横浜市長選で現職の林文子さん(71)はなぜ圧勝したのか。国政で自民への逆風が強まる中、横浜では民進が林さんを応援するか否かで分裂。与野党対決にならなかったことも一因だ。争点を隠す戦略や野党勢力の結集を図る思惑が交錯し、結果的に対決の構図を曖昧にした。 (志村彰太)

 「カジノで前向きな発言はするな。選挙で負けるぞ」。カジノに反対する世論が強まった昨年末、市議会定例会が終わった席で、民進のベテラン市議が市長の林さんに忠告した。十二月議会で林さんは、カジノを含む統合型リゾート(IR)の導入について「横浜の成長のために必要」と答弁していたためだ。

 この民進市議は「選挙で勝たせるため林にカジノは封印させる」と、自民市議団へも根回しした。自民市連の横山正人幹事長は年末、取材に「カジノは争点にしない」と言い切った。林さんは今年に入り「判断に至っていない」と姿勢を後退させている。

 民進の旧民主系市議たちには、林さんにこだわる理由がある。森敏明市議は「八年前、林さんを担いだ責任と義理、人情がある」と明かす。それに加え「市議会与党」を標榜(ひょうぼう)する旧民主系には、自公民の協力態勢の構築を目指す思惑もある。

 森市議は五月、八十六人の市議のうち、自公民を中心に七十五人の得票で市議会副議長になった。民主系会派としては四年ぶりの副議長ポスト。「相乗り」の構図は既にできていた。

 この流れを民進の江田憲司・党代表代行は許さなかった。「カジノに賛成する市長は代えねばならない」と、昨年末の定例記者会見で表明し、候補者の選定に入る。「カジノを争点にすれば勝てる」(江田氏に近い市議)と踏み、党勢拡大の機会をうかがっていた。

 市長選で毎回、独自候補を擁立する共産も今回は江田氏に協力する構えを見せた。次の衆院選をにらむ共産のベテラン市議は「野党共闘の大義のため」と強調する。昨年の参院選で神奈川選挙区は、与野党の候補者が乱立し、野党共闘は実現していない。

 ところが、江田氏の出馬の誘いに応じる人は見つからず、最終的に民進の横浜市議だった伊藤大貴(ひろたか)さん(39)に白羽の矢が立つ。伊藤さんは「市政課題を訴えて戦いたい」と主張。「野党共闘」の演出を優先する江田氏や共産系と交わることなく、市長選の選挙運動にも一体感はなかった。

 一方、一月に出馬表明した長島一由(かずよし)さん(50)は、早い段階から候補者の一本化に向け、知人を通じて江田氏に接触を図った。だが、関係者によると江田氏側の反応はなかったという。伊藤さんの出馬表明後、長島さんは江田氏側から「調整したい」と打診されたというが「今更遅い」と応じなかった。

 民進内の一貫性を欠く動きと、国政のうねりを市長選に持ち込もうとする流れは、現職へ正面から挑む新人候補者をある意味、置き去りにしていく。「政策で勝負したかったが、周りの状況と時間のなさが許さなかった」と、伊藤さんは悔しがる。

 伊藤さんを支援した民進市議は「江田さんは影響力を落とし、分裂選挙で会派は消耗。誰が得をしたのか。有権者に説明できない」とため息をついた。