医者を好み、医者と付き合い、結婚することを目指す。

そんな女性たちを、通称「ドクターラバー」と言う。

日系証券会社の一般職として働く野々村かすみ(28)も、そのひとり。

彼女たちはどんな風に医者と出会い、恋に落ち、そして生涯の伴侶として選ばれてゆくのだろうか?

医者とドクターラバーたちの恋模様は、一筋縄ではいかないようだ。

かすみは、慈恵医大の内科医・城之内(34)と初デートに行くが、病院からの呼び出しですぐにお開きになってしまう。一方、同期の里帆は、城之内の後輩・浅見(32)に誘いを断られる。

さらに、会社の同期・タケルのせいで落ち込むかすみを見かねて、里帆は城之内と3人でご飯に行くことを提案。そこで、医者へのアプローチ法を学ぶのだった。



苦悩するドクター・城之内


ああ、完全に僕はバカだな。

この間、久しぶりにかすみさんと里帆さんと、ご飯を食べたんです。

かすみさんとの初デートが序盤で終わってしまって、そこからリベンジしよう、しようと思っていたのですが、ちょうど研究論文の時期と重なってしまい、中々誘えず…。

ひと段落した頃、かすみさんからご飯のお誘いが来たんです。

「里帆と3人で」と言われたときには、がっかりしたような、でも少しほっとしたような気持ちでした。忙殺されていたせいで、恋愛に意識が向ききってなかったのでしょうね。

でも、3人でのご飯は、普通に楽しかった。

正直、2人との最初のお食事会では、警戒する気持ちがなくはなかったんです。医者という肩書き目当てか?と。

だから僕は、1対1のデートでも、必ず医者のデメリットを言うことにしています。そこで、相手の反応を見る。

もちろん、かすみさんにもそうしました。

けれど彼女は、純粋に僕の忙しさや体調を心配してくれているように見えた。そこで、僕の警戒はとけていきました。

前回の3人でのご飯のときも、かすみさんの少し意外な一面が見れた。

―恋愛の正解は、温かい気持ちになること。

彼女は珍しく、少し力のある声色でそう言っていて。この子はピュアで誠実なんだろうな、と思いました。

だから、ちゃんとした2回目のデートに誘おうと、約束を取りつけたのに…。

今日、僕はまた、ドタキャンをしてしまいました。


僕ら医者の本気の恋愛は、中々うまくいかない

ドクター・城之内が婚約を破棄した理由


当直を代わってくれと、同じ科の先輩に頼まれたんです。家族が風邪でダウンしてしまったからと。

当然、引き受けますよね。でも、だから僕ら医者は、恋愛が中々難しいのでしょうね。

5年前、29歳のとき。僕には婚約者がいました。



黒髪で華奢、笑顔がやわらかい女性でした。ご両親に愛されて育ったのでしょう、芯がありながら人を包みこむ優しさを持っていました。

2年半ほどつきあいましたが、僕の海外留学がきっかけで別れてしまったんです。

彼女には、結婚願望があったから。

当時27歳の彼女は、ご両親の願いもあって、年相応、あるいはそれ以上に結婚に対する気持ちが強い子でした。3年の記念日に入籍しようと、婚約もしていた。

けれどそんなときに、僕の海外留学が決まりました。

海外での学会発表が認められ、UCLAの研究室に留学できることになって。

医者には、現場で臨床経験を積みたいタイプと、研究に打ち込むタイプと大きく2種類います。

僕は後者。そのチャンスは絶対に逃せなかった。

けれど、医者の海外留学って、全く華やかなものではなくて。

学生として行くので奨学金は出ますが、決して多くはないですし、ましてや彼女を連れて行けるような生活は、ほぼできない。

待っていてほしいというのが本音でしたが、最低でも2年はかかります。30歳目前の女性に、何の保証もなくそれを強いることは、できませんでした。

彼女もまた、「待っていてほしい」と言わない僕を待つという選択はしなかった。

正確には、そう言わない僕の気持ちをくみ取ってくれたのだと思います。

結局UCLAには3年ほどいて、32歳でこちらに戻ってきました。

彼女は開業医と結婚をした、というのは風の噂で聞きました。幸せになってくれて、ほっとした。

一方で、あれほど理想だった彼女を手放してまで仕事を選んだ僕は、幸せになれるのか…と暗いトンネルに入ったような気持ちになったのも、正直なところです。

かすみさんは、久しぶりに琴線に触れた女性でした。でも僕はまた、同じ過ちを犯してしまうのでしょうか。



―今、何してる?『ブレス』に飲みにこない?

かすみの元にタケルから連絡が来たのは、城之内から2度目のドタキャン連絡が来た直後だった。

指定のバーは、代々木に住むかすみとタケルが時々飲みに行く店だ。たいてい里帆も一緒で、ふたりで行ったことはほとんどない。

―行こうかな。

返事をしてすぐに化粧直しを始め、15分後には家を出ていた。

複雑な、気持ちだった。


熱帯夜が男と女の日常を狂わせる・・・!?


引き込まれる、熱帯夜の迷宮パラダイス・・・


城之内の、2度目のキャンセル。

落胆するというよりは、なぜか妙に、冷静な感情が芽生えた。「ドクターだもの、しょうがないよ」と。

そんな折に、見計らったかのようにタケルから来た連絡。

―気まずいままは、嫌だし…。

はやる気持ちで向かいながら、どこかいいわけがましいセリフを考えていること自体が、今の自分の正直な感情のような気もした。

到着すると、タケルはすでに顔を少し赤くしながら、こちらに向かって手を振ってきた。

「この前は、ひどい言い方して本当にすみませんでした」

かすみが席に着くなり、タケルは妙に真面目な顔で頭を下げてきた。

本気で謝るとき、タケルはいつも敬語を使う。

「いいよもう、大丈夫。私にも原因はあるし…」

かすみは苦笑いしながら、返す。ほっとしたような表情で顔を上げるタケルは、やっぱりどこか憎めない。

「じゃあ今日は、とことん飲みますか!」

いたずらっ子のように笑みを浮かべるタケルと、グラスを鳴らし合う。

そこからは、お互いの色々な近況を話した。

同期のこと、取引先のこと。約1ヵ月ぶりの会話は尽きる気配がなかったが、恋愛については、今日はお互い1度も話題に出さなかった。

「そろそろ、行きますか。明日もあるしな」

そう言ってタケルがお会計に立ったのは、25時を回った頃だった。

受身のかすみはいつも、自分からお開きを言い出せない。だから、その合図にほっとしつつも、ほんのり寂しい気持ちにもなってしまう。

特に、タケルといるときは。

お会計をすませて外に出ると、むんとした熱気がふたりを包んだ。

「夜中でも暑いな。今日は熱帯夜だ」

少し前を歩くタケルが、だるそうにつぶやく。

「…あ、何か音楽が聴こえる」

かすみはそう言って、ふと立ち止まる。

近隣の住人が窓を開けてラジオをつけているのだろうか、「迷宮のパラダイス」というフレーズが聞こえる。

タケルが、かすみの方を振り返る。ふたりの目が合う。

ほほ笑むような、何かを伺っているような。タケルの表情からは、何を考えているのか読み取れない。

「…どうする?今から」

一瞬の沈黙の後、タケルがつぶやく。

「え?どうするって…」

かすみは戸惑いの表情を浮かべる。いや、正確には、そういうふりをする。

本当は今日、どこかでこうなることを予感していた気がする。

「うち、くる?」

あいまいな表情のまま、タケルは重ねて質問してくる。

「…行こうかな」

うつむきながら答えた。

―帰りたく、ない。

これは、熱帯夜のせいだろうか。

何かの歯車がそっと、狂い出す音がした気がした。


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ドクターと看護師の恋愛実態がセキララに…!