外資系投資銀行でバックオフィスを担う、有希、30歳。

港区の酸いも甘いも知り尽くした彼女に与えられた呼び名は、“港区おじさんコレクター”。

数々の港区おじさんをコレクションしていた有希のポートフォリオに突如として入り込んできた浩介によって啓一との苦い記憶を呼び起こされた有希。

しかし大輔の力強い助言により前向きな気持ちを取り戻すと、過去を清算し、新たなポートフォリオを組み始めることにする。

彼女は港区の完全紹介制パーティーで見つけた隆志と4人の男性の中から、ランチに行く男性を選抜した。


1時間のランチは入念な準備から


朝のオフィスで、有希は熱心にインターネットを検索していた。

今日は、先日の完全紹介制パーティーで出会った康孝とのランチの日。

「ディナーに行くまでの女性かは分からないが、興味はあります」程度で気軽に誘えるランチは、いくつかの話題をなぞっているうちに終了してしまうことが多い。

たった45分から1時間の短い時間しか過ごさないランチは、「楽しかった」と思わせるのが難しく、誘う難易度に比べて次につなげる難易度の方が高い。

それもあって、有希はランチの時こそしっかりと下準備をする。ランチでは、事前に2つか3つ話題を用意しておきたい。

まずは、「店」について。相手が指定してきた店の運営会社を知ることで、行ったことのある系列店を話題にあげたり、店のコンセプトへの共感を示したりすることができる。

今回康孝が指定してきたのは東京ミッドタウン内にある『六本木テラス フィリップ・ミル』。有希は先日行った『サンス・エ・サヴール』と、ひらまつ系列だという共通点を見つけた。

次は、「勤務先のビジネス」について。どんなに店のセンスが良く、一流企業に勤務していても、本人の中身が空っぽでは意味がない。

相手の企業のHPから会社全体が取り組んでいるビジネスを確認したい。外でネットワーキングをしている男性の中には、会社では活躍していないために外に出て偉そうにしている人もいる。

あえて「そういえば先日の日経新聞にこんな記事がありましたが、御社も取り組まれているんですか?」とひねりを加えることで、その人の社内ビジネスへの敏感度を確認できる。

最後の1つは「趣味」について。これは興味のある男性にだけランチの終盤に聞きたい。


ディナーにつなげる1時間のランチ・タイム。

ミシュラン2つ星を獲得したシェフと提携し、今年3月にオープンした『六本木テラス フィリップ・ミル』は昼下がりのマダムで溢れていた。

有希は、眺めの良い窓際の席に通された。

「有希さん、久しぶり。」

先に到着していた康孝が緊張した笑顔で出迎えてくれた。

「私ひらまつ系のレストランすごく好きで。このお店は、フィリップ・ミルとの提携1号店なんですよね。前回のパーティーの会場も系列店だったんですよ。」

有希は早速検索した内容を会話の糸口にする。

「そうなんですね。実はここランチ・ミーティングで来るだけで、個人利用では使ったことないんです。」

照れたような笑顔で康孝は白状した。どうやら康孝は自分の知っているお店の中からたまたまこのお店を選んだようだ。

【港区おじさんコレクション⑨】
名前:野崎康孝
年齢:39歳
職業:外資系コンサルタント



ディナーの3時間を差し出すのにふさわしい相手か見極めよ!




康孝は、華やかというよりは地味な印象で、先日のパーティーも友人が主催だからというので、なんとなく訪れたそうだ。

「そういえば、先日新聞の1面を飾っていた大手製薬会社の買収案件、御社も関わっていると書いてありましたけど、野崎さんもご担当だったりしますか?」

店の話題を終えた有希は、さっそく康孝のチェックを始めた。

「あれは、どちらかというと若手が頑張ってくれた案件なんですけどね。一応責任者を務めていました。関係者が多くて大変だったんですよ。」

謙虚な姿勢を貫く康孝は、パートナーとして数々のプロジェクトを監督する身で、兵隊として働く段階は卒業したようだ。

「月の半分日本にいないと、賃貸マンションがもったいないですよね?」

有希は質問を続ける。これは忙しい職種の相手にはうってつけの質問だ。年に10回以上海外に行き、月の半分以上日本にいないことがあっても、見栄を張ってタワーマンションに住んでいるコンサルタントも多い。

