検挙された人が再び罪を犯す再犯者率は、2020年に過去最多の49.1%となり、そのうち約7割の人に仕事がありませんでした。社員15人のうち9人が“元受刑者”という愛知県東郷町の運送会社を経営する女性社長は、「サポ―トあれば救いになる」と受刑者たちの雇用を続けています。

■「サポ―トあれば救いになる」…元受刑者の雇用を続ける運送会社の女性社長

 ピンクの車体のトラックに、ピンクのハンドル。

愛知県東郷町の運送会社「コウエイ物流」は、村上結美さん(41)が経営しています。

この運送会社の社員15人のうち半分以上の9人が過去に罪を犯し、刑務所に収容された経験を持つ“元受刑者”で、その罪は殺人や傷害致死、性犯罪などさまざまです。

青木さん(仮名): 「ウインカーよし」 村上さん: 「異常はありませんでしたか?」 青木さん: 「オイルも水もゆるみも、全部確認しました」

出発前の車両点検。エンジンルームの中まで、一つ一つ丁寧に確認する男性は、1年半ほど前に入社した青木さん(仮名・43)です。青木さんもまた“元受刑者”の一人で、服役すること6回、その年月はあわせて12年に及びます。 青木さん: 「最初に(刑務所に)入ったのが26歳の時で、窃盗、万引き。1回捕まって、執行猶予で出られたけど、1か月経たずして捕まっちゃって、実刑判決くらって刑務所1回目。(万引きは)何回どころじゃない、何百回、何千回。毎日のようにやっていた」

村上さんは、なぜ元受刑者を採用しているのでしょうか。 村上さん: 「まず『協力雇用主』だったらやってみようかなって…」 元受刑者などを雇い、更生に協力する「協力雇用主」。2012年に、東郷町でコウエイ物流を設立した村上さんが「協力雇用主」に登録したきっかけは、近所の人から犯罪からの立ち直りを支援するボランティア活動に誘われたことでした。村上さん自身は、過去はあまり話しませんが…。

(村上さんとのLINE) 「若き頃いろいろな経験をし、人様にご迷惑をかけることも。それが今の糧だと思います」 と、LINEしてくれました。

村上さん: 「サポ―トできる人が一人でもいれば、何かの救いになる。(協力雇用主に)なれるかどうかわからなかったですけど、正直私もわからないことばかりですから…。不安ながらやらせていただきました」

■「受刑者の集まりの方が仕事はやりやすい」…真面目に働く元受刑者の男性

 村上さんは、社員と日ごろのコミュニケーションを欠かしません。 村上さん: 「睡眠もバッチリですか?8時間くらいは寝ていますか?」 青木さん: 「8時間くらい…。それ以上寝ています」 青木さんは、なぜコウエイ物流に就職したのでしょうか。 青木さん: 「普通の前科前歴の無い人とやると、自分は隠して仕事しないといけない。それ(前科)がいつバレるかわからないので…。ビクビクしながらやるより、こういう受刑者というかそういう人の集まりの方が仕事はやりやすい。頭には親の顔が浮かんでいるので、そこを意識しながら生活しています」 働き始めて1年4か月、再犯には至っていません。

村上さん: 「すごく反省する子。仕事で何かあったとしても反省して、次に生かそうという前向きな姿勢がある」

■再犯者率を下げるのに重要なのは“出所前の就活”…すぐ働き出せることで再犯を防ぐ

 罪を犯し検挙された人のうち再犯した人の割合を示す再犯者率は、2020年には過去最多の49.1%を記録。そのワケは、出所後の“空白の時間”といいます。

名古屋刑務所の担当者: 「仕事を探している、仕事をしていないブランクがあると、そこでまた罪を犯してしまったり。出所後すぐに働く、動き出すのがすごく重要」

再び罪を犯し刑務所に入る人の約7割が無職のため、再犯防止の鍵を握るのは“出所前の就活”です。2016年には、受刑者らの就職を支援する法務省の機関「コレワーク」も新たに設置されました。

 2021年7月、村上さんは受刑者の雇用を検討している企業向けの説明会に招かれました。 村上さん: 「一般求人の子でもそうですが、ルールが守れないとかがあれば、もちろん叱ります。ただ一般求人の子よりも敏感。やっぱり孤独というか、負い目を感じているので」

企業からは…。 企業の担当者: 「再犯歴とかわかりますか。(刑務所を)1回出たけど、もう1回入っているとか。出てまた罪を犯してっていうと…」 コレワークの職員: 「再犯歴は大体わかるんですけど、お伝えすることできない」 企業の担当者: 「そこがリスクだなと思って…」 コレワークの職員: 「あと罪名に関しては当然お伝えすることができなくて…」

説明会が開かれてから10か月近くたったものの、採用まではなかなか至らない企業がほとんどです。 名古屋刑務所の担当者: 「罪種とかで『うちは受け入れが難しい』と言われて、マッチングしないケースも多々あります」 コウエイ物流には、2021年7月以降にすでに5人の元受刑者が入社。さらに、あと2人の元受刑者の入社も決まっています。

村上さん: 「我々がそれを決めてしまったら、いざ働きたいと思っても、結局社会が認めてくれていないっていうことになっちゃう。できる限り私は制限せずに、面接したとき本人がどれだけ更生する意欲があるかにかけています」

■「社長に恥をかかせたくない」…1000万円貯めて故郷に戻る事を目標に働く元受刑者

 コウエイ物流で働く青木さんは、久しぶりに実家に帰る計画を立てています。 青木さん: 「弟とか兄弟は、なるべく接点ないように汲んでるとは思うけど…。子供もいるし、自分がいきなり出て、『この人誰?』って言われて、『何で今まで顔出さなかったの?』って言われると、自分もなんと言っていいかわからない…。『どこか遠いとこ行って、出張行ってた』って言うしかない」 村上さん: 「過去のことより今のことの方が大切だから」

そんな青木さんは、1000万円ほどお金を貯めたいと話します。 青木さん: 「自分は向こう(実家)に一軒家があるので、家のまわりのコンクリ舗装の費用、それに充てるための貯金」 ふるさとに戻って、叶えたい目標です。 青木さん: 「多少、自分も変わったのかな…。ここまでしてくれる社長は、今まで何社か辞めていますけど、そういう社長はなかなかいなかったので。恥をかかせたくないというか、迷惑はかけたくない」

■「再出発をしたのだから普通の人生を歩んでほしい」…元受刑者を雇用する村上さんの思い

 2022年3月に、現在も服役中の50代の男性受刑者が、コウエイ物流に職場体験にやって来ました。

村上さん: 「私が今まで色々な新人さんに言ってきたことですけど、まず慌てない。慌てず、焦らず、慎重に」 受刑者の男性: 「慌てず、焦らず、慎重に…」 村上さん: 「今まで運送会社でお勤めしたことないと、お聞きしていますけど」 受刑者の男性: 「あります、30代の頃なんですけど。昔やっていたことをちょっとだけ思い出してきた」

出所して普通に働くイメージを持ってもらえれば…。村上さんにとっても、初めての職場体験の取り組みでした。 村上さん: 「せっかく人生の再出発をしたわけですから、まず自立をして家庭持ってもらったり、普通の幸せを歩んでもらいたい。(社員に)お子さん生まれたときなんかは、私もうれしくてしょうがなかったので。こんな小さな一企業が受け入れたところで、そんなに(再犯の)数字が変わるかって言われたら、そうではないかもしれないけど、私はそのままやり続けたいと思っています」

村上さんの目の前にあるのは、社員の笑顔です。