清流・宮川が流れる三重県大台町にオープンした和菓子カフェは、地域で愛された老舗和菓子店の伝統の味を引き継いでいる。店のオーナーは、田舎暮らしがしたいと名古屋から移住した家具職人だ。

■家具職人から菓子職人に 「田舎暮らし」をしたいと辿り着いた大自然

 三重県の南部を流れる「宮川」。四国の四万十川などと共に、国内屈指の清流として知られている。

その宮川の源流があるのが大台町だ。豊かな自然に囲まれていて、名古屋市とほぼ同じ面積ながら、人口は270分の1の9000人弱。

 大台町の中心からさらに奥、車がないと訪れることも難しい集落に、2021年9月にオープンしたのが「和菓子カフェ かなみどう」。町の90%が山林という場所にふさわしく、木がふんだんに使われていて、周りを清流が流れる癒しのスポットだ。

地元の男性客: 「やわらかい。おいしいな、やっぱり。嫁さんに内緒で食うのはうまい。一緒に来たら、これどっちかやな、2つはない。地域に密着した店を出してくれるのは、本当にありがたい」

観光できた女性客: 「インスタで知りました。自然に囲まれていて癒されます」 提供する和菓子は全て自家製。保存料を使わない手作りにこだわった素朴なスタイルで、オープンから1年たたずして地元の人たちを虜にしている。

 多い時には大台町に7軒あったという和菓子店だが、今ではここを含め2軒だけになった。過疎化が進む地域に新しくできたこの店のオーナー、保木正志(ほき・まさし)さん(43)。慣れた手つきに見えるが、実は…。

オーナーの保木正志さん: 「ずっと家具職人で家具の仕事をしていました」 3年前までは、名古屋で「木」のオーダー家具を作る職人をしていた。

カフェで使われているイスや机も、自らの手で作ったものだ。

デパートや飲食店からの注文もあり、順風満帆な生活を送っていたが、3年前に突然仕事をやめ大台町へ。「田舎暮らし」をしたいというのがその理由だった。

保木さん: 「奥の方へ行くとすごく景色がいい。今まで見た事がない自然を味わえるのが大台町っていうところ。そういう魅力に惹かれました。ただやはり仕事が田舎は少ないし、経済的に移住しても難しいとお聞きしていたので」

■経験ゼロから夫婦で弟子入り 分野は違えど同じ「職人気質」で独自の工夫も

 そんな時、耳にしたのが町で100年以上続いていた和菓子店「法菓堂(ほうかどう)」が廃業するという話だった。

法菓堂店主の巽典生さん(たつみ・すけお 80): 「80歳近くになってきた事もあって、なかなか体力的にもえらく(きつく)なってきたし…」

町の人たちに愛されてきた老舗をなんとか継続させたいと、役場などが事業を受け継いでくれる人を募集したところ、食べ歩きをするほど和菓子が好きだった保木さんが採用された。 経験ゼロから弟子入りし、40歳にして新たな修業が始まった。 巽さんの妻・恭子さん(78): 「昔のやり方では今は通じないので、自分で勉強しないといかんよと」

分野は違えども、同じ職人の仕事。保木さんは、法菓堂の巽夫婦に教えを請いながら、独学でも菓子を研究し、腕を磨いていった。 恭子さん: 「一所懸命に調べたり、おいしいものを食べに行ったりして、努力してました、すごく」  その姿をそばで見ていた保木さんの妻・絵里子さん(42)は…。

保木さんの妻・絵里子さん: 「家具職人の時もひとつひとつ積み重ねて頑張っている姿を見ていたので、職人さんのような仕事が合っているのかとは思っていたのですが、ただ場所がかなり山奥なので心配したんですけど、やってみるしかないなと思って」 絵里子さんも、これまでずっと続けてきた介護士を辞め、夫婦2人で和菓子作りを学ぶことに。

 そして2021年9月、「法菓堂」の廃業と同時に、その味を受け継いだ店をオープンさせた。

■地元食材で新商品も 週3日は仕込みと試作の日々

 経験が少ない分は努力でカバーする。営業は週に4日だけとし、火・水・木の3日間は仕込みと試作の日に当てている。

自ら新メニューも考案した。地元でとれた完熟ブルーベリーをふんだんに使った「ブルーベリー大福」(1個300円)は、レモンの汁を加えた白あんとの相性がバツグンだ。

洋菓子のテイストを取り入れた「チーズ饅頭」(1個180円)は、国産とオーストラリア産のクリームチーズをブレンドし、サクサクの生地で包んだ。

夏にあわせてカキ氷も始めた。自家製のこし餡と白玉、寒天をトッピングして、きな粉と地元で作ったほうじ茶の粉末をかけた「ほうじ茶かき氷」(600円)。

保木さん: 「和菓子を作っている中でも、失敗した中に成功があるので、失敗が怖いからできないじゃなくて、まずはやる。自分で考えて評価してダメだったものはダメだし、うまくいくものはうまくいくし」

■「法菓堂」の名物羊羹も販売 手間暇かかるレシピを忠実に継承

 もちろん、力を入れているのは新作だけではない。この日作っていたのは、お中元用の羊羹。事業を受け継いだ「法菓堂」の名物として、地域で愛されてきた逸品だ。白あんや寒天、砂糖など使う材料やレシピを忠実に再現した。

保木さん: 「だいたい1時間ぐらいでだんだんと泡がなくなってくるので。法菓堂の店主に言われているのが、なるべく水あめを入れたら火にかけない」

最後に食紅を入れてほんのりピンク色にしたら、ここからがこの羊羹の一番の「肝」だ。2日間乾燥させて、表面の糖分を結晶化させる。

保木さん: 「結晶化させるためにも40度ぐらいの気温と湿度が50%以下、7月とか湿度が高い時は2日乾燥させないと結晶化(しない)」 今回は、雨が多かったこともあり、乾燥は3日間に及んだ。

 100年以上に渡り受け継がれてきた、「法菓堂」の練り羊羹が完成。乾燥させた表面に糖分が結晶化し、パリッとした食感と、さっぱりとした味わいを生み出している。

乾燥に時間がかかるため、全国的にみても珍しいという町自慢の和菓子だ。

「練りようかん(要予約)」(1本800円 1/4サイズ200円)

■100年続いた味を引き継いだ保木さん「過疎化が進む町を守っていきたい」

 この日、廃業に伴い引退した法菓堂の夫婦が来店。保木さんがこの練り羊羹を店で出していると知り、食べにきてくれた。

法菓堂店主の巽さん: 「いい色だ」 保木さん: 「昔の法菓堂の羊羹はもっと赤かったよね」 巽さんの妻・恭子さん: 「おいしい。久しぶりに食べたらおいしい。あっさりしとって。味は一緒」 巽さん: 「(法菓堂の)そのままの味も出とるし、とにかくうれしいですよ。羊羹だけじゃなく、いろんなお客さんの注文があるじゃない。それが途絶えてしまうのが、自分では耐えられなかったから」

100年続く味をしっかり引き継ぐことができたようだ。  保木さんは今後、和菓子だけでなく過疎化が進むこの地域を守っていきたいと話す。

保木さん: 「何か力になればと思って、まずこちらに店を出して成功する。移住してもこういう風に生活できるんだという、モデルみたいな感じになれればいいなと思っています」