多様性を楽しめる社会をコンセプトに、本を作り、世に送り出している。肩書はパブリッシャー。企画、編集、装丁、営業、何でもやるという意味だ。

 二〇一三年一月、フリーデザイナーの安藤順さん(51)と二人で、北区赤羽に立ち上げた出版社「ころから」。重い物を動かすときに下に入れて転がす「ころ」という棒が車輪に変わるようなパラダイムシフト(劇的な転換)を促したい。そんな思いを込めた。

 手掛けた本は、アジアのローカル列車旅での出会いを記録したフォトエッセー「ひとたび てつたび」(米屋こうじ著)、盲導犬や鵜飼いの鵜など、働く動物と人間との関わりをつづった「はたらく動物と」(金井真紀著)など。なじみのあるテーマを、これまでとは別の尺度で鮮やかに切り取ってみせている。

 一番売れたのが「九月、東京の路上で」(加藤直樹著)。タイトルだけでは何の本かわからない。それを狙った。テーマは関東大震災の時の朝鮮人虐殺。だがそれを明示すると「知っているからもういい」「関係ない」と思う人がいる。そう考えた。「表紙のデザインも、とことん話し合ったんです。それが小さな出版社の強み」と胸を張る。

 滋賀県近江八幡市出身。高校一年で目覚めるまで本を全く読まなかった。それに劣等感を持っていたが、本の素晴らしさを人一倍知ることにもつながった。

 早稲田大文学部時代、中央線沿いの個性的な書店に通い詰めた。「その店の本はみんな読む。書店と読者の幸せな関係があった」と懐かしむ。本と映画とバイトに明け暮れ大学は中退、NGO「ピースボート」で十五年間働き、知人に誘われ出版業界に飛び込んだ。

 原点は小学六年生の出来事だ。卒業式に中学の制服で出席する慣例に疑問を持ち、クラスで発言した。議論して「下は制服、上は自由」に決まった。

 中途半端だが、下を制服にしたのは、黒や紺色でコーディネートしやすく、華美にならないから。何も行動しなかった隣のクラスは上下とも制服のまま。「民主主義なきところにくだらない慣例が続く」と知った。

 「自分で思っているだけじゃだめ。民主主義は、隣の人に『これっておかしいよね』と言うことなんだ」と痛感した。「それを続けることが民主主義を守るための不断の努力」。これからも、出版を通じて実践していく。 (石原真樹)

<ころから> 最新刊は23日発売の「無冠、されど至強」(木村元彦著)。公式戦から排除され「影のナンバーワン」とされた東京朝鮮高校サッカー部(北区)の黄金時代のルポ。若い目線で戦争を問い直した「1945←2015 若者から若者への手紙」(共著)を国外に紹介するため、英、中、韓国語訳に挑戦中。