「結婚=ゴール」なんて考えは、古すぎる。

東京の恋愛市場は、結婚相手を探す女で溢れかえっているが、結婚はゴールではない。そんなものは、幻想だ。

吾郎、34歳。長身イケメン、東大卒、超エリートの企業法務弁護士。

吾郎いわく、結婚をM&Aに例えるならば、M&A実施の調印式=結婚式であり、PMI(買収実施後経営統合)=結婚後の生活となる。東京婚活市場において、PMI軽視の風潮は非常に強い。

とか言いながら、ちゃっかり英里と結婚した吾郎。しかし、彼のアンチ結婚主義は変わらないようだ。

引き続き、既婚者たちの結婚生活を、彼独自の目線で観察していこう。



「女の浮気」というものを、恐らくほとんどの男たちは、現実味のない、他人事だと思っている。

いくら世の妻たちの不貞が注目され、ドラマや小説でどれだけ話題を集めようとも、男の興味は基本的に、「奪う側」にしかない。

自分の女を「奪われた」情けない男など、交通事故か、たまたま通り魔に遭遇してしまった不運な被害者のような存在に等しく、“まさか”自分の身に実際に起こるものとは考え難いのだ。

男とは、そういう生き物である。

良く言えば、男は自分の女を信じている。彼女たちが自分に向ける愛情、優しい振る舞いに裏があるなど、疑いもしない。

しかし悪く言えば、それは根拠のない自惚れであり、女たちを軽視し、ただ見くびっているだけなのかも知れない。


吾郎が見てしまった、女友達の浮気現場とは...?

深夜の六本木一丁目。見てはいけなかった人妻の秘密


吾郎の住む六本木一丁目には、タワーマンションや低層ヴィンテージマンションがいくつも並んでいる。

都心でありながら緑も多く、静けさも感じられるこの近辺の雰囲気は、吾郎のお気に入りだ。

そしてそれは、ある日の仕事帰りに駅から緩やかな坂道をのぼり、梅雨の湿気を含み青々と茂った緑のトンネルを歩きながら、初夏の夜道を満喫しているときだった。

吾郎は偶然に、見るべきでない現場に遭遇してしまったのだった。

―あれ、弥生じゃないか...?

某高級マンションからひっそりと出てきたのは、吾郎の学生時代のサークルの同期である弥生だった。

スカーフで軽く顔を隠しているが、10メートルにも満たない距離にいる彼女の顔は見間違えようがない。隣にはラフな部屋着にキャップを被った男が寄り添い、弥生のためにタクシーを捕まえようとしている。

この男女の関係がどんなものであるかは、火を見るより明らかだった。

「あ...吾郎くん...」

同じくこちらに気づいてしまった弥生の顔は、みるみるうちに凍りついていく。

そう。彼女は人妻であり、旦那も同じサークルの1つ上の先輩なのだ。

吾郎は、5年ほど前の「コンラッド東京」での結婚式にも出席しているし、神田にある夫婦の自宅のホームパーティに何度か呼ばれたこともある。

言うまでもないが、吾郎の知る夫は、今彼女の隣にいる男ではない。あまり凝視はできなかったが、スラリと背の高い、少し若そうな優男風のイケメンだった。

吾郎は咄嗟の判断で、この信じ難い光景を見なかったことにしようと思い、くるりと踵を返してその場を離れた。

背後からは不穏な気配をたっぷりと感じたが、少なくとも、あの場に留まり世間話などする選択肢はなかったのだ。

さすがに動揺しながら夜道を進んでいると、スマホが振動しているのに気づく。相手はもちろん弥生だった。

―はぁ。

面倒なことになったと、吾郎は一人、大きく溜息をついた。


「私、ただ“好きな人”がいるだけ」


翌日。吾郎の弁護士事務所近く、有楽町の『COVA TOKYO』に姿を現した弥生は、バツの悪そうな、怯えた表情をしていた。



「...昨日のことは見なかったことにするから、安心しろ。口止めなんて考えなくていいぞ」

ベージュのスーツに水色のブラウス姿の弥生は、白い肌になかなか整った顔立ちをした女だ。

結婚後も某外資メーカーの役員秘書をしているそうで、控えめながらも年相応の気品と余裕が漂っているから、まさに“満たされた妻”だと思っていた。

「...吾郎くん、私が何してたか、分かってるでしょ?叱ったり、事情聞きたいんじゃないの?」

「いや...まぁ、人にはそれなりの事情があるんだろ...」

すると弥生は、急にムキになった様子で言った。

「事情?そんなものないわ。私、ただ“好きな人”がいるだけよ」


支離滅裂な妻の主張。不満なき妻の欲望の正体は...?

