岐阜県大垣市に、栗本来の風味や甘さなどが味わえると評判のモンブランを提供する洋菓子店がある。地元の栗を使った極上のモンブランを生み出すパティシエに迫った。

■「王子様とお姫様」のショーケースを飾る色とりどりのスイーツ

 岐阜県大垣市の洋菓子店「ロワ・エ・レーヌ」。

この店のモンブランには、驚くほどのこだわりが詰まっている。

作るのはパティシエの平野真也(ひらの・しんや 45)さん。

平野真也さん: 「やっぱりその1つの栗で全部を味わっていただきたい。(岐阜県山県市の)大桑(おおが)地区の栗なんですけども、農家さんのところに行った時に栗のにおいが立ち込めているんですよ。なんだこれ、すごいなぁと」  店名の「ロワ・エ・レーヌ」は、フランス語で「王子様とお姫様」という意味。見ているだけで食べたくなるケーキばかりがショーケースを飾る。

イチジクをふんだんに盛った「赤坂ほうらいしのタルト」(590円)や…。

「デリス・ルージュ」(436円)。

「シャインマスカットのタルト」(721円)など、色とりどりのスイーツが20種類以上並んでいる。

女性客: 「毎月1回くらいは(来る)。季節によっていろいろ変わるので、楽しみに来ています」 別の女性客: 「見た目がかわいいものが多いので。やっぱり、まず目で楽しんでからいただきたいので」 また別の女性客: 「地元の素材を使っていたりだとかするので来ちゃう」

■栗のおいしさを最大限引き出すために手間は惜しまない…決め手は2種類のマロンペースト

 平野さんの自信作「大桑のモンブラン」(632円)。

使っているのは岐阜県山県市大桑地区の栗で、大きな身と強い風味、ほのかな甘みが特徴だ。

平野さん: 「山県市にある大桑村ってところが、旧大桑村なんですけども。すごく甘みが強くてコクがある。栗の王様って言われてます」 味の決め手となるマロンペーストは、2種類を作りブレンドする。

1つめのペーストは、機械でおおよその皮を剥いた後、残った渋皮を手作業で徹底的に取り除く。

平野さん: 「これが入ると食感が…。口当たりが悪くなったり、口に残る。くちどけが悪くなってしまうので、これだけは取っています、必ず」 Q面倒くさいと思うことはないですか? 平野さん: 「そうですね。無心でやっているので、逆に好きですけど(笑)。もっとおいしくなるだろうとか、そういったことを考えていると、『ここのは取りたいなぁ』とか『ここの部分は旨みだろうな』とか、そういうことを考えながら。また、栗の状態もよくわかるんですよ、剥いていると。『あ、硬いなぁ』とか、『野菜みたいにシャキシャキしているなぁ』とか、そういうのも感じられるので、剥くことには意味がありますね」 砂糖は和三盆や水あめなど、4種類をブレンドして使用している。栗の風味を損なわないよう、甘さは控えめだ。

2つめのペーストは、1つめとは真逆で、鬼皮がついたまま15分ほど蒸す。

こうすることで、栗本来の「風味」などが、実に染み込むという。 平野さん: 「それが旨みだったり、雑みだったり、苦みだったりとか、そういったものが含まれているものなんですけども。鬼皮のいいところもありますし、ちょっとお酒っぽい香りもするんですね、鬼皮だけで蒸すと。鬼皮を外してしまうと、大切な大桑の香りがやっぱりちょっと抜けるようなところがあるんです。やっぱりひとつの国で全部を味わっていただきたい」 旬の時期しか味わうことができない栗のおいしさを最大限引き出すために、手間は惜しまない。

2種類のペーストを作って混ぜ合わせることで、複雑で豊かな自分なりのモンブランが表現できるという。

滑らかな食感とともに、栗の風味も感じられるよう微妙な粒感も残している。

平野さん: 「これでできあがりですね。テイクアウトなので、おうちに帰って箱を開けて食べていただくことまでを考えて、このかたさにしています」 マロンペーストができたら、いよいよモンブラン作りだ。 土台となるクッキー生地に生クリームを添え、予め作っておいた栗の甘露煮を乗せて、さらに上からたっぷりの生クリームを加える。

