「互いに干渉しない新旧住民が入り交じった地域で、犯人が子どもを狙いやすい環境だった」「女児は異文化から来て、十分な安全教育を受けていなかったかもしれない」

 静岡県庁で五月二十二日に開かれた防犯ボランティア養成研修会。NPO法人「体験型安全教育支援機構」(東京都)代表理事の清永奈穂さん(47)は、ベトナム国籍で松戸市立小学校三年のレェ・ティ・ニャット・リンさん=当時(9つ)=が殺害された事件を挙げ、防犯上の課題などを解説した。

 参加したのは、日ごろ見守り活動などを続けるボランティアや元警察官など約三十人。六月一日から静岡県内の百十八の小学校で開く実践型防犯教室「あぶトレ!」で、講師を務める。

 研修会に参加した静岡県牧之原市の小関秋雄さん(74)は「子どもは地域の宝。地域のために、自分にできることをできる範囲でやりたい」と話す。

 「あぶトレ!」の特徴は、地域のボランティアが、子どもの発達段階に配慮して、犯罪から子ども自身で身を守る知識や方法を体験的に教えている点だ。

 例えば、怪しい人は、じっと見つめてきたり、しつこく話しかけてくるなど、見た目ではなく行動パターンで判断するよう子どもたちに教える。怪しい人にいきなり抱きつかれた場合には▽腕や手にかみつき、走って逃げる▽逃げ切れなかった場合も、お尻を地面につけてジタバタと大暴れする−などと伝えている。

 講座のテキストは、同機構が約二百七十人の犯罪者に聞き取り調査した結果が基になっている。怪しい人を見かけた場合、子どもたちに二十メートル以上、全力で走って逃げることを教えるのは、犯罪者が相手に二十メートル逃げられるとあきらめるという調査結果に基づいている。

 静岡県は二〇一三年度から同機構の監修で「あぶトレ!」の実施と講師の育成を毎年続けており、今年で六年目を迎えた。研修会での実技と座学を経て試験に合格した主任講師は六十六人。「あぶトレ!」は県内の全小学校の約半数に匹敵する延べ二百六十五の小学校で実施されている。

 静岡県によると、一八年度の百十八小学校での「あぶトレ!」実施費やボランティアの研修費は、計約二百六十万円。防犯ボランティアら人材育成を重点を置き、講座を受けるだけでなく、講座で得た知識を地域の人たちに還元できる仕組みづくりに力を入れる。

 千葉県によると、リンさんの事件を受け、県内では一七年度、県の補助金を活用して二百二十九台の防犯カメラが設置された。県警も一八年度中に、防犯カメラ五十台を松戸、千葉駅など五駅周辺で稼働させる。しかし、地域で子どもの命を守るための人材育成という面での動きは、静岡県に比べて鈍い。

 清永さんは「地域に住んでいる人が、地域の子どもたちを育てていくことで、持続可能な安全なまちをつくる」と強調する。「人づくりは時間がかかる。『あぶトレ』が実現できたのは、人づくりの歩みを止めなかった静岡県の揺るぎない哲学があったから。そうしなければ、事件の度にその場しのぎの対策を繰り返すことになる」と話している。 (黒籔香織)