手に入れた完璧な幸せに、自らヒビを入れたくなる妻


弥生の夫は、東大卒で日系のシンクタンク系コンサルティングファームに勤めるエリートだ。

少なくとも吾郎にとっては、夫婦仲は順調そうに見えたし、学生時代からの縁で結婚に辿り着いた男女というのは何となく“まとも”な感じがする。

夫は愛妻家で評判だったし、弥生も昔から男を立てるのがうまい女で、賢い良妻そのものだった。

しかし、夫婦の内情というのは、外からは決して分からないものだ。弥生の夫も実はひどい亭主関白だとかケチだとかで、不満を溜めているのだろうと思った。

「吾郎くん、私が家庭内に不満があるから、外で憂さ晴らししてると思ったでしょう。男の人って、みんなそう。基本的に妻は欲求不満な生き物だと思ってるのよ」

「ちがうのか?それじゃあ、なぜ...」

「満たされてるのに、浮気なんかするのかって?じゃあ、世の既婚男性はみんな、満たされてたら奥様一筋なのかしら?」

なぜだか弥生は、普段の穏やかで控えめな印象とは程遠い、攻撃的な口調だ。開き直っているようにも、何かに憤りを感じているようにも見える。

「いや、男と女はちがうだろ...」

吾郎の頭には、ふと最近流行った不倫ドラマ“昼顔”や“あなたのことはそれほど”がよぎる。どちらも夫が無能で嫌な奴だったり、夫婦の情熱が冷めていたりするのだ。



「いいえ、同じだわ。人にもよるかもしれないけど、もっともらしい理由なんて、特にないのよ」

「それって、おまえ...」

「そうよ、タチが悪いでしょ。でも、たまたま好きな人ができちゃったの。あの彼、最近ちょこちょこテレビに出てる俳優なのよ」

吾郎が何も言えずに黙っていると、弥生は一人で喋り続ける。

「ちなみに私、夫とも相変わらず順調よ。愛してるし、愛されてるし、夜の方だってわりと仲良し。何にも困ってないわ。でも、どうしても彼に会いたくなるの。会いたい気持ちに、ネガティブな言い訳なんてないの」

弥生のセリフは支離滅裂のようにも聞こえたが、言わんとすることは、哀しくも何となく分かってしまう気がした。

良き妻、良き夫、恵まれた生活。あまりにも完璧な幸せを手に入れてると、逆に何かやらかしてしまいたくなる。そういった心理は、少なからず存在する。

美しいガラスを粉々に割ってみたい、真っ白なキャンバスに思い切り落書きしてみたい。幼い頃は、誰もがそんな悪戯に快感を持っていたはずだ。

そして大人になった今、手に入れた完璧な幸せに、自らヒビを入れたくなる妻がいる。

ただ、それだけ。その不可解な狂気には理由はなく、単に本能的に備わっている欲求なのかもしれない。コントロールできるか否かは、個人の力量だ。

「まぁ、何にせよ、旦那は傷つけないようにしろよ...」

そう一言発するのが精一杯だった。

「少なくとも、旦那にバレることはないの。男の人って、根本的に“事なかれ主義”でしょう。あ...、ごめん、新婚さんなのに。吾郎くんも気をつけてね」

弥生に言われ、「まさかウチに限って」と反射的に答えそうになったセリフを、吾郎はぐっと喉に押し戻す。

いつも笑顔で、吾郎へ全力の愛を注ぐ英里。今日は好物のカレーを作るとはりきっていた。

そんな妻が弥生のような闇を抱えているなんて、想像するだけでも恐怖であり、すぐに思考を止めてしまう。

だがひょっとすると、これが男の“事なかれ主義”なのかもしれないと、吾郎は背筋が少し寒くなった。


▶NEXT:7月23日 日曜更新予定
贅沢を覚えてしまった妻に苦悩する、高収入の外銀夫の厳しい現実


【これまでの結婚ゴールの真実】
vol.1:小遣いより高い保険料と毎月増えるルブタン...ポンコツ嫁に怯える夫
vol.2:夢のタワマン移住が裏目に...?豊洲カーストが生んだ、ボス猿嫁の実態
vol.3:妻への生活費を渋る商社マン。駐妻が直面した、ケチ夫の貧困恐怖
vol.4:妻の過去という「パンドラの箱」。知らぬが仏、女の裏の顔は...
vol.5:愛され妻の秘密。結婚願望ゼロ男を落とすため、プレゼン資料まで作る女
vol.6:月40万円でも足りない生活費。見栄っ張りな元モデル外銀妻の実態
vol.7:ルンバより低い、夫の家庭内カースト身分。自虐男の賢きサバイバル
vol.8:吐き気がするほど夫が嫌い?「旦那ツワリ」に巻き込まれた男の苦悩
vol.9:年収1千万の夫から貰う生活費はたったの7万円...?専業主婦は遠い夢
vol.10:「家事は女の仕事」温厚な会計士の意外な一面。我慢ならぬ妻は…
vol.11:「内助の功」破れたり。ワンマン経営者が妻を見限った、些細な事件
vol.12:酒に月30万?日本の悪習「飲みにケーション」が、家計を圧迫
vol.13:「商社マンじゃ勝てない...」夫のスペックで戦うマウンティング妻
vol.14:番外編:アンチ結婚主義者・吾郎がプロポーズを決断した、ある理由
vol.15:あえての“別居婚”で掴んだ幸せ。子連れ再婚を果たした、39歳の女
vol.16:DINKSはもう古い?エリート女が専業主婦に徹する理由
vol.17:嫁が寝るまで、帰りたくない。朝4時までTSUTAYAで過ごす夫
vol.18:駐妻フィーバー!異国で夫を支える妻が知った、イケナイ蜜の味