仕上げに自慢のマロンペーストを絞り、それらを包み込む。どこから食べても味のばらつきが出ないように、クリームの厚みを確認しながら均等に仕上げていく。

栗本来の豊かな香りと繊細な食感、異なる2種類のマロンペーストを合わせることで生まれる、深く複雑なおいしさ。

他にはない奥行きのある甘さが、食べる人を虜にする。

■もう1つの看板スイーツは父から受け継いだ“チーズケーキ”

 平野さんは名古屋出身で、製菓の専門学校を卒業した後、神戸や福岡の洋菓子店で修行し、結婚を機に、妻の故郷である大垣市に店を開いた。

慣れない土地で心強い味方になってくれたのが、地元の農家だ。大桑地区の栗も教えてもらった。

平野さん: 「13年やってきたんですけど、たくさんの農家さんたちと知り合えていろんなことを教わって、フルーツの使い方とか、食べ方とか、そういったことをいろいろ教えていただけるんですね。何が強みかと言ったら、地域の農家さんとかとの出会いだし、そういったお付き合いが僕のロワ・エ・レーヌの強みにもなっています」 ロワ・エ・レーヌには、モンブランの他にもう1つ看板スイーツがある。ふっくらとして滑らか、そして豊かな香りがたまらないチーズケーキ「窯出しチーズ」(194円)だ。

女性客: 「くどくなくてさっぱりしていてペロっと食べられる」 別の女性客: 「すごく滑らかでおいしいです」 また別の女性客: 「あっさりしているけど、コクがあってミルキーっていう。おいしいです」 父親から受け継いだ大切なチーズケーキだ。

75歳になる平野さんの父・庄造さんは、今も名古屋市西区で「シャンティーヒラノ」という洋菓子店を営んでいる現役のパティシエだ。

平野さん: 「プライベートになると風呂あがりとかに、パンツ一丁で階段に座って、階段の前に本棚があるんですけど、その本棚からケーキの本を取り出して、じっと読んでいるんですね。あの歳になっても本を読み続ける、インプットし続ける、アウトプットし続けている。その姿勢、姿はずっと見てきました」 いくつになっても学びを止めない父の背中を見てきた平野さんも日々、勉強を重ねている。

■息子の新作を試食した父「おいしいね」 切磋琢磨するパティシエ親子

 2022年10月、平野さんは店の看板であるモンブランをさらに進化させた。

モンブランをセロハンで囲い、上に粉状にした栗をたっぷりと乗せた。

囲いを外すと、その栗粉がケーキの周りに広がる「栗粉モンブラン」(762円)だ。

新作の出来を確かめるため、平野さんは仕事終わりで名古屋の父親の店へ向かった。 平野さん: 「モンブラン持ってきた。新しいやつね」 庄造さん: 「食べたかった」 平野さん: 「こういうやつ」 庄造さん: 「これか、食べていい?」 平野さん: 「どうぞ」 庄造さん: 「こういうモンブラン初めてだね…」 平野さん: 「岐阜に栗粉餅というのがあって、そういう感じもプラスした」

庄造さん: 「うん、おいしい。栗の味、すごいね。ふーん、おいしいね」 緊張していた平野さんの表情が、ホッとして笑顔に変わった。

平野さん: 「まぁうれしいですね。おいしいってあんまり言わないので」 庄造さん: 「努力しているのがわかるから、それが身を結んでくるとね、やっぱり僕も嬉しいよね。いろいろ考えてやっているなって思うと、こっちもいろいろと考えなきゃあかんなって思うんだけど…」 2人は刺激を与えあい、切磋琢磨を続けている。

常に学び続ける姿勢と、その土地ならではの食材を最大限に生かす工夫。平野さんはこの2つを大切にして、これからも作り続ける。 平野さん: 「おいしいものを加工して、それをたくさんの人に食べていただくっていう、作る責任というのも感じながら、それを農家さんのところに持っていった時に、『こんなにおいしくしてくれたの?』って言われた時には、本当にうれしいですし。それがまたお客さまに伝わっていけば、本当にこれ以上ないですね」 2022年11月8日放送