「スイングを見たら打球がどこに来るか分かる」と語るほど守備に自信を持つが、打撃には苦い記憶がある。2番を任された昨春は結果を出せず、秋には9番になった。

 「なんで打順が下がったの?」。試合の応援に来た親戚がかけた言葉に、母の有美さん(46)が悔し涙を流したことを知った。離婚して幼かった自分を女手一つで育て、高校では寮生活をしながらの野球を続けさせてくれた母。「二度と悲しませない」と決意した。

 それ以来、最後の夏に向けてチームの誰よりバットを振った。毎日の自主練習が終わるのは午後10時ごろ。あまりの練習量に、3日でバッティング手袋が破れたこともあり、手はマメだらけになった。

 「簡単にアウトを取られない9番になれば、チームに勢いが増す」と臨んだ今夏の県大会。努力は実を結び、通算打率は4割を超え、甲子園出場に貢献した。

 しかし初戦のこの日、3打席連続で無安打。七回表。3点を加え、なお2死一、三塁。「今までチャンスをつぶしているから次こそ」と気合を入れた。

 高めの直球を振り抜くと、右中間を深々とやぶる渾身(こんしん)の2点三塁打。ダメ押しの一打に「狙い通り。理想の打撃ができた」と笑顔を見せ、「母のために次も勝つ」と誓った。

 夢だった甲子園でプレーする姿をスタンドで見守った有美さんは「打ってくれてほっとした。日本一長い夏にして」と活躍を願った。 (牧野新)