愛知県一宮市を中心とした毛織物の産地を「尾州」というが、輸入商品に押されるなど衰退の一途を辿っている。そんな「尾州毛織物」を若い人達に広めるため、「尾州」の生地でロリィタ服を作っている女性に密着した。

■「残していかなきゃいけない」…質の高い「尾州毛織物」をロリィタ服に

 リボンやフリルがたっぶり付いた「ロリィタ服」を身に着け、商店街を歩く女性。愛知県一宮市出身のショコラさん(31)。

ショコラさん: 「大体はロリィタ服を着ていることが多いですね。15歳ぐらいから16年くらい着ています」 大学卒業後、民間企業で働いていたが、大好きなロリィタを気軽に体験してほしいという思いから2015年、故郷・一宮市に体験サロンを開いた。

ショコラさん: 「名古屋にロリィタ体験サロンがなかったので、学生時代、私もあるといいなとも思っていたので、それで最初アパートの1室をお借りして始めたのがきっかけです」 ロリィタ服に触れながら生活する日々の中、もう1つの思いが沸きあがってきた。 ショコラさん: 「おばあちゃんが尾州の機屋(はたや)さんの工場長の娘だった。オーダースーツを作っていたので、スーツを作ってみたいと思ったんですけど、私が一番着ている服といったらロリィタ服だったので、ロリィタ服にしてしまえばいいんじゃないかと思って」

 ショコラさんの地元・一宮市を中心とする尾州地域は、明治時代から毛織物の産地として発展。尾州の毛織物は紳士用のスーツなどに使われる、質の高い生地として知られている。

しかし、安い海外製品の輸入に加え、職人の高齢化などの影響で生産量が激減。衰退の一途を辿っている。

ショコラさん: 「本当にこの生地って大変な工程を経て、何人もの職人さんが関わって作っているので、残していかなきゃいけないもの」

■地元の百貨店にも常設コーナーが…“びしゅろり”に広がる「尾州ロリィタ」

 祖母も作っていた地元の生地で、大好きなロリィタ服を作りたい…。高級な尾州毛織物を使った「尾州ロリィタ」として、2年前にインターネットで販売を開始。すると、ロリィタ服好きの間でじわじわと広まっていった。

ショコラさん: 「愛称で“びしゅろり”っていうんですけど、“びしゅろり”で結構広まっていて。お客さん同士で、買った子たちが『かわいいカフェは尾州ロリィタにピッタリだから、ここに行こう』みたいな感じで」

地元の名鉄百貨店には、常設のコーナーも設けられるようになった。

百貨店の担当者: 「これだけ地元で世界に認められているものがあるのに、知らないのはもったいないですもんね」 ショコラさん: 「本当にもったいない、こんなにいい生地なのに」 1人でも多くの人に手に取ってほしい。そんな気持ちから、価格は最低限に抑えている。

経費削減のため、打ち合わせや商談などは、すべて1人で担当。

ショコラさん: 「休みはほぼないですね。でも自分の好きなものをこれだけやらせていただけて、なおかつ地元の生地も広められる事業は、いま私しかできないんじゃないかな。私がこれやめたら、ここで終わると思うんですよ」

■“世界一のロリィタ服”目指す「至高のブラックドレス」 デザインはロリィタ界のカリスマモデル

 ショコラさんには新たに掲げた目標がある。尾州ロリィタをもっと知ってもらうために、世界一の尾州生地で、世界一のロリィタ服を作ることだ。 そこで、ロリィタ界のカリスマモデル・深澤翠(ふかさわ・みどり)さんにデザインを依頼した。

デザイン画を元に型紙を作る。 ショコラさん: 「デザインを(業者に)提出して、仮のパターン作っていただいて、そこから修正、修正っていう…。なるべく生地に無駄が出ないようにお願いをして作っていただいています」

そして、「世界一の生地」として選んだのは…。 ショコラさん: 「ブラックレザーシルクウールです。光を集めて上品に光る生地なので、見たときにもう『これだな』って」 まるでレザーのような美しい光沢のある、「ブラックレザーシルクウール」。主に高級スーツに使われるというこの生地、様々なこだわりが詰め込まれている。

まず染色の段階では、深い黒を表現するため、ただの黒ではなく赤・青・黄色の三色を混ぜた染料を使う。

そして、三色の染料で染めた糸を使って、昔ながらの「ションヘル織機」で丁寧に織り上げた。

糸に空気を含みながら一本ずつ丁寧に織るため、生地自体が膨らみを持った弾力性が高く、着やすい服になるという。 織り上がった布に光沢を出す加工を施すことで、レザーのようなツヤのある美しい毛織物が完成する。この生地を贅沢に使って、ロリィタ服を作り上げた。 ショコラさん: 「『シュペルブ・ラ・ローブ・ノワール』という名前で、フランス語で『至高の美しいドレス』っていう意味です」

「至高のブラックドレス」。

8段にも重なった華やかなフリルや、胸元のバラの飾りが特徴で、光が当たるとつやつやと光る。

ショコラさん: 「すごくオーラのあるドレスだなと最初思って。代々、家宝にしていただきたいドレスだと思っているので、100年もつように生産をしていけたらいいな」

■消えゆく伝統を守りたい…少しづつ成果も

 ところが、いよいよ本格的に生産に乗り出そうとした矢先、大きな問題が起きた。 生地加工業者の担当者: 「これが“F1”という機械で、反物の表面にツヤをつける機械になります。工場移設に伴って、ちょっとこの機械が使う需要が少ないので、もう動かなくなってしまうんですね」 生地特有の光沢を出すためにどうしても必要な加工機が、稼働を停止することに。

結局「至高のブラックドレス」は、残った生地で織れるわずか5着しか作ることができなくなった。

生地加工業者の担当者: 「違う機械を使って技術的なことを駆使して、同じものを作れないか作業しているところです」 ショコラさん: 「尾州ではよくあること、といったらちょっとアレなんですけど…。なかなか存続できるものと、できないもの(がある)。一宮市民の私からすると、ちょっと寂しいなと」 徐々に消えゆく伝統的な尾州毛織物。どうにか食い止めようと、ショコラさんは活動を続けている。  ショコラさんは定期的に「尾州ロリィタ」の試着会を行っている。

価格は1時間1000円。普段は手に取りづらいロリィタ服を気軽に試してもらうことで、ロリィタの魅力や尾州生地の魅力をより多くの人に伝えようとしている。

女性客: 「今日はツイッターで見て」 ショコラさん: 「着心地めっちゃ良くて。90年前の織機で織っていて、90年前も同じものが出来上がっていて」 女性客(20代): 「(尾州ロリータの)名前だけは聞いたことがありました。軽くて着やすい。もっと重たいと思った」

女性客(60代): 「とてもいい素材で、この年齢でも着られるロリィタ服を揃えていただいていたので、一つの夢がかなったみたいな…」

あの「至高のブラックドレス」も試着できる。

女性客(20代): 「最初は興味本位で応援したいなってワンピースを買ってみたんですけど、本当にすごくいい生地で、それから“びしゅろり”の虜になってしまって。他にはないようなデザインも生地もそうだし、すごく印象的です」 小さな子供から大人まで、たくさんの笑顔が見られた。 ショコラさん: 「尾州毛織物を、尾州毛織物を作っている職人さんを守りたい、支えていきたいっていうのが目標。全国の方が尾州毛織物を『知ってるよ、その生地』『すごくいい生地だよね』って言われるのが最終目標というか。みんなで買ってもらって、産地を豊かにできたらいいな」

ショコラさんの活動は、少しずつ実を結んでいるようだ。 2022年9月13日放送