戦後まもない頃、台東区の隅田公園に「アリの街」と呼ばれた集落があった。廃品回収をする人たちがアリのように働きながら共同生活を送り、高度経済成長期になると姿を消した幻の街だ。地元でも知らない人が増えた歴史を語り継いでいこうと、二十一日から台東地区センター(台東一)で、約五十点の写真を集めた展示会が開かれる。

 「アリの街」は浅草・隅田川に架かる言問橋の北側にあった。堤防沿いの公園に、戦災で家をなくした人たちが小屋を建て、集めた鉄くずや布きれなどをお金に換える仕事をした。公園を管理する都から立ち退きを求められ、一九六〇年、集落は江東区の埋め立て地に移転した。

 写真展実行委員長の北畠啓行(ひろゆき)さん(77)=台東区東上野=は区内に生まれ育ち、アリの街の存在は耳にしていたが、どこにあり、どんな街だったかは知らなかった。昨年、ルポライター石飛仁さんの著書「風の使者ゼノ」を読み、関心を抱いた。

 戦後、全国各地で貧しい人たちの救済に尽くし、アリの街でも支援活動をしたポーランド人の修道士ゼノ・ゼブロフスキーさんのことを書いた本だ。ゼノさんとの出会いを機にアリの街に住み込み、二十八歳で病死した北原怜子さんは「アリの街のマリア」と呼ばれた。

 本を読んだ北畠さんは「幼いころ見た戦後の風景を思い出した」と言う。「苦しい時代の話はしたくないと思っていたが、アリの街は明るい希望を持って生きた人の記録でもある。風化させたくないと思った」。地元の有志で実行委員会をつくり、石飛さんが取材で集めた資料を借り、写真展を計画した。

 石飛さんと北畠さんとの共通の知人で、二人の仲介役になった実行委員の陶山(すやま)孝一さん(71)は「北原さんらには一方的に与えるだけではない、ボランティア精神の原点がある。今の子どもたちの心にも何かが芽生えてくれたら」と話す。

 写真展は二十三日まで。入場無料。二十一日は午後一〜六時、二十二、二十三日は午前十時〜午後六時。会期中は石飛さんも来場する。 (神谷円香)