「実は会社から少し離れたところに友人と2人でシェア・ハウスしてるんだよね。」

この歳で2人暮らしには驚いたが、派手な金遣いはしていないことを確認できた。



「そろそろ行こうか。今度はゆっくりディナーに誘っていいかな?」

お会計を終えて立ち上がった康孝に有希は、最後の話題を投げかけた。

「是非誘って下さい。そういえば野崎さん、何かスポーツされてます?鍛えてるように見えます。」

忙しい職種の男性ほど健康維持のためにスポーツをしていることが多い。仮にしていなかったとしても褒められて嫌な男性はいない。

「実は最近クロスフィットをしているんだよね。」

3時間のディナーの最初の話題は、「クロスフィット」で決まった。


次のステップに進む前に押さえておきたい3つのこと。

康孝がディナーの場所に選んだのは、有希の「ひらまつ好き」の発言に忠実に『アルジェントASO』だった。

3時間のディナーでのミッションは、相手の「衣食住」についてチェックをすること。デートを重ねてからNGなことが出てくるよりも、悪いことは事前に知っておきたい。



月収-(ファッション代+食事代+家賃)=?。




「私もReebok CrossFit Roppongiのトライアルクラスに行ってみたんですけど、結構辛いですね。」

有希は、早速クロスフィットの話を糸口に口火を切ると、前菜が来るまではおススメのジムの話や、ジムに行き始めたきっかけの話で盛り上がった。次に有希が口に出したのは「洋服」に関する話題だった。

「野崎さんって、先日もイニシャルのついたシャツ着てましたけど、こだわりのブランドとかあるんですか?それとも全部オーダーメイドですか?」

男性が日常のファッションでお金をかけるのは、「スーツ」「靴」「時計」の3つ。時計は1度買ってしまえば長く使えるが、スーツと靴は消耗品だ。

「そうだね。知り合いのところで安くお願いしているんだ。あんまりスーツにも私服にも興味が持てなくて。店員さんのおススメを買うことが多いかな。」

有希は困惑した。衣食住の「衣」にも「住」にもお金をかけていない康孝は、レストランの選定方法を見てもあまり「食」にもお金を使っているようには見えない。

外資系大手戦略コンサルティング会社であれば新卒であっても月々の給与は50万円を下らない。家賃とスーツや靴などの消耗品、ジム代を差し引いたところで、康孝にはかなりのお釣りが出る計算だ。

―この人は一体何にお金を使っているのだろう。

有希は踏み込んだ質問をすることにした。

「野崎さんは、シェア・ハウスをされて、お洋服にもお金をかけないとなると、実は高級車とかに乗られてるんですか?もしかして彼女が浪費家とか?」

はにかみながら、康孝は意外な言葉を発した。

「車も洋服も住む場所もあんまり興味ないんだけど。実はギャンブルが好きで。年に何回かマカオに飛ぶんだ。長い休みが取れたらラスベガスもいいね。」



―これは、保留だ。

ギャンブル好きの男性はなかなか直らない。デートに進める前に浪費癖のある康孝の本性を知ることができた有希は、ほっと胸をなでおろすと同時に、パーティーで出会った最後の1人を思い浮かべていた。

有希の脳内評価:★★☆☆☆(5つ星中2つ星)
・謙虚な姿勢は好感が高く、社内での立ち位置、仕事の成果は素晴らしい。部下からの人望も厚く、今後も社内で活躍できる人材と考えられる。

・衣食住については非常に堅実。但しギャンブル癖があるのは難点。どの程度浪費するのか、どの程度貯金をしているのかについては確認が必要。

・もう1度ディナーに行って詳細を探っても良いが、ディナーから休日デートに進むには様子を見たい。


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休日デートでの急接近作戦。有希のポートフォリオ維持方法。