。

■恵那市はカツ丼に「目玉焼き」…半熟の黄身をトロリと崩して

 今度は瑞浪市の隣の恵那市に。陶器のまちというイメージはないが…。

取材させてもらった「野内(のうち)」では、また別のタイプのかつ丼が登場した。 野内の店主: 「お待たせしました。これがうちのカツ丼です」 アナウンサー: 「卵とじのカツ丼というより、卵が目玉焼きのような…まん丸になって、そのまま乗って…」 野内の「かつ丼」(930円)。

地元・山岡町の有精卵をダシの上におとし、半熟になったところでカツの上に盛り付ける。おすすめの食べ方は、卵を潰し、カツとライスをからめて食べるスタイルだ。

半熟卵の滑らかさ、衣にしみたタレとともに口の中に広がる。なぜこのスタイルを始めたのか。

野内の店主: 「先代がこの地域のカツ丼をまねて、自分なりに考案して始めたのが原点なんです」 50年ほど前、先代が別の店で食べたカツ丼をヒントにしたという。

目玉焼きのようなスタイルの理由は。 野内の店主: 「今でこそお店で販売することが多いんですけど、この丼のまま(昔は)おかもちで各家庭に配達しとったんですよ。来客があったりとか、催しの時に(出前を)頼んで、家で食べるというスタイルが多かったので、時間が経ってもおいしく食べられるっていうのがベースにあって…」 このあたりでは地域の人が集まる「寄り合い」が多く、出前を頻繁に取っていたため、冷めてもおいしい“目玉焼きスタイル”が受け入れられたのではないかという。

この日3回目の“出前エピソード”だ。

■中津川は「しょうゆかつ丼」 そばつゆをベースにとろみ加えた特性ダレ

 最後に東濃の一番端にある長野との県境、中津川市のカツ丼を調べた。

訪れたのは中津川市の「五万石」。 五万石の店主: 「中津川のしょうゆかつ丼といいまして…」 中津川市は「しょうゆかつ丼」だ。

そばつゆをベースにとろみを加えた特性ダレがかり、卵はなし。

これを揚げたてのカツにかけて食べる珍しいしょうゆ味の「しょうゆかつ丼」(900円)だ。

しょうゆのタレはスッキリしていて、カツが上品に。しょうゆ味にした理由を聞いた。 五万石の店主: 「西は名古屋のみそかつ丼、東は長野のソースかつ丼。(2大カツ丼に)挟まれている土地柄でして、(中津川でも)オリジナルのカツ丼を作りたいということになりまして」 西は愛知のみそカツ丼、すぐ東は長野のソースカツ丼と2大カツ丼に挟まれた中津川市。中津川ならではの名物カツ丼を作りたいと22年前に考案。

「そば処」でもあることから、そばつゆを使った「しょうゆベース」のカツ丼に。現在は市内約10店舗で食べることができる。

“オリジナルカツ丼”が多い岐阜県の東濃地区。五万石の店主は「(各店舗が)地元愛とのような思いから作ったんじゃないか」と話している。 2022年9月20日放送