草加市を南北に流れる葛西用水。昭和五十年代から市観光協会や市民らがソメイヨシノを植え始め、現在は四百五十本を数える桜の名所として市民の憩いの場になっている。

 異変は二〇一三年夏、前触れもなく訪れた。加納正行さん(82)が支部長を務める県生態系保護協会草加・八潮支部が葛西用水で開いた自然観察会。参加した児童が桜の根元に近い場所で黒く光沢のある昆虫を見つけ、「これは何の虫ですか」と加納さんに持ってきた。

 「私も初めて見る昆虫だった。目線が低い児童だったから見つけられたのだろう」。加納さんは昆虫を研究機関に届け、桜などを食い荒らす繁殖力の強い外来種の「クビアカツヤカミキリ」と判明した。一二年の愛知県に次ぐ国内二例目の発見だった。「まさか外来の害虫で、その後四年間も戦う相手になるとは予想だにしなかった」

 昆虫の正体が分かってから加納さんの日々の生活は一変した。カミキリの幼虫は樹木の内部を食い荒らした後、二〜三年かけてさなぎになり、夏場に成虫となって樹木の外に現れる。捕獲・駆除の最大のチャンスだ。支部のメンバー七、八人で手分けして毎日、葛西用水をパトロール。成虫を捕獲しては駆除を繰り返した。

 市へ助言してカミキリが樹木の内部から出ても飛び立てないよう樹木を防護ネットで覆う提案も実現。葛西用水沿いの住民も成虫を見つけたら捕殺する協力をしてくれるようになった。

 この四年間、加納さんらが葛西用水を中心に同市内で調査した樹木は約千五百本にも及ぶ。このうちカミキリに食い荒らされた約五十本は切り倒され、七十本に防除措置が施された。

 市や加納さんらの駆除活動の効果で、葛西用水での発生は沈静化したように見える。「たしかに用水周辺での被害は抑えられているが、市内の他の区域で新たな発生報告が続いている。まだ楽観はできません」

 カミキリの発見直後は、全国各地から昆虫マニアや業者らが葛西用水に集まり、駆除を進める支部会員らとの間でトラブルが頻発した。「彼らは最近はここへ来ない。用水周辺での発生が目に見えて減ったから。それと他にもっと捕れる場所が現れたからだ」

 カミキリは草加市で見つかって以降も生息域を広げ、各地で被害が拡大。県には今夏、行田、熊谷など利根川流域の自治体から発生報告があった。利根川対岸の群馬県東部では桜が枯死するなど被害が深刻化している。 (花井勝規)

<かのう・まさゆき> 1934年、東京都新宿区生まれ。東京教育大(現在の筑波大学)で林学を専攻し、卒業後は大手ゼネコン系の内装工事会社に入社。定年退職を機に公益財団法人埼玉県生態系保護協会に入会、環境教育や希少植物の保護、ナショナルトラスト活動に積極的に関わる。2004年に同協会草加・八潮支部長に就任、13年からは同協会副会長を兼務している。協会についての問い合わせは事務局=電048(645)0570=